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ポートランドで語る「人間中心の都市の希望」

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アメリカ・オレゴン州のポートランドを訪ねたのは3回目となります。最初の訪問は、2016年11月でした。荒廃した中心市街地を長期計画で再生させていった「都市デザイン」がテーマでした。20年単位の計画が実行に移された結果、古い廃墟のようなビルがセンスのいいショップやレストラン、バー、カフェに生まれ変わり、若者たちや家族連れで賑わうようになっています。こうしたライフスタイルは、日本にも多く紹介され、話題を呼んでいます。

ところが、ポートランドは1960年代から、鉄鋼・造船等の重工業の衰退と共に、大気汚染と河川汚濁に悩まされ「公害都市」の汚名に甘んじていたというから驚きです。産業の縮小と共に荒廃していく中心市街地をどのように再生させたのか。これこそ、ポートランド都市開発局(PDC)によってつくられた20年計画が着実に実行されていった結果です。

現在、ポートランドと言えば、「全米でもっとも住みたい街」「環境都市」として語られます。70年代に始まったポートランドの中心部を流れるウィラメット川上部の高速道路を撤去する市民運動が実を結び、リバーサイドはゆっくりと歩ける緑の散歩道となりました。そして、市民運動の経験者たちは、批判から企画側にまわり、行政機関の街づくりのメンバーとして働き始めます。

「車中心の社会」から「歩いて楽しい街づくり」への転換をするために、路面電車の交通網を整備しました。また、とめどなく都市を膨張させない「都市成長限界線」を守りながらスプロール化を防ぎ、中心市街地の再開発に乗り出しました。再開発と言っても、ポートランド都市開発局(PDC)は、100年以上前の古いレンガ造りのビルをリノベーションして再生し、1階部分を住居にすることを禁止し店舗に誘導して、にぎわいを呼び起こしました。

東京は、巨大人口を抱える過密都市です。人口60万人のポートランド市と同列に論じることはできませんが、車優先から歩行者優先へ、産業重視から暮らしやすさ重視へ、大きなパラダイムシフトを早い時期に手がけ、30年の時間の集積を経て、独自のハーモニーを響かせることのできる環境都市に生まれ変わったという歴史は、自治体運営に日々直面している私にとっても、多くのことを教えてくれました。

2016年8月の2回目の訪問は、「暮らしやすさ」「ライフスタイル」を体感するために、毎週土曜日にポートランド州立大学(PSU)の構内で行われているファーマーズマーケットに出かけたり、カフェや、ショップを楽しんだり、緑豊かな郊外に足を伸ばしました。地元産のオーガニックな食材に恵まれて、健康的でゆったりした空気を楽しみながらゆっくりと滞在しました。(関連記事

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日本研究所のケン・ルオフ教授

3回目の訪問となる2017年4月7日、ポートランド州立大学(PSU)から講演の依頼を受けました。

同大学日本研究所のケン・ルオフ教授の招きによるもので、とても光栄なことで準備にも熱を入れました。私にとっても「世田谷区の現状」を踏まえたポートランド市民や学生への発信ということで少々緊張もしました。会場となった教室には、学生や教授、そして日本からの留学生や在住者など、多彩な聴衆が集まりました。講演は通訳も入れて、約1時間、40分の質疑応答の時間を持ちました。演題は、『89万都市で自治体と住民でつくる「参加と協働・世田谷モデル」』 としました。

講演内容は、日米の社会保障制度の差異等にも言及しながら、私が世田谷区で取り組んでいる大きなテーマを3つに絞りました。1番目は「高齢者福祉」、2番目は「子ども・子育て支援」、そして3番目は「若者支援・LGBT人権擁護」と続けました。以下、講演を紹介します。

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写真は、世田谷区の西側を流れる一級河川の多摩川です。その右下が二子玉川です。周囲を段差と傾斜の大きな国分寺崖線が緑を多くたくわえています。再開発事業が一段落した商業地域は賑わいが絶えず、広い河川敷や日本庭園もある二子玉川公園はは多世代の憩いの場になっています。ここは、世田谷の魅力のひとつです。世田谷区は多摩川の手前にあり、晴れた日には富士山が見えます。マウンテンフッドを望むポートランドの風景と共通点がありますね。

