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「絶望と格差の壁」と「希望を語る言葉の力」

2016年05月17日 18時10分 JST | 更新 2017年05月17日 18時12分 JST
Ethan Miller via Getty Images
NORTH LAS VEGAS, NV - FEBRUARY 11: Actress America Ferrera talks to students at Rancho High School as she partners with Voto Latino to discuss the importance of young voters, including Latinos, participating in the civic process on February 11, 2016 in North Las Vegas, Nevada. Nevada's caucus for the Democratic presidential candidate is on February 20 and the Republicans caucus on February 23. (Photo by Ethan Miller/Getty Images)

「ハフィントンポスト」に、ブログを毎週掲載するようになって1年が経過しました。それ以前の3年間、現在と同様『太陽のまちから』と題したブログを2013年1月から2年4ヶ月間、朝日新聞デジタルで連載し、その主な記事を書籍『88万人のコミュニティデザイン 希望の地図のつくりかた』(2014年・ほんの木刊) にまとめました。

この1年間、いくつか大きな変化がありました。ひとつは、ブログの読者層が広がったことです。これまで40代以上の読者が中心でしたが、20代や30代の若者たちも加わってきました。先日も、「18歳選挙権」をテーマとしたシンポジウムで若者からの質問を受けましたが、記事を読んだ上での質問もありました。若い世代に言葉が届いていることが実感できたという点で嬉しいことです。

この1年で、もっとも多く読まれたブログは、『児童養護施設を出た「18歳の春」を孤立させない住宅支援を開始』(2015年9月29日) です。次に『児童養護施設から進学時に「基金で給付型奨学金」を創設」(2016年2月2日) が続きます。

児童養護施設や里親のもとを高校3年生で離れる若者たちが、社会的養護というシステムから抜けるにあたって「格差の壁」が大きくたちはだかっている点を是正しようという問題提起をこめた政策です。

4月1日に「世田谷フェアスタート事業」を発足させるにあたって、区内外に一般募金を呼びかける記事『児童養護施設を巣立つ若者たちの奨学基金の募金を始めます』(2016年4月1日) は、先のふたつのブログをふまえた告知記事でしたが、またたくまにSNSでシェアされて共有されていきました。5月13日現在で、寄付は50人から546万8000万円となりました。呼びかけに応じていただき、この事業を応援してくださった方々に、この場を借りて深く感謝します。

この募金は、区のホームページや、広報紙でも大きく宣伝しています。これまでのブログが社会的関心を喚起し、メディアにも報道されて、区民に好意的に受け入れられていると同時に、広範囲にこの事業を知らしめることができたと思っています。

「格差」「貧困」「若者」をめぐり、たくさんの情報が渦巻いています。問題を生み出している背景や社会構造の変化について言及している記事や論文には、なるべく目を通すことにしています。けれども、区長として私に問われているのは、どのように現実を「改善」できるかどうかの一点です。児童養護施設出身者の進学率が低く、また中退率がきわめて高いという現実を前に、「住宅支援」「情報交換のための居場所」「給付型奨学金」の3点で支え、財源には区の基金に加えて一般寄付を募るというスキームは、担当職員との間で練り上げたスキームです。

児童養護施設や里親のもとを離れる若者の数は限られている...「子どもの貧困」「若者にとっての格差社会」の現実はもっとすそ野が広いという指摘もあります。当然の視点だと思います。ただ、私自身の自戒をこめて言えば、国や永田町・霞が関で議論されてきた政策は、大きな投網をかけて世間の耳目を集め、やがて時間の経過と共に忘れられていくという類いのものが少なくありませんでした。

世田谷区フェアスタート事業は、対象者が少人数であれ、細かな網で確実に支えるスキームをつくることからスタートしています。事業の趣旨がさらに浸透して、奨学基金に寄せられる寄付金も継続していくことができれば、事業内容を充実・拡張することができます。「大きなことを言って、小さなこともできない」という政治・行政不信を裏返して、「小さなことを積み上げ、大きなことに向かう」ようにしたいと思っています。

「言葉の力」とは何でしょうか。私は「信頼」だと思います。発言は虚飾のない事実であることが必要です。ただ、それだけだと「現状追認」になりかねず、具体的に「現状改善への道筋」がきちんと見えることが力になります。最近で言えば、『バーニー・サンダースの言葉は、なぜ魂を揺さぶるのか』(2016年5月10日) にも大きな反響をいただきました。『バーニー・サンダースの勢いが止まらない 若者の熱い支持は世界を変えるか』 (2016年4月12日) を書いて以来、アメリカに登場した従来の政治スタイルをくつがえす「サンダース現象」に注目しています。

アメリカ大統領選挙・予備選挙で起きているドラマに着目することで、多くの未来へのメッセージを読み取ることができます。それは、気がついて見れば、まもなく参議院選挙を迎えようとする日本の政治の場から発信される「言葉の衰弱」を浮き彫りにすることにも、つながります。アメリカが陥っている格差社会の極限状況を手本にして、日本社会は変容してきました。「サンダース現象」は、否定するべき格差と絶望を聴衆と共有しながらも、一緒に「未来への扉」を開こうと呼びかけています。そこには、従来の既成政党の築いた特権層の閉鎖的政治空間を突き破る参加があり、若者たちとの協働がほの見えてきます。

私たちの社会には、否定すべき危機的な状況や、格差と絶望の壁があります。これでもかと批判し、憂慮する材料には事欠きません。とりわけ、若い世代が未来を奪われて潰されそうになっています。だから、ここからが重要です。 「だれかに期待する」「まかせて信頼する」「ましな方を応援する」という発想からでは、過去から続いてきた「政治ブームと不信の繰り返し」が今後も続くように思います。

「サンダースの言葉」が力強く響くのは、演説台を取り囲む聴衆たちが思い描く格差と絶望の壁への共通認識と、それを突き破り「未来への扉」を開こうとするムーブメントが起きているからではないかと感じます。指揮者ひとりでは、オーケストラの演奏が始まらないように、共鳴・共振する若者たちと共に「言葉の力」は異彩を放つようになったのではないかと感じます。

「言葉が衰弱する政治空間」では、破壊的言語が力を持ちます。破壊的言語が支配する政治空間がつくりだすのは、さらなる「絶望と格差の壁」です。「ぶっこわせ」と叫びながら、暮らしの土台となる雇用環境や社会保障を悪化させてきた「改革の連呼」が何を生み出したのかを可視化する必要があります。

「日本の政治の言葉を刷新する」ために、「サンダース現象」と対比しながら語り合う場も企画していこうと考えています。

スパイク・リー監督が作成したバーニー・サンダース氏支援動画。歌手のハリー・ベラフォンテや女優のスーザン・サランドンなど、著名人の支援メッセージとともに、若者たちの熱狂ぶりを伝えています。