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「暴虐非道な元海兵隊員の事件」への「沖縄の痛みと怒り」を受けとめよう

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米軍基地前で行われた集会に、追悼の花を持って参加した女性たち=22日午後、沖縄県北中城村 | 時事通信社
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4月28日から行方不明となり安否が心配されていた沖縄県うるま市の女性(20歳)が、米軍属(元海兵隊員)のむごい犯罪の犠牲となりました。第一報は、5月19日の地元紙『琉球新報』が伝えました。『琉球新報』は号外を発行して、沖縄県警が逮捕した容疑者が元海兵隊員でアメリカ軍の軍属と報じました。

【号外】女性遺体発見、死体遺棄で元海兵隊員を逮捕

うるま市の会社員女性(20)が4月28日から行方不明になっている件で、県警は19日午後、重要参考人として任意で事情を聴いていた元海兵隊員の米軍属の男(32)=与那原町与那原=を死体遺棄容疑で緊急逮捕した。男の供述に基づき、本島北部で女性の遺体を発見した。県警は遺体が女性かどうかの確認を進めている。

県警は、男の車両の通行記録が女性の失踪した時間帯、場所と重なることなどから、16日から任意で事情を聴いていた。男は当初、関与を否定していたが、18日に男が任意で提出した車両の内部から女性のDNAが検出され、19日に容疑を認めた。捜査関係者によると男は元米海兵隊員で、現在は米軍嘉手納基地で働いているという。(琉球新報 2016年5月18日号外)

本土の74%の米軍基地(専用施設)が集中する沖縄で、これまでに何度このような暴虐非道の許しがたい悲劇が繰り返されたことでしょうか。このブログでも、沖縄の基地の現状については2015年の7月に『「普天間」「嘉手納」、そして「辺野古」 沖縄米軍基地の現場から見えたこと。(動画付き)』をレポートしています。 今回の事件は、決して偶発的に起きたものではありません。たび重なる事件を受けても、「日米地位協定の改定」さえ棚上げにされたままの「沖縄の現状」が生み出した、いつかは起きるだろうと危惧されていた事件です。

まもなく始まる伊勢志摩サミットと、戦後71年にして初めてとなる被爆地広島へのアメリカ・オバマ大統領の訪問を前にして、沖縄の事件報道に政府・与党には緊張が走りました。

沖縄では6月5日に県議会議員選挙が予定されていて、「辺野古基地反対」を貫く翁長県政のもとにある県議会を、自民・公明で議会の多数を取って抑えることを目標に取り組み、また7月の参議院選挙では、現職大臣候補と野党統一候補が激突する政治日程が控えています。事件の第一報を聞いて、このあたりが心配になったことは想像できます。政府・与党から「この問題の初動を間違えると大変なことになる」「最悪のタイミングでの事件」 などの発言がニュースで報道されました。また、本土メディアの事件報道の中にも「日米関係・基地問題に影響か」という論調も目立ちました。

いずれも、人としての尊厳を踏みにじられた事件の犠牲者と家族、そして「沖縄の痛みと怒り」に心を寄せる前に、「政治日程」「選挙情勢」を優先する思考を伺わせる発言で、『「最悪のタイミング」発言に、沖縄県民は... 』(琉球新報 2016年5月20日)では、県民の反発の声を伝えています。「最悪のタイミング」なら、「次善のタイミング」「最良のタイミング」などはあったのかという声も渦巻きました。

第一報が伝えられた19日の晩、外務省の岸田外務大臣は、ケネディ駐日大使を呼んで「抗議」の意を伝え、「残忍で凶悪な事件が発生したことは、極めて遺憾なことです。日本政府を代表して強く抗議します」と伝えたと報道されています。(テレビ朝日 2016年5月20日) また、在沖アメリカ軍のトップとなる四軍調整官が沖縄県に謝罪に出向いています。

