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なぜ、「人づくり革命」に違和感を覚えるのか?

2017年08月07日 22時34分 JST | 更新 2017年08月07日 23時25分 JST
Bloomberg via Getty Images
Toshimitsu Motegi, newly-appointed economic revitalization minister of Japan, speaks during a news conference at the Prime Minister's official residence in Tokyo, Japan, on Thursday, Aug. 3, 2017. Japanese Prime Minister Shinzo Abe reshuffled his ministers and party officials after a slump in popularity and a humiliating local election defeat. Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg via Getty Images

森友学園・加計学園問題と共謀罪、そして「自衛隊南スーダンPKO日報」問題等の渦中で支持率を急落させていった安倍晋三首相は、8月3日に内閣改造に踏み切りました。「仕事師内閣」と気負った改造内閣の目玉となる看板は「人づくり革命」でした。「一億総活躍社会」以上に耳慣れないキャッチフレーズです。

広辞苑によると、「革命」とは「従来の被支配階級が支配階級から国家権力を奪い、社会組織を急激に変革すること」とあります。「人づくり」とは本来、ていねいに個人の成長や発達を促し、支援するプロセスであって、荒々しいものではありません。「人づくり」をとりまく環境や制度をダイナミックに改革することを意図しているのだとしたら、内閣の政策表現としては不出来な言葉です。

「人づくり革命担当大臣」って何なの? 茂木敏充・経済再生相が兼務(ハフポス2017年8月3日)

8月3日の内閣改造で、自民党の政務調査会長・茂木敏充氏が「人づくり革命」の担当閣僚に就任すると発表された。茂木氏は経済財政再生担当大臣との兼務となる。「人づくり革命」について、多くの方は初耳だったのではないだろうか?しかし安倍晋三首相は、この革命を重視するのだという。
「人づくり革命」は、安倍首相が6月19日の記者会見で、新たな看板政策として掲げたもの。人材育成への投資に関する政策で、具体策を議論する有識者会議『みんなにチャンス!構想会議』を8月下旬にも設置する。

この記事からは、あくまでも「革命」へのこだわりを感じます。ただし、その具体化のための会議体が「みんなにチャンス!構想会議」という名称であれば、「新・一億総活躍」で十分だったようにも感じます。今後、安倍首相や茂木敏充大臣は、「人づくり革命」に拘泥し、「革命」をたびたび口にするのでしょうか。 すでに、「革命断行」という言葉さえも登場しています。

「人づくり革命を断行」 改造内閣の基本方針:日本経済新聞(2017年8月4日)

第3次安倍第3次改造内閣は3日夜の初閣議で、等しい教育機会の提供や社会人の学び直しを進める「人づくり革命」を盛った内閣の基本方針を決めた。政策課題として(1)復興の加速化(2)人づくり革命の断行(3)一億総活躍社会の実現(4)世界の中心で輝く日本――の4項目を掲げ「内閣の総力を挙げて推し進める」と強調した。

安倍首相が「人づくり革命」を打ち出したのは、6月19日に行われた通常国会閉会直後の記者会見の場でした。共謀罪を力づくで押し通し、森友学園・加計学園・日報問題はギロチンを勢いよく落とすように強制終了した先の国会は、なるほど穏やかなものではありませんでした。記者会見を聞いてみましょう。

平成29年6月19日 安倍内閣総理大臣記者会見| 首相官邸ホームページ

家庭の経済事情にかかわらず、高等教育を全ての子供たちに真に開かれたものにしていく。リカレント教育を抜本的に拡充し、生涯にわたって学び直しと新しいチャレンジの機会を確保する。これらに応えるため、当然、大学の在り方も変わらなければなりません。
人づくりこそ次なる時代を切り拓く原動力であります。これまでの画一的な発想にとらわれない「人づくり革命」を断行し、日本を誰にでもチャンスがあふれる国へと変えていく。
そのエンジンとなる有識者会議をこの夏、立ち上げます。いわば「みんなにチャンス!構想会議」であります。そのための体制を来月中に整えます。

この記者会見で語った「人づくり革命」を、内閣改造の看板政策にしたのでしょう。ただし、この記者会見では、「 印象操作のような議論に対して、つい、強い口調で反論してしまう。そうした私の姿勢が、結果として、政策論争以外の話を盛り上げてしまった。深く反省しております」(安倍首相) などと通常国会を振り返る言葉に注目が集まり、「人づくり革命」は関心を呼びませんでした。

安倍首相が列挙して語る「革命の根拠」を聞いていると、巧妙なすりかえをしているように感じます。「家庭の経済事情」によって生まれた時から子どもが選択できる進路があらかじめ決められているような格差社会・身分社会は、いったい誰がつくってきたのでしょうか。

政権交代時の「高校無償化」をバラマキだと批判してきたのは誰だったでしょうか。すなわち、自民党政権のうちでも、小泉純一郎政権以降の新自由主義の世界観で、弱肉強食を是とする格差社会は一挙に拡大しました。

