厚労省「待機児童解消に向けた緊急対策会議」で「働き方改革」を訴える

子どもを大切にする社会に向けて、日本が生き返る残り少ないチャンスでもあると思います。
時事通信社

まず冒頭で、熊本地震について申し上げたいと思います。4月14日から16日を経て、今も熊本県を中心とした強い地震が続いており、亡くなった方や行方不明で捜索中の方が多数出ています。犠牲になった方々にお悔やみを、被害にあった方々にお見舞いを申し上げます。世田谷区は熊本市と交流自治体でもあり、募金や職員派遣などの支援を進めています。

「保育園落ちた」ブログに端を発した「保育園待機児童問題」の議論を受けて、3月28日、厚生労働省は緊急対策を発表しました。→「待機児童、緊急対策公表 114市区町村50人超 世田谷など、受け入れ拡大」(毎日新聞 2016年3月29日)世田谷区のように、待機児童の多い自治体は、子ども一人あたりの面積を0歳児5㎡から国基準の3.3㎡に変更し、1歳児を5人で見ている状態を国基準の6人に増やすようにとの「規制緩和」が目立つ内容でしたが、子どもの生命を預かる保育に責任を持つ立場としては慎重に対処したいと考えてきました。一方で、緊急対策の中には「自治体からの優良事例・課題・要望を受付」との項目があったので、世田谷区は3月30日の記者会見で3項目の要望を厚労省に提出することを発表しました。

4月18日、午後4時すぎから厚生労働省の大会議室で、塩崎恭久厚生労働大臣が招集する「待機児童解消に向けた緊急対策会議」が開催されました。待機児童が100名を超える60自治体のうち29人の市区町長と、その他自治体の職員が参加しました。塩崎大臣の挨拶の後、私も1182人の待機児童解消に取り組む自治体として発言の機会がありました。

私はまず、世田谷区では「世田谷区・保育の質ガイドライン」(2016 年3 月29 日「太陽のまちから」)を作成・公表し、保育の質を確保しながら量的拡大を図ろうとしていることにふれました。そして、待機児童解消に向けた近年の取り組みを紹介しつつ、国に対して緊急に「3つの提言」を行いました。

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待機児童解消に向けて、私が区長に就任した2011年から5年間で認可保育園・子ども園を47園新設し、保育定員を1万1265人から4600 人増やして1 万5925 人にの保育定員を増やしました。それでも、待機児童解消が困難なわけですが、その理由のひとつは、子ども人口の増加です。この5年間で世田谷区の人口は全体で3.7%増えましたが、未就学児は39837人から44224人と増加率は11%にのぼっています。さらに大きな理由は、認可保育園への入園希望者が、この5 年間で4407人から6439人と、実に46%も増加していることです。現在、さらに約40の認可保育園整備の準備をしていますが、待機児童解消の見通しをつけるために、以下の3点を提案します。

(1)自治体独自の認可外保育施設への支援

0歳から5歳までの子どもを受け入れることができる認可保育園整備を中心に対策を進めていますが、開園までには2 年間の期間はかかり、周辺住民との調整や説明が続けばそれ以上の期間になります。

一方、待機児童の大半を占める0歳から2歳までの子ども受け入れるため、認可外の認証保育所・区独自の保育室等の設置・運営を独自に推進していて、総定員中2,358人を預かるなど大きな役割を果たしています。認証保育所・保育室等の施設整備は、整備間が半年から1 年と、(認可保育園に比べて)スピーディーに整備ができますが、子ども・子育て新制度に移行していく施設を除いて、財政支援の対象外となり、新設がぱったり止まった状況です。

新制度の対象外となったことから、これまで0歳から2歳までを受け入れてきたこれらの保育施設の新たな整備が進まなくなっているのです。現在の「5 年以内に新制度へ移行という要件を緩めて、現在の認可外施設や新設園も含めて財政支援の対象にしてもらいたいと要望します。認可外の認証保育所・区独自の保育室等が0歳から2 歳の保育を受け止めて、3 歳以降は認可保育園へつないでいくことで、実効性のある待機児童対策になると考えています。

(2)民間の土地活用の誘導

世田谷区では民間の土地を保育事業に20 年間貸していただくことで、土地の賃貸料の3分の2を区独自で助成しています。20年間で平均3億円のうち、2億円の区独自負担です。ポスターもつくり呼びかけたところ、470 件も候補地の登録をいただいていますが、保育園用地として検討を進めている土地オーナーにとって、税制上の問題があります。

土地を住居目的(一般住宅・共同住宅)で利用した場合は、固定資産税の6分の1への軽減措置がありますが、保育園用地として賃貸しようとすると軽減なしが現状です。さらに、土地オーナーが高齢の場合は、ご本人に意欲があっても「相続税」の心配する方も周囲にあります。保育園用地で20年間にわたり賃貸して間に相続が発生すると、相続税支払いのために土地の売却等が出来なくなると躊躇されるケース等です。待機児童が多い都市部においては、こうした場合の相続税の支払い猶予又は減免等の優遇措置を設けるなど、待機児童対策をにらんだ税制改正に向けた国の取り組みをお願いします。