在沖米軍トップが謝罪、「非常に恥じている」 元米兵事件
在沖米軍のローレンス・ニコルソン四軍調整官は安慶田(あげだ)光男副知事と面会。「米国政府を代表して謝罪する」と述べ、深々と頭を下げた。容疑者逮捕の翌日に在沖米軍トップが県に謝罪するのは極めて異例。ニコルソン氏は「非常に恥じている。軍人、軍属、すべての米国人が善良な市民として法を順守するよう努めていく」と再発防止を誓った。(朝日新聞 2016年5月20日)

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米軍属の逮捕を受け、沖縄県の安慶田光男副知事(右)に陳謝する外務省の水上正史沖縄担当大使=20日、沖縄県庁

日米両政府がともに事件の重大性を認め、県民感情の悪化を懸念したリアクションが続きますが、やがて容疑者の供述が明らかになるにつれて、怒りの火は燃え広がっていきます。元海兵隊員は性犯罪対象を探し続け、棒で殴って、刃物で刺しています。

沖縄女性遺体 米軍属 「刃物で刺した」
米軍属女性死体遺棄事件で、死体遺棄容疑で逮捕された元米海兵隊員のシンザト・ケネス・フランクリン容疑者(32)が「乱暴しようと思った。首を絞め刃物で刺した」などと供述していることが20日、捜査関係者への取材で分かった。捜査関係者によると、遺体発見時に身に着けていた衣服に刃物で刺したような穴が空いていたという。県警はシンザト容疑者が女性暴行目的で女性に接触したとみて、強姦致死容疑や殺人容疑での立件も視野に捜査を進めている。(毎日新聞 2016年5月21日)

性的凌辱・暴行を目的に、通りすがりの女性に襲いかかり、殺害してしまうこの手の犯罪は、米軍基地の存在とは切り離せません。海兵隊員として鍛えられた容疑者の身体と感覚が、市民社会の中に放たれた「野獣」のように闇夜の目を光らせて「ターゲット」を狙い続ける...恐ろしい姿です。

「襲う女性、数時間かけて探した」 沖縄遺棄 元米兵

沖縄県うるま市の女性会社員(20)が遺体で見つかった事件で、死体遺棄容疑で県警に逮捕された元米海兵隊員で米軍属のシンザト・ケネフ・フランクリン容疑者(32)=同県与那原町=が、調べに対し「狙う女性を2~3時間探し、見つけた女性を背後から棒で殴って襲った」と供述していることが捜査関係者への取材でわかった。

 これまでの捜査で2人の間に接点は見当たらず、県警はシンザト容疑者が偶然通りかかった女性を襲ったとの見方を強めている。捜査関係者によると、シンザト容疑者は「女性を強姦(ごうかん)した」と供述したほか、「刃物で刺して殺した」「遺体はスーツケースに入れて運んだ」とも話した。
(『朝日新聞』2016年5月22日)

背景には事件のたびに問題となる日米地位協定の存在があります。今回の事件では、容疑者は「基地外居住者」であり、犯行も「公務外」とされ、沖縄県警が身柄を押さえたので問題となりませんが、過去には容疑者が基地内にいて「公務中」とされれば、日本側の捜査権・刑事司法手続きは著しく制約されるのが日米地位協定です。 翁長知事は、安倍首相との緊急会談で「日米地位協定の改定」を申し入れています。

翁長知事「オバマ大統領と話す機会を」 安倍首相に申し入れ

沖縄県の翁長雄志知事は23日、首相官邸で安倍晋三首相と会談し、元海兵隊で米軍属の男による女性遺体遺棄事件に抗議した。翁長氏は冒頭、「事件は基地あるゆえの犯罪であり、大きな怒りと悲しみを禁じ得ない」と指摘。沖縄の現状を伝えるため、今週来日するオバマ米大統領と面談する機会を設けるよう求めた。安倍首相からは綱紀粛正やケネディ米駐日大使への抗議したことなどの言及はあったが、面会要請についての応答はなかったという。

