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大阪での熱い論戦 住民投票の現場から

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5月10日の夜、私は大阪にいました。

大阪国際交流センター大ホールで開催された「住民投票緊急セミナー・特別区制度を考える」(主催・府民のちから2015 )で、「市民自治から考える『都区制度』の問題点」というテーマで記念講演を行いました。先週の記事『「大阪都構想・住民投票」を世田谷から見つめると』にも書いたように、東京都内最大の特別区(人口約88万人)である世田谷区の区長として、特別区制度の現状を大阪市民に知ってほしいという思いをこめました。

きっかけは、国会議員時代に面識のあった国務大臣を歴任した自民党の元議員の方からの電話でした。「大阪都構想について特別区の区長として書かれている記事を読んだ。ぜひ、この記事の内容を大阪で講演してほしい」との要請でした(『大阪都構想の欠陥 東京23区の現実』「太陽のまちから」2014年2月5日)。その後に、民主党からも同趣旨の依頼があり、5月10日の「住民投票緊急セミナー」の開催となりました。

新大阪駅から梅田に出てみると、「特別区設置住民投票 5月17日(日)」という特大看板が目に飛びこんできます。

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特別区設置住民投票(5月17日)を告知する大看板(梅田駅近く)

住民投票の投票日まであと1週間というラストサンデーだったこともあって、市民の関心も高まっている様子です。
 
賛成を訴える大阪維新の会代表の橋下徹大阪市長は大量のテレビCMを流し、連日の新聞折込みチラシで大宣伝戦を展開しています。一方、反対派の広報予算は自民党や民主党ともにローカル予算の枠内で限定されています。宣伝戦では、維新の会が圧倒しているという印象を受けました。公職選挙法の適用がないので、ビラ・ポスター・宣伝カー・テレビCMの量的制限はなく、運動費用の金額も無制限です。メディア戦略に力を入れる維新の会は4億円以上を広報予算に投じると報道されています。(関連記事→「ビラもCMも無制限・大阪都構想・住民投票運動『解禁』」(4月13日 朝日新聞) )

一方で「反対派」は党派を超えた大同団結を示し、「大阪市をなくすな」と訴えています。自民、民主、共産の3党は5月10日に、大阪市北区と中央区の2カ所で合同の街頭演説会を開きました。

「「この車であいさつするのは初めて。気持ちがいい」。自民の柳本卓治参院議員は10日朝、中央区の南海電鉄難波駅前で共産の街宣車の上から聴衆に語りかけ、笑いを誘った。「立場の違いを離れ、心は通じている。大阪市はなくしたらあかん」と訴えた。共産書記局長の山下芳生参院議員も「みんなで大阪市を守る」と自民との共闘をアピールした。自民の街宣車に乗り込んだ民主大阪府連代表の尾立源幸参院議員は「一致団結してこの場にいる」と強調した。」(5月10日 毎日新聞

そして、ラストサンデーの夜。住民投票緊急セミナーが始まりました。千人規模の会場にはびっしりと参加者が詰めかけています。

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住民投票緊急セミナーの様子

セミナー開始前には主催者の記者会見も行われ、大阪市の隣の政令市である堺市の竹山修身市長、八尾市の田中誠太市長とともに発言しました。

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住民投票緊急セミナーの主催者記者会見(柳本顕・大阪市議、竹山修身・堺市長、田中誠太・八尾市長と)

私は、次のように特別区制度の変遷を振り返りました。

「特別区は長い間、区民とともに自治権を拡充してきた歴史があり、区長だって選挙で選出されるようになるまで、粘り強いたたかいがありました。戦後まもなくの間は区長は公選で決められていましたが、東京都が強引に「内部団体」としてしまったのが1952年(昭和27年)でした。区長は区議会で選ばれるものの都知事の同意が必要であり、管理職をはじめとした区職員の人事権さえ都にあって区にはありませんでした」

これまでの区の自治権拡充の動きをたどりながら、2000年にようやく基礎自治体として位置づけられた経緯を話しました。そして、1枚の世田谷区のパワーポイントを参加者に見てもらいました。

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住民投票緊急セミナーでの記念講演の様子

世田谷区は、1991年(平成3年)から地域行政制度を発足させています。区内の人口11万~24万人の範囲ごとに5つの総合支所を置いています。各総合支所には、子育て支援や介護・福祉・まちづくり等の区民生活にとって必要な機能と窓口を置いて、それぞれに約200~350人の職員がいます。さらに、区民の生活領域に近い27地区に細分化した「出張所・まちづくりセンター」を運営しています。

今回の住民投票で賛否が問われるのは、「大阪市を解体して5つの特別区を設置すること」ですが、暮らしの現場から見ると、現在大阪市内にある24の行政区が5つの特別区に統合されるという側面をもっています。一方で世田谷区は、区内で分権をすすめ、各総合支所に予算と権限を移そう、27の出張所・まちづくりセンターに防災や福祉の身近な相談の窓口を設置して「地域包括ケアの世田谷モデル」をつくろうとしています。

88万人という県レベルにも匹敵する規模の自治体で、そもそも区役所本庁だけですべてを切り回そうとしても、ていねいな仕事やサービスは行き届きません。人口11万から24万人の地域ごとに総合支所を置き、さらに生活の場に近い人口平均約3万人の出張所・まちづくりセンターに、防災コミュニティづくりや身近な福祉の相談の窓口をつくろうとしている世田谷区で、もし「総合支所を統合して1ヶ所の本庁へ」という提案が出てきたとしたら、住民サービスの密度は粗くなり、水準は下がります。

住民サービスの質が維持されるのか、低下するのか。災害時の危機管理や地域の対応力は維持されるのか、分解するのか。そこが、大阪市民にとっては、いちばん大きな関心事ではないでしょうか。

20日間という運動期間がある住民投票では、すでに多くの大阪市民が期日前投票に出かけているようです。東京の特別区には区長公選さえ奪われた苦難の歴史があり、自治権拡充を交渉と運動で勝ち取ってきました。それでもなお多くの課題を残していることは、誰もが認めるところです。

大阪市は、特別区よりはるかに多くの権限をもっている政令市です。人口270万のその大阪市を一度壊してしまえば、元には戻せません。

東京の特別区の課題と現状について2週続けて書きました。大阪市民の間で起きている住民投票の賛否の議論には、これからの全国の自治体が直面する分権や自治のあり方について有益な課題がたくさん出ています。

5月17日、大阪市民の選択を世田谷区から注目しています。

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