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「ふるさと納税は世田谷区へ」と呼びかけ、「寄附文化醸成」を掲げます

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SETAGAYA
Bloomberg via Getty Images
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世田谷区は「ふるさと納税」による直撃を受けています。平成29年度の特別区民税減収額は30億6990万円(速報値)と、「30億円」と予算編成時に予想していた金額を超えました。平成28年の減収額は、1位横浜市(約32億円)、2位名古屋市(約19億円)、大阪市(約17億円)に続いて、世田谷区は約16億円と4位でしたが、上位の政令指定都市は減収額の75%が地方交付税で補てんされる一方、不交付団体の世田谷区は減収額の補てんはありません。実質的減収影響額では、全国の基礎自治体でもっとも大きな税源流出の影響を受けていることになります。

「ふるさと納税」による「税源流出30億円」に直面して 2017年2月21日

年間30億円の税財源の流出にまで膨らんだ規模は、すでに自治体財政を直撃し、限度を超えていると言わざるをえません。16億5千万なら園庭のある認可保育園5つ、30億円なら学校を1校改築するのに相当する金額となります。世田谷区は、この1年間で人口が約1万人増加し、未就学児童も増加し続けて「保育の充実・拡大」「子育て支援」に多額の投資をする一方で、高齢化社会を受けて特別養護老人ホームや高齢者施設、グループホーム等の需要にも応えています。

今年に入ってから、法人会など税務関係団体や各種団体の会合で、「ふるさと納税」の影響について「16億、30億とこのまま倍増していけば、自治体財政を直撃します。リーマンショックの渦中で、税収は100億円も減り、世田谷区の財政運営は、基金の取り崩しと起債、さらに事業の先送り等で困難をきわめたことを思い出します。私としては、数年先に区民サービスの停止や削減に至らないように、ふるさと納税の実情と区の対策についてのキャンペーンを行ないたい」と挨拶してきました。

「ふるさと納税」を利用する個人から見れば、2000円だけの負担で所得税や住民税が控除になる上に、各自治体から豪華な返礼品が数々届く制度は「いいことづくめ」にも感じます。私も、生まれ育ったふるさとへの思いを届けたり、東日本大震災や熊本地震の被災地支援の志をこめたふるさと納税には意義があり、制度を全否定するものではありません。ただ、現状はタガが外れた状態で、限度を超えているのではないかと発言してきました。

2015年(平成27年)の税制改正によって、住民税所得割額(特例分)の10%だった上限を20%に引き上げられ、「ふるさと納税バブル」が沸き立ちました。こうして、前年の2014年(平成26年)では全国の寄附額142億円・控除額が61億円だったのに対して、2015年(平成27年)には寄附額341億円・控除額184億円にふくらみ、さらに2016年(平成28年)は寄附額1471億円・控除額1001億円にはねあがりました。さらに、今年度も大きく膨張する見込みです。

私も取材を受けた『週刊ダイヤモンド』(2017年6月3日号) は次のように指摘しています。

住民税の考え方にも反する。自治体はかねて「保育や教育をはじめ、行政サービスによる受益に応じて負担してもらう税金(応益性の原則、地域の会費)が住民税だ」と説明し、徴収してきた。にもかかわらず、ふるさと納税で2000円だけ自己負担し、その何十倍もの返礼品をもらうと、なぜか地域の会費を一部払わなくてもよいことになってしまう。

「ふるさと納税」の影響で、16億円、30億円と倍々ゲームで、区税が減少すると自治体財政に穴があき、年々その穴が大きくなります。 自治体運営のためには、穴を埋めて予算を組み執行しなくてはなりません。今年度は、積み立てをしてきた基金を取り崩して埋めました。基金も税金の集積なので、ふるさと納税で出来た穴を納税者全体で埋めていることになります。もう、埋めきれないほど大きくなれば、一部の事業を止める等、影響が出ることになります。

そこまで税収減に直面しているのであれば、「世田谷区も返礼品を充実して勝負に出るべきだ」「嘆いている暇があれば、返礼品をそろえる準備をせよ」との厳しい意見もいただきます。ふるさと納税の影響が拡大していく渦中の1年半前から世田谷区で議論してきた結果、「返礼品競争に加わらない。あくまでも、ふるさと納税を利用した寄附を呼びかけ拡げていく」という結論にたどり着きました。都市対地方という不毛の対立構造をつくるべきではないと考えているからです。この問題で、メディアのインタビューが続きました。