(3)「働き方改革」を

長時間労働は当たり前という企業風土がそのままでは、待機児童問題は解決しません。育児中の父母の社員に対して、企業がきちんと配慮をしてほしいと思います。具体的には、育児休業を半年でも1年でも延長・充実をはかり給与も100%給付することで、現在の状況を改善できます。

短時間勤務や在宅勤務、ワークシェアなど柔軟な勤務形態の導入することも進めて、自治体の保育園整備のみではなく、雇用環境の改革で企業努力も求め、こうした企業に対しての国の支援もあわせて行っていただきたいと考えています。

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以上、世田谷区からの提案をしました。会議の中で、香取照幸雇用均等・児童家庭局長は、1の「自治体独自の認可外施設支援」について以下のようにコメントしました。

「現在、自治体単独保育施設の認証保育所などについては、認可に移行する際に補助をする仕組みがありますが、お話のように少し弾力化し要件を緩和したいと考えています。今年はすでに予算を組んでいるので、基本的に1人あたり5000円程度の補助をします。5年の要件についても少し緩和をしたいと考えていて、来年度の予算で検討、相談させていただきたい」。

2の「税制改正」については、「税制については、私ども(厚労省)では決められないが、色々な自治体から要望があるので整理して、税制改正要望に入れ込み財務省と交渉したい」としました。(香取局長)

3の「働き方改革」に関しては、塩崎大臣自身から「世田谷区長の保坂さんの方から、働き方改革のお話がありました。本当にそのとおりで、実は介護も、介護離職ゼロと我々は言っていますけれど、アンケート調査では『施設が足りない、サービスが足りないというより、はるかに働き方が問題だ』というのがあるので、これは、やはりご指摘の通りです」とコメントがありました。

緊急対策会議に出席した他の自治体の首長からも、「働き方改革」にふれて意見が出ました。江東区の山崎孝明区長からは、育児休業を延長し義務化・有給化をはかるべきであり、育児休業給付金の延長の際に、ハローワークに保育所に入所できない「不承認通知書」の提出を求めているが、この提出を求めるべきではないとの意見の表明がありました。

待機児童解消「育休期間の延長を」 厚労省と自治体、意見交換

会議には100人以上の待機児童を抱える全国60の市区町から首長などが出席した。東京都江東区の山崎孝明区長は「育児休業期間を2歳や3歳まで延ばせば(保育需要の減少を通じて)保育士にも余裕ができる」と指摘。東京都三鷹市の清原慶子市長は「在宅での子育て支援の要望が多い。一時預かり事業の充実を求めたい」と語った。他業種と比べて給与が低い保育士の待遇改善を求める声も多かった。会議に出席した塩崎恭久厚生労働相は「5月の一億総活躍プランで保育士の処遇改善策を示したい」と述べた。(日本経済新聞2016年4月18日)

保育士の処遇改善についての意見も続出しました。世田谷区でも、新任の保育士に対して国の制度を使って、8万2000円を上限とする家賃補助を実行し、約100人の保育士が利用していますが、保育士確保は各自治体共通の課題です。

厚労省で待機児童100人以上の市区町長と塩崎厚労相

厚生労働省は18日、待機児童が100人以上の市区町長と塩崎恭久厚生労働相の緊急対策会議を同省内で開いた。政府は3月に待機児童解消に向けた緊急対策を発表したが、出席した市区町長からは、緊急対策に盛り込まれなかった保育士の賃金改善を求める声が相次いだ。(中略)多くの市区町長は「保育施設の整備を加速しているが、保育ニーズがそれ以上に増えている」「保育士が足りない。処遇が悪

いから別の仕事に就いてしまう」などと指摘した。

(毎日新聞2016年4月18日)

待機児童解消に向けた緊急対策会議では、1時間半あまりにわたって各自治体からの現状報告と要望が続きました。塩崎厚生労働大臣をはじめ厚生労働省で待機児童対策にあたる幹部に、この問題に直面する自治体のリアルな声を届けるだけではなく、政策課題の共通認識を持ったという意味では一歩前進だと感じました。自治体側からの要望・提言に対して、どれだけ国の具体的な制度改革や改善策がはかられるのか、注目していきます。

とりわけ世田谷区からも提案した「働き方改革」については、待機児童問題を「自治体による保育園整備」の一点でみるのではなく、子育て支援についての企業努力や育児休業延長等の改革がテーマになったことは、今後欠かすことのできない視点だと確信しています。

「国の待機児童対策 規制緩和で解決しない」(東京新聞 2016年4月19日) とインタビュー記事が掲載されました。「待機児童問題に取り組む中で感じることは」との質問に対して、「子どもにお金をかけてほしい。大人や企業優先の考えがはびこっている。例えば、ガード下に保育所を造ればいいと言う人がいるが、子どもの成育環境を考えていない。子どもを大事にしない社会では、子どもはどんどん減る」としめくくっています。

子どもを大切にする社会に向けて、日本が生き返る残り少ないチャンスでもあると思います。

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