 翁長知事は「安倍内閣はできることはすべてやるといつも枕ことばのように言うが、できないことはすべてやらないとしか聞こえない」「地位協定の下では、米国から日本の独立は神話であると言われているような気がする」などと強い憤りを示し、地位協定の改定を求めた。 (沖縄タイムス 2016年5月23日)

オバマ大統領が被爆地・広島を訪問するのは画期的な出来事だと評価しています。一方で、第2次世界大戦で「鉄の暴風」にさらされ、多くの民間人が亡くなった沖縄戦をへて71年。いまだに今回のような「暴虐非道な米軍関係者による犯罪」が沖縄県民を痛めつけていることも直視してもらう必要があります。日米関係を良好に保つためにも、「広島と沖縄は別」ということにはならないはずです。翁長知事のオバマ大統領との会談は、当然の要求だと受けとめます。

「日米地位協定の改定」についても、日本政府はつれない対応です。「今回はそこまで踏み込まない」と日米協議を本格的に開始する姿勢さえ伺えません。米兵の犯罪と地位協定改定は、1995年の「少女暴行事件」にさかのぼります。

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米兵の少女暴行事件に抗議して開かれた「沖縄県民総決起集会」。8万5000人の参加者で埋まった(沖縄・宜野湾市の海浜公園)

沖縄の信頼回復に全力=地位協定改定には消極的 政府

地位協定改定の契機は、1995年の米兵による少女暴行事件にさかのぼる。米側が地位協定を理由に起訴前の身柄引き渡しを拒否し、県民の怒りが爆発。約8万5000人(主催者発表)が参加した「総決起大会」で、地位協定の見直しを要求する事態に発展した。

日米両政府は、こうした動きを深刻に受け止め、「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」を設置。重大事件では米側の「好意的考慮」により起訴前の身柄引き渡しを可能にする地位協定の運用改善で合意した。(時事通信 2016年5月23日)

「綱紀粛正・再発防止」と何度聞いたか覚えきれないほどだ...というのが、沖縄の実感でしょう。何が起きても「地位協定は運用の改善で」という枠から、日本政府も一歩も出ようとしません。サミットを前に沖縄の米軍基地のあり方について注目が集まっている中でも、ボロボロと米兵の規律違反が明るみに出ます。

沖縄県警は22日、道路交通法違反(酒気帯び運転)の容疑で米軍キャンプ・フォスター所属の海軍兵キース・ベリオス容疑者(28)を現行犯逮捕し、発表した。「間違いありません」と容疑を認めているという。(朝日新聞 2016年5月22日)

サミットが閉幕し、オバマ大統領が安倍首相と共に広島訪問を実現すると、国会は会期末を迎えます。ここにきて、「衆参ダブル選挙に踏み切るのではないか」という情報も流れていますが、熊本・大分を襲った地震災害では多くの方々が避難所にいて「生活再建」の日程すら不透明だという不安の声があります。

ここまで書いてきたように「沖縄の痛みと怒り」も、6月19日に基地犯罪に抗議する県民集会を開催する準備が進んでいます。安倍首相が解散を決断するとしたら、「政権の延命」と「改憲の土台づくり」以外の何ものでもありません。

「緊急事態対応」を憲法改正の理由にあげながら、定期的な改選時期の参議院選挙にあわせて衆議院議員が身分を失い、国権の最高機関を守るのは参議院議員の非改選議員だけという状態を自ら選ぶのは、「緊急事態リスク」よりも安倍政権カレンダーを優先させるということにならないでしょうか。

「沖縄の痛みと怒り」を受けとめて、悲劇の元凶を取り除き、こうした犯罪が続発しない日米協議・法制度構築にまず総力をあげるべきではないでしょうか。

(編注・女性死体遺棄事件に関して、人権に配慮して被害者名の報道を匿名としています)