「ふるさと納税での税収減、将来は100億円も」 ---- 保坂世田谷区長が語る23区の財源危機|BUSINESS INSIDER(2017年4月20日)

世田谷区では、2017年2月に対策本部を設立。
区民が居住する世田谷区でもふるさと納税ができることなど、制度を住民に周知させる方策などを議論した。また、節税や税控除を望むなら、ふるさと納税とは別に、世田谷区の基金に寄付することもでき、住民は児童養護施設や高齢者の福祉施設など7つの基金から税の使い道を選択できる。
自分のお金がどう使われているかをチェックできる仕組みだ。寄付文化の醸成のため、クラウドファンディングによる資金調達も検討しているという。

全国から世田谷区に「ふるさと納税」をすることはもちろん、世田谷区民が世田谷区に「ふるさと納税」をすることもできるんです...と言うと、「それは知らなかった」という区民に多く出会いました。昨年12月に、世田谷区も「ふるさと納税」のサイトである「ふるさとチョイス」に登録しました。ここには、寄附の宛て先として、8つの基金が提示されています。

3万円以上の寄附に対しては、5千円(送料込み)程度の「記念品」を送っています。金額がどれだけ多くなっても、選択できる「記念品」は同一です。これが、「ふるさと納税」に対しての世田谷区のやり方です。

6月はじめに、嬉しい報告がありました。昨年4月にスタートして大きな反響を呼んだ「児童養護施設退所者等奨学基金が3000万円を超えたという報告でした。しかも、この「ふるさとチョイス」からの寄附も好調です。昨年12月から5月までの「ふるさとチョイス」を通した奨学基金への寄附は、20件、350万5千円。区内のみならず、全国から寄附は寄せられています。寄附額が3000万円を突破したのは、基金の目的と使途がわかりやすいからだと聞いています。寄附全体は昨年4月から、344件にのぼり、百万円以上の高額寄附も区内外から頂いています。
http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/103/131/506/d00146552.html

寄附を頂いた方々には、奨学金を受けて進学した学生たちの感謝の声を掲載した通信を送付しています。児童養護施設退所者等奨学基金は、18歳で施設や里親のもとを出た若者たちに、フェアなスタートラインを提供しようという趣旨のもので、当初5000万円の区の一般会計から基金を切り出して始めました。ところが、10数人でも月3万円の給付型奨学金を支給し続けると5・6年で枯渇します。そこで、年間500万円を目標として募金を開始した結果、1年と少しで寄附額は当初目標の6倍に到達し、基金の持続可能性が強固になりました。

寄附型文化の醸成は、けっして夢物語や絵空事ではないことを証明できる事例となりました。「ふるさと納税」の勢いは、しばらくは続いていくものと思います。これまで、世田谷区としても、「区財政に深刻な影響が出てくる」という実態を十分に伝えきれなかったという点は、反省しています。チラシ・リーフレットをつくり、今後は本格的なキャンペーンに乗り出す予定です。

6年ぶりに861人(前年比337人減)と減少に転じた保育園待機児童問題ですが、保育園の整備と運営のために、平成29年度予算は450億円を超えました。認知証対策や、高齢者・障害者の福祉のためにも、行政ニーズは加速して膨張していきます。世田谷区の人口は、6月1日現在で898262人となり、まもなく90万人になります。

「ふるさと納税」をめぐり、これまでの勢いで利用者が膨張していけば、行政サービスが低下したり停止することを説明し、少なくとも地元自治体の行政サービスに影響がないように、「ふるさと納税の一定額は世田谷区へ」と呼びかけたいと思います。

現在の全国自治体が競い合う「ふるさと納税」を全否定するわけではありません。ただ、このまま個人住民税の約20%の他自治体への「ふるさと納税」が続くと、大きな影響が出ることが明らかである以上、「ふるさと納税を世田谷区へ」と呼びかけながら受け皿となる基金を、児童養護施設退所者支援奨学基金のように目的・使途が明確な形で提示していくことで、税源流出に歯止めをかけたいと考えています。

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