世田谷区の同性パートナーシップ宣誓書、生きづらい社会から互いに尊重され認め合う社会へ

今回の世田谷区の取り組みは、区内に住み20歳以上などの条件を満たしている同性カップルを「パートナー」として認めるもの。
The Huffington Post

8月4日、午後2時。世田谷区長としての定例記者会見に、普段より多くの取材記者やカメラが並びました。世田谷区として同性の「パートナーシップの宣誓」を取り扱う要綱の発表を準備していたからです。記者会見後、さっそくニュースに次のように流れました。

[世田谷区が同性カップル認める 11月開始]

今回の世田谷区の取り組みは、区内に住み20歳以上などの条件を満たしている同性カップルを「パートナー」として認めるもの。カップルは「パートナーシップ宣誓書」を区長に提出し、区が「受領証」を発行することになっている。法的な拘束力はないが、同性カップルとして区が認めることで「存在を認めてほしい」という気持ちを受け止めたいという。(2015年8月4日・ytvニュース)

まずは、「ふたりとも20歳以上」で「区内在住か、ひとりが区内在住でもう1人が区内転居予定」の同性カップルを対象として、区役所の窓口に「パートナーシップ宣誓書」を提出してもらいます。文面は、「私たちは『世田谷区パートナーシップ宣誓の取り扱いに関する要綱』に基づき、互いをその人生のパートナーとすることを宣誓し、署名をいたします」という簡単なもので、日付と住所、署名をしてもらい区で受け取ります。この「宣誓書」と引き替えに、区は「パートナーシップ宣誓受領証」を発行します。

その文面は「ここにおふたりが、『世田谷区パートナーシップ宣誓の取り扱いに関する要綱』に基づき、「パートナーシップの宣誓」をされたことを証します。これからの人生をお互いに支えあい、歩まれる、お二人のご多幸を願います」で始まり、「今後とも、おふたりが世田谷でいきいきと活躍されることを期待いたします」と結んでいます。窓口を訪れた同性カップルには提出いただいた「宣誓書」の写しと、「受領証」が手渡されます。

こうした発表に至るには、取り組みの歴史があります。2015年2月には「太陽のまちから」で次のように経過をふり返っています。

これまで、世田谷区では性的マイノリティであるがゆえに悩んでいる人たちの相談窓口を設けたり、6年続けて「セクシャル・マイノリティ理解講座」を開催したりしてきました。また、性的マイノリティの理解を目的とした職員研修も重ねています。さらに、2012年からは4年続けて、区内で開催される「LGBT(※)成人式」を後援し、私も来賓として毎回参列してきました。→「同性パートナーシップ証明書をどう受けとめるか」(2015年2月24日「太陽のまちから」

そして、昨年には区民3000人を対象に「男女共同参画に関する区民意識・実態調査」を行いました。男女それぞれ1500人、計3000人を対象にした調査の結果は注目に値するものでした。この課題に関心を寄せる区民が予想以上に多かったからです。

「性的マイノリティの方々の人権を守る啓発や施策について必要と思いますか?」という質問に対して、「必要」との回答は70%近くに達したのです(女性74.4%、男性63.3%)。「必要ない」との回答は4.3%にとどまっています。

一方で、人権擁護に関する区の考え方も、区民の意見を入れながら作成してきました。2013年9月に策定した世田谷区の長期ビジョン「世田谷区基本構想」では、「個人の尊厳を尊重し、多様性を認め合い、自分らしく生きる地域社会を築く」ことをめざし、昨年3月、行政の最上位計画である「世田谷区基本計画」に、「女性や子ども、高齢者、障害者、外国人、性的マイノリティなどを理由に差別されることなく、多様性を認め合い、人権の理解を深めるため、人権意識の啓発や理解の促進をします」と記しています。

この春、3月5日の日でした。上川あや区議会議員とLGBTの区民の当事者の皆さんが区を訪ねてこられました。楕円形のテーブルにずらりと並んで、ひとりひとり「住民票」「納税証明書」を掲げながら自己紹介、「パートナーが入院した時、医療現場で理解を得ることが出来ずに部屋に入れてもらえなかった。パートナーは耳が不自由なので自分が手話で症状を伝える必要があった」というお話から、不動産物件を探し、契約する時に苦労した等の話をうかがっています。

東京都世田谷区の保坂展人区長は5日、同性カップルを家族として扱い、パートナーとして公的に認める制度について「区長判断でできることに絞り、具体化したい」と述べた。その上で渋谷区が進める条例化は「必ずしも必要ない」との見解を示した。性同一性障害であることを公表している世田谷区議や同性カップルらから、同性同士のパートナーシップ登録認証制度などを創設するよう求める要望書を受け取った後、報道陣の取材に応じた。(「産経新聞」2015年3月5日)

私は、先行して同性パートナーシップ条例を成立させた渋谷区にも深い敬意を表しつつ、当事者の方に示した通り、条例によらない「区長裁量」で出来る「要綱」の形でなるべく時間をかけずに取り組むことを第一段階としたいと考えました。それが、今回の発表の内容です。ただし、今回の「宣誓書」の受領と「受領証明書」の発行で、すべての課題が解決するわけではありません。第2段階として、すでに始まっている世田谷区第2次男女共同参画プラン検討会に、LGBT当事者にも入ってもらい区の出来る範囲の事柄で検討すべきことを整理し、今後、何をするべきかを議論していただき、さらには提案をいただきたいと考えています。本来は法制度に深く関わる問題です。国政上の課題として、超党派議員連盟の動きにも自治体として注目し、情報交換をしたいと思います。

今回発表した「世田谷区パートナーシップの宣誓の取り組み」は11月に実施する予定です。この手法による法的効力は直接的には、ありません。しかし、こうして基礎自治体が、これまでになかった最初の一歩を進めることで、LGBT・性的マイノリティの皆さんが生きづらい社会から互いに尊重され認め合う社会へと変化していくのではないでしょうか。

※「LGBT」とは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの英語の頭文字を連ねた、性的少数者の総称。

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