私は、小泉政権当時の永田町で、従来の常識や規制をくつがえすような「改革」が矢継ぎ早に進んでいくのをつぶさに見ていました。高等教育への進学のために奨学金を「有利子ローン」として割り切り、債権回収ビジネスに門戸を開いたことや、労働市場の規制緩和のかけ声のもとに「製造業への派遣労働」が許容されるようになったことで、「いつでも集められて、いつでも首にできる低賃金労働者」が急増し、2007年のリーマンショックでは生産調整による「派遣切り」の結果、大量の派遣労働者が住居を失い途方に暮れることになりました。

収入を貯蓄にまわすゆとりがなく、貯金を取り崩しながら働く生活保護世帯以下の収入しかない「ワーキング・プア」も一挙に広がりました。非正規労働者が拡大することで、正規労働者の賃金も1997年以降の約20年にわたり下降を続けました。結婚から遠ざかり、子育てどころか、自分自身の明日が見えないという若者が増えました。少子化社会が加速したのも、若い世代の雇用環境が悪化したのも政策責任です

歴代自民党政権、特に小泉政権以降の「改革」は、「人づくり革命」どころか、「人潰し社会化の加速」だったことへの反省の視点は、どこかにあるのでしょうか。日本社会が持っていた平等性が瓦解し、果てのない競争社会が産み出した「格差と貧困」は、昨年アメリカのバーニー・サンダース民主党大統領候補が社会主義者として呼びかけた「革命」の根拠に相通じるものです。

(参考)→バーニー・サンダースの言葉は、なぜ魂を揺さぶるのか

政治は結果責任であるといいます。「格差と貧困」「不平等・不安定社会」という結果と向き合うのなら、「人づくり革命」という言葉は出てこないと思います。必要なのは、日本社会の平等性を回復し、安定した社会生活を送ることができる生活の土台を築くための「政策変更」、あえて言えば「政策革命」です。ここを放棄して、「さあ人づくり革命断行だ」というのは世論の目先を変えて、「革命」という激しい言葉で人々を幻惑しているにすぎません。

安倍改造内閣 看板政策ネーミング「人づくり革命」大不評― スポニチ Sponichi Annex 2017年8月6日

政治風刺コントを手掛ける戯作(げさく)者の松崎菊也氏は「安倍政権のスローガン政治の典型だが、あまりにも厚かましい言葉。どんな人間がつくられるのか全然分からないし、そんな高慢な方々には人をつくってもらいたくない」と厳しく批判。また、日本大の岩井奉信教授(政治学)は「政治学的に言うと、革命とは支配者と被支配者が逆転すること。いわばちゃぶ台返しなのだが、なぜこの言葉を使ったのか。安倍政権は1億総活躍のころから、言葉だけが躍ってきている」と疑問を呈した。
影響は意外なところにも。都内の外資系会社で働く女性は英訳が見つからないと頭を悩ませる。「英訳できない大臣をつくらないでほしい。革命を"revolution"と訳すと、海外では体制を転覆させるような危険な印象になる。"1億総活躍"ができた時も頭を抱えたが、これはもう異次元。そもそも日本語でも趣旨がよく分からない」とため息をついた。

この記事を読みながら「一億総活躍担当大臣」が生まれた時のことを思い出した。2年前の秋、2015年10月のことだが、率直に違和感を表明したブログを読み返してみると「キャッチフレーズ」を取り巻く構図がそっくりであることに気づきます。

「一億総活躍」よりも「みんなちがってみんないい」(『太陽のまちから』2015年10月5日)

「女性活躍」という言葉の飲み込みの悪さは、客観的評価を誰がするのかが不明であることにもありました。「一億総活躍」と対象が広がると、ますますその感を強くします。
安倍首相は、どんなイメージを描いているのでしょうか。突破力のある担当大臣が「一億総活躍プラン」を力強く推進し、それに呼応して「国民会議」が「一億総活躍」を推奨すべく東京で会合を開くだけでなく、日本列島をあまねく組織化していく姿でしょうか。想像をふくらませてみると、次のようなイメージがわきあがります。
「国民会議」の広がりと共に、「一億総活躍大臣賞」が創設されて、表彰を受ける方はメディアが逐一クローズアップしていき、「一億総活躍プラン」が国民全体の共通目標となる...。
そもそも「活躍」とは何でしょうか。物事に秀でていたり、傑出した業績をあげたり、地道な努力を実らせたり、他者から見て評価できるという場合に使う言葉です。「総活躍」とは「全員が活躍する社会」という意味になり、裏を返せば「非活躍者ゼロの社会」となります。ありえない話です。

「女性活躍」「一億総活躍」に続いて、今回の安倍政権の「人づくり革命」がどのような波紋をもたらすのかは、これからの政治とメディア、そして世論にかかっています。支持率低下に直面しているとはいえ、政権から発する言葉は、その是非についても「話題」になります。この夏、代表選挙を迎えている野党第一党の民進党代表選挙で、何が語られているでしょうか。「人づくり革命」という奇妙なスローガンを相対化し、「格差と貧困」「不平等・不安定社会」を克服する社会モデルを提案しあい、議論するべき時だと思います。

現在の日本に必要なのは「人づくり革命」ではなく、「生命が大切にされる社会」です。企業収益と効率向上のためには、人の生命をむしばみ疲弊させることに鈍感だった政策の大転換です。内閣改造にあたって飛び出した「人づくり革命」という言葉が、唯一意味があるとすれば、そうした議論が深まり、加速する機会になるかもしれないということにあると考えています。

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