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二子玉川の空撮写真

まず高齢者福祉についてです。

日本全体では少子化と人口減少が進んでいますが、東京への人口集中は現在も続いており、世田谷区では、特に、中高年から若い世代の流入が多く、毎年1万人ほどの人口増加が続いています。他自治体からの転入者で人口が増えることを社会増と言いますが、世田谷区では自然増も1500人程度あります。死亡された方より、新生児の方が多いということになります。10年前には年間6000人だった出生数が年8000人にまで増加しました。 一度は、高齢化社会で減少した子どもたちの数が、ふたたび増えているのは日本では大変珍しく現象だと注目されています。

次に、家族のかたちとコミュニティーの変化に触れなければなりません。

私の子どもだった半世紀前の日本では、祖父・祖母と父母、そして子どもたちという3世代同居の家族が当たり前でした。しかし、現在は都市部で、3世代同居の家族は激減しました。2017年3月現在の世田谷区の平均世帯人数は1.9人と2人を下回っています。夫婦のみの世帯や、親と子のふたり世帯、そして一人暮らしが大きく増えています。

住まいもかつての戸建て住宅から、日本では「マンション」と呼ぶ集合住宅での暮らしが一般化しました。かつてのように「家族が力を合わせて、子どもや高齢者の面倒を見る」「隣近所が顔見知りで、困ったときは助け合う」という家族やコミュニティの力は弱くなっています。

高齢者になるほど「一人暮らし」が増えて、75歳から85歳未満の世代は30%で、85歳以上は52%と約半数を超えています。75歳以上になると認知症のリスクも高まり、世田谷区内で認知症の判定を受ける高齢者も2万人を超えて、増加の一途をたどっています。

毎年1000人が新たに認知症と診断されています。これらの高齢者に、身近な地域コミュニティの中で、自分らしい尊厳が保たれた生活を続けていく条件を整え、必要な行政サポートと住民同士の支えあいを充実して、介護予防を進めて医療・介護費などの縮減につなげることが大きな課題です。

1961年から国民皆保険制度が導入された日本では、すべての国民が医療保険に加入していて、30%の自己負担で医療機関で診療・治療を受けることができます。また、2000年から介護保険制度が始まり、高齢者が10%・20%の自己負担で介護サービスを受けることができます。こうした医療・福祉制度は整っていますが、高齢化社会を迎えた今、「財源不足」「施設と働き手の不足」という大きな壁を前にしています。

住み慣れた地域で、自宅で必要なサポートを受けながら、高齢者や障害者を支える仕組みは 「地域包括ケアシステム」と呼ばれていてます。住まい、医療、介護予防、生活支援等を地域で一体的に支援する「地域包括ケアシステム」を世田谷区は大変ユニークなやり方で実現しようとしています。

私は区長に就任してから、区民との直接対話に力を入れてきました。どこへ行っても共通する声は、「高齢者になって介護や福祉を受けられるのかという不安」「できれば安心して住み慣れた地域で老後を過ごしたい」という声でした。また、「福祉サービスが細分化しすぎていて分かりにくい」こうした声によって、「生活圏から遠い区役所に分野別の専門相談窓口がバラバラにある」状態では不十分だと気づいたのです。

そこで、区の組織を大胆に見直し、身近な地域に縦割りを廃した相談窓口を設けることにしたのです。この窓口一元化は、厚生労働省の「モデル事業」となり、高齢化社会を迎えている日本の地域福祉の「新しいモデル」として全国に紹介されています。

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「地域行政制度 5つの総合支所」「27のまちづくりセンター」

世田谷区は89万区民を5つの地域に分けて、総合支所を持っています。福祉は、従来はすべて、総合支所と本庁で扱ってきました。昨年7月、生活圏に近い人口3万人前後の地域に27ヵ所の「まちづくりセンター」に「福祉の相談窓口」を開設しました。この窓口は、3つの組織を1カ所に集めて運営しています。

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まちづくりセンターに設置された「福祉の相談窓口」 (写真)

「福祉の相談窓口」のために区の地域拠点である「まちづくりセンター」と、介護など福祉サービスの相談を担う民間事業者の「あんしんすこやかセンター」と、区民のボランティア活動や高齢者サークルを支援する組織である「社会福祉協議会」の3つの組織を結集させています。

