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「橋下劇場閉幕」で考える「憲法・国民投票」と「沖縄の民意」

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OKINAWA
Some 35,000 protesters raise their hands during a rally to protest against a controversial US airbase in Naha in Japan's southern island of Okinawa on May 17, 2015. Futenma US airbase has become emblematic of that ill-will since Washington announced plans to move it in 1996, hoping to ease tensions with the host community after the gang-rape of a schoolgirl by servicemen. But locals have blocked the move to relocate the base, insisting the facility should go off-island instead, harming relations | JIJI PRESS via Getty Images
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「大阪市廃止と特別区設置」をめぐる大阪市の住民投票は、5月17日に投票が行なわれ、僅差で「反対」が「賛成」を上まわり、大阪市は存続することが決まりました。反対多数が決まったとたんに、「橋下徹市長の政界引退」にのみ焦点をあてた報道が目立ちます。今回の論議を機に、「大都市の自治のあり方」を深めていく必要があると考えて、「『大阪都構想 ・住民投票』を世田谷から見つめると」(2015年5月5日)「大阪での熱い論戦 住民投票の現場から」(2015年5月13日) と2週続けてこのコラムに書いてきました。住民投票の翌朝、朝日新聞に掲載された片山善博慶応大学教授(元総務相)のコメントが的確に論点をまとめています。

大阪都構想は、スムーズな戦争遂行のために東京市を廃止して作られた東京都の制度を大阪に持ち込み、市を壊して大阪府に権限と財源を集めようとするものだ。住民に身近かな市町村にできるだけ仕事とお金を移していく分権改革の流れに反する。

大都市の戦略作りでも、横浜市などの意向を尊重する神奈川県のように、府の方が譲ればいい。賛成が多数を占めれば、都構想に伴う市の組織再編の話に大阪府がかかりきりになり、他の市町村への目配りがおろそかになる恐れがあった。

(2015年5月18日朝日新聞)

1万票余りの僅差でしたが、「大阪都構想」は住民投票による「反対多数」で止まりました。ただし、ぎりぎりまで結果のわからないほどに半数近い「賛成」が膨張していたことも見逃せません。「背水の陣」を際立たせた橋下市長の政治手法による争点の単純化による効果もありましたが、その土台にあるのは既得権に安住してきた「古い社会」への拒否感と、「現状維持」が劣化と縮小につながるという危機感だったのだと思います。

だから、大阪市が独立性を強めて、大阪府が権限を大幅に縮小する「改革案」でもいいはずですが、そのプランの持つ詳細な設計像よりも「とりあえず、古い制度は一度は壊してしまえ」というリセット願望とも結びついていたように感じます。橋下市長が今年1月15日の定例記者会見で「住民投票は憲法改正・国民投票の予行演習」と述べていることが、気になります。安倍首相がめざす憲法改正について、「憲法改正は絶対必要。できることがあれば何でも協力したい」として、大阪都構想・住民投票について「予行演習ですよ」と述べています。(大阪維新の会 2015年1月15日 橋下徹市長 定例会見)

決して橋下市長の思いつきでないことは、安倍首相側の情報からも読み取れます。

「大阪都構想」の賛否を問う17日の住民投票は運動の自由度が一般の選挙より高く、憲法改正に関する国民投票と似ている。安倍晋三首相に近い自民党中堅議員は「首相は国民投票の予行演習にしたいと考えていた」と明かす。ただ、物量による宣伝合戦となったことで課題も残した。

(5月18日毎日新聞)

テレビCMの回数や、ポスター、印刷物の総量に制限がないことは、共通していました。従来の選挙と大きな違いです。憲法改正・国民投票は、テレビCMは国民投票では投票日の2週間前までに制限されていますが、選挙や住民投票で禁止されている戸別訪問は国民投票では認められています。政党助成金を惜しみなく投下した維新側が、テレビCMの回数では反対陣営を圧倒していました。5月10日に大阪に入ってみて、資金力の差で勝つ維新側のキャンペーン力の凄さを感じました。しかも、橋下氏のキャラクターを前面に出したイメージCMの訴求力は広告技術の水準も高く、人間的な共感を無意識のうちに醸成します。

憲法改正・国民投票を想定してみると、現在の政権側に寄り添う陣営の資金力は維新の比ではありません。イメージ広告が朝から深夜までテレビで流れてくる、ネットを開くとバナー広告が目に飛び込んでくる、新聞には日替わりで折込みチラシが入るという今回の住民投票で維新が行なった宣伝戦を凌駕するマスイメージのコントロールが行なわれることは容易に想像出来ます。世論調査の数字は、こうして動きます。今回の住民投票が「憲法改正・国民投票の予行演習」だとしたら、客観的な判断材料の提供と冷静な判断が出来る投票環境について、さっそく議論を始めるべきだと思います。

もし、今回の住民投票の結果が僅差でも「賛成」が上まわったとすれば、「民意は示された」と橋下劇場の勝利を増幅していったのではないかと思います。ところが、たびたびの選挙で示された「沖縄県の民意」はどのように扱われているでしょうか。

大阪市の住民投票が行なわれた5月17日に、沖縄では5年ぶりの県民大会が3万5千人を集めて、那覇市セルラースタジアムで開催されていました。「戦後70年 止めよう辺野古新基地建設! 沖縄県民大会」には、翁長雄志知事も参加しています。

大会で翁長知事は「県のあらゆる手法を用いて辺野古に新基地は造らせない。日米両政府は『辺野古が唯一の解決策』というが、辺野古の新基地建設を阻止することが普天間問題を唯一解決する政策だ」と主張。さらに「沖縄は自ら基地を提供したことは一度もない。土地を奪っておきながら、普天間飛行場が世界一危険だから『(代替施設も)沖縄が負担せよ』ということが許されるのか。日本の政治の堕落だ」と、政府を強く批判した。(毎日新聞5月18日)

1995年に沖縄で起きた少女暴行事件によって、戦後長きにわたる米軍基地のあり方をめぐる議論が大きく動き、県規模では初めての住民投票である沖縄県民投票が行なわれたことを思い出します。

1996年9月8日(日)、米軍基地の整理・縮小と日米地位協定の見直しについて賛否を問う、県民投票がありました。9月8日の最終開票結果は、有権者数90万9,832人で投票率は59.53%、投票総数54万1,638票のうち有効投票は52万8,770票でした。有効投票のうち、賛成票48万2,538票、反対は4万6,232票でした。結果は、基地整理・縮小と日米地位協定の見直しに賛成が89.09%になりました。

沖縄公文書館

僅差であるどころか、圧倒的に「基地の整理・縮小と日米地位協定の見直し」が沖縄県民の民意であったことが示されました。大阪市住民投票とは、直接的な法定拘束力があるか否かの違いはあるものの「民主主義の選択」が軽んじられていいわけはありません。翁長知事の誕生もまた、沖縄県民の民意に他なりません。民主主義の例外はあってはならないはずです。

沖縄県民大会の翌日、「MV22オスプレイ」がハワイで着陸失敗事故を起こして、炎上し海兵隊員1人が死亡する事故が起きました。沖縄県の置かれている現在は、日本社会の未来像をどのように描くかに直結しています。

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