この窓口では区民の福祉を中心とした相談に答えたり、専門サービスを紹介すると共に、区民自らの支えあい活動を活性化するためのコミュニティ活性化の機能を受け持ちます。この窓口の特徴は、以下の3点です。

(1)市民サービスを担当する役所の縦割りをやめて、横つなぎを試みていること。
(2) 困った時の市民の立場から福祉サービスを見直し、身近な地域にワンストップの窓口を配置。
(3) 地域で行われる健康づくりや介護予防等のグループや活動を可視化して、ネットワーク化できる条件づくりをしていること。

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空き家活用の場→「シェア奥沢」「岡さんの家」

「地域の福祉力」「コミュニティの活性化」の事例をあげます。左は「築80年の日本家屋」を耐震補強しリノベーションした「シェア奥沢」、右は「岡さんの家」というコミュニティハウス。いずれも、空き家を活用して地域住民に愛され、高齢者から子どもまでが集まるスペースになっいます。「空き家活用」にも力を入れています。 こうした空き家や住宅の一角をコミュニティに提供して、福祉や子育て、趣味の場として地域住民に開放している場が区内で20カ所以上になります。

ここからは子育て支援についてお話します。

小世帯化と働く女性の増加により、社会的保育のニーズが大きく増加しています。このため、私は子育て支援策に充てる予算・人員を大幅に充実させてきました。私が区長に就任して6年になりますが、つくった保育園が81園、増やした保育定員が6700人分にもなりました。保育園定員は10000人から17000人へと拡大しました。しかし、保育の希望者はそれ以上の割合で増え続け、1,000人を超える大変多くの保育園に入れない「待機児童」を生んでしまっています。この保育園は、行政が整備・運営経費の多くを負担する公的サービスです。世田谷区は、今年度予算で450億円近い税を保育サービスの維持と拡大に投入しています。

世田谷区では「子どもを生み育てやすいまち」をめざし、フィンランドの取り組みを参考として、妊娠した時から就学まで、子育て家庭を支えるシームレスなサポート体制の充実に向けて、「世田谷版ネウボラ」を開始しました。保健師を中心とした「ネウボラ・チーム」を発足させ、すべての妊婦を対象に妊娠期の面接相談を行います。 また、8000人生まれてくるすべての新生児を育児アドバイスや虐待防止のために訪問し面談しています。

子どもと保護者にとって、学校内での暴力や脅迫をともなう「いじめ」は深刻です。これまで、学校に相談しても、区役所に相談しても事態は改善せずに、子どもが追い詰められていくことが多くありました。「せたホッと」は、子どもの人権を第一義に擁護し、救済を図るための公正・中立で独立性と専門性のある行政機関です。「いじめ」「暴力」「虐待」等、子どもの権利侵害に関する相談を受け、助言や支援を行ない、また世田谷区の公的機関として学校に調査に入り、事態改善のアドバイスをします。

相談機関にとって、子どもにどれだけ知られているかが指標になります。「せたホッと」は子どもが命名し、子どもがキャラクターを描いていることもあって、子どもの認知度が高いのが特徴です。相談の54%が子ども自身からの相談です。子どもにとって、頼りがいのあるセーフティーネットです。

続いて、若者支援についてです。

1つ目は、児童養護施設等を巣立った若者に対する支援です。日本では中学校までの義務教育、高校は無償ですが、大学で教育を受けるためには学費を負担しなければなりません。さらに日本の奨学金は多くの場合「貸付」であり、卒業後返済が求められます。しかし、児童養護施設で経済的にも親から離れて暮らす若者には、進学した上で賃貸アパートを借りて生活を維持するのが困難な実態があります。世田谷区内の児童養護施設出身者の進学率は3割と低く、さらに途中で退学する中退率は7割という状態でした。

そこで、区では、施設出身の若者がフェアなスタートラインに立ち、進路を切り開くために、公的住宅の提供や、活動交流の場所の支援に加え、新たに基金を作り、寄付を募ってこれを原資として奨学金給付を開始しました。この取り組みには多くの賛同を得ることができ、2016年春の基金の開設から1年間あまりで3,104万円(6月20日現在)の寄付をいただくことができています。

「メルクマールせたがや」という「ひきこもり支援」の事業も始めています。ここでは、長い期間、社会との接点が持てず、自分の部屋に閉じこもって過ごしている当事者と親の相談を受けています。中には、40代、50代のケースもあり、親も70代、80代の高齢者というケースもあります。当事者に対して面談や活動ルームでのプログラム、セミナーを実施し、 年間1500件の相談を受けて、30人のひきこもり当事者が居場所に顔を見せるようになっています。

また「発達障害就労センター」は、大人になって仕事や対人関係がうまくいかなくて、発達障害を抱えていることがわかった若者たちが、自らの障害の特質を理解するためのセミナーや障害の特性を理解して雇用につなげる取り組みをしています。

世田谷区には、25カ所に子どもセンター・児童館があり、生まれたばかりの乳幼児を持つ母子が育児講座を受けたり、小中学生が放課後を過ごしています。地域コミュニティにも開かれたお祭りを行ったり、夏休みにはキャンプにも行きます。高校生以上の若者が利用できる施設として青少年交流センターを2カ所開いています。右は、銀行の社屋のあったビルを若者たちにまかせて運営し、中高生が1000人も会員となって運営した9カ月間の実験事業、左はリニューアルオープンした若者交流センターです。区役所の中に、2013年に若者支援課ができました。若者支援課は、日本では、まだ珍しい窓口です。

次はLGBTの取り組みです。

日本では、世田谷区で初めて、お隣の渋谷区と共に「同性カップル」を認証する制度を2015年11月に発足させました。法律上は「男女」でない同性間の婚姻は認められていませんが、区長の裁量行為による書類を発行し始めました。これは区の窓口で「自分たちはパートナーである」と言う宣誓書を提出していただき、区はその受領証を発行するというものです。法律的な証明書にはなりませんが、この受領証と同時に例えば不動産業界に同性のカップルでも夫婦用の部屋を借りられるようにお願いしたり、同性カップルの職員が職員住宅に入居できるようにするなど、できるところから性的少数者の差別解消に取組んでいます。

自治体として「同性パートナーショップ宣誓書受領証」を発行してから、すでに48組の同性カップルに証明書を発行しました。携帯電話等の「家族割引」が適用できることになり、民間の生命保険の受取り人として認められたり、医療機関でパートナーとして扱われる等、法律の手前の自治体の事務上の取り組みでも人権面での大きな前進がありました。今後は、国の制度改正につなげていきたいと考えています。

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「パートナーシップ 宣誓書受領書の取り組み」

さて、昨年から、世田谷区で「ポートランドの街づくり」をテーマとしたシンポジウムや、研究会が活発に行われています。SNS等を通して200人前後の人たちが熱心に参加しています。また、世田谷区には9万人の学生が通う約16の大学のキャンパスがあります。

その中には、最近、大改修が終わりグランドオープンした日本庭園に関わった東京農業大学や東京都市大学もあります。こうした大学教授や、建築家、商業者、行政関係者が集まり、ポートランドとの「都市文化交流」を行う団体を7月に発足させる予定です。ポートランドの都市文化、福祉政策、ライフスタイル、食文化、コミュニティ等、そして学術等、多彩なテーマで交流を行ないたいと思います。

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ポートランド州立大学(PSU)での講演の翌日にはポートランド市役所を訪れ、市長、コミッショナー(市議会議員)にもお会いして、メトロと呼ばれる広域行政区の「都市成長限界線」の担当職員や、世界的に見てもきわめて先進的な児童福祉行政で有名な「児童虐待防止センター」を訪ねるなどの機会を持つことができました。また、リニューアル工事が完成した日本庭園にも足をのばすことができました。

講演の最後でふれたポートランド交流の企画が進んでいます。リニューアルを終えた日本庭園の完成記念に、「ポートランドと世田谷をつなぐ暮らしやすさへの都市戦略・世田谷ポートランド都市文化交流キックオフシンポジウム」が7月13日午後1時から、東京都市大学二子玉川夢キャンパスで開催されます。ポートランドの日本庭園CEOのスティーブ・ブルーム氏、日本庭園の建物の設計を手がけた隈研吾氏、ポートランドを緑と環境の都市戦略で論じて日本庭園にも関わりの深い涌井史郎氏等の参加を得て、都市文化交流のスタートラインとして意義深いものにしていきたいと思います。

[事前申込みは]http://www.kokuchpro.com/event/setagaya_portland/

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