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報道を萎縮させる「原発タブー」を一人歩きさせない

2016年04月26日 19時36分 JST | 更新 2017年04月26日 18時12分 JST
ASSOCIATED PRESS
Rescuers and a search dog check the damage around a landslide area caused by earthquakes in Minamiaso, Kumamoto prefecture, Japan, Sunday, April 17, 2016. Two nights of increasingly terrifying earthquakes flattened houses and triggered major landslides in southern Japan. (AP Photo/Shizuo Kambayashi)

4月14日から強い地震が続いている熊本地震は、26日正午までに震度1以上の地震が912回を超えています。14日と16日の震度7の地震をはじめ、震度6強が2回、震度6弱が3回、震度5強が3回、震度5弱が7回と、震度5以上の地震が計17回もあり、震源域も広範囲にわたっています。熊本県をはじめとした被災地への支援に力を入れると共に、どうしても気になることがあります。「3.11」の東日本大震災の記憶をたどれば、現在まで続いている東京電力・福島第一原発事故を思い起こします。とすれば、唯一再稼働中の「川内原発」や、再稼働を準備している「伊方原発」に影響を与えないのか、どうしても気になります。

列島横切る巨大断層 「中央構造線」熊本地震の延長上 (日本経済新聞2016年4月22日)

熊本県から大分県にかけて強い地震が連続して発生、大きな被害を出した。内陸で起きる地震の常識を超えて100キロメートルもの範囲に震源が広がり、さらに東の愛媛県などに拡大するのではないかと懸念する声が出ている。一連の地震の震源の延長上に西日本を縦断する「中央構造線」と呼ばれる大規模な断層帯が存在するためだ。(中略) 「一番の懸念は、(一連の地震が)中央構造線につながっているということだ」。18日に開いた緊急記者会見で、日本地震学会会長の加藤照之さんはこう語った。

近代の観測事例はないということですが、記事は、1596年9月1日に中央構造線沿いの愛媛県でM7級の慶長伊予地震、3日後に200キロメートル離れた大分県で同規模の慶長豊後地震、さらに翌日に兵庫県で慶長伏見地震の記録が残っていると指摘しています。一方で、熊本地震を発端として、今後さらに広範囲に地震が広がるかどうかは専門家の意見もわかれていますが、中央構造線に近い愛媛県の伊方原発では着々と再稼働の手続きが進められています。

伊方原発3号機 審査終了 規制委 保安規定を認可 (朝日新聞4月19日)

 

原子力規制委員会は19日、四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転や事故時の対応手順を定めた「保安規定」を認可した。これで再稼働の前提となる三つの許認可の審査がすべて終わった。現地での設備の検査を経て、四電は6月下旬に原子炉へ核燃料を搬入し、7月下旬にも再稼働させたい意向だ。

地震発生から10日あまり、地震が続いている被災地からの映像レポートや、被害を伝えるニュースの合間にも「緊急地震速報」の警告音が鳴り響き、新たな地震速報が伝えられる場面がありました。そうしたNHKニュースの一場面でのことでした。地震速報を伝えるスタジオのアナウンサーの横から、「原発! 原発!」という声が入りこんできたことがありました。何事か起きたのかとテレビ画面を注視すると、「原発には異常はありません」という内容だったことが印象に残りました。ニュースの裏側がちらりと見えたようでもありながら、何を意味するのかは理解できませんでした。

ところが、原発をめぐる「NHK会長指示」(毎日新聞)の記事を読んで、ざらついた砂を飲みこんだような違和感は、こうした「報道内容の縛り」に起因するものだったのかと戦慄が走りました。会長指示とは何だったのでしょうか。

momii nhk

籾井勝人NHK会長

原発報道「公式発表で」 NHK会長指示 (毎日新聞2016年4月23日)

NHKが熊本地震発生を受けて開いた災害対策本部会議で、本部長を務める籾井勝人(もみい・かつと)会長が「原発については、住民の不安をいたずらにかき立てないよう、公式発表をベースに伝えることを続けてほしい」と指示していたことが22日、関係者の話で分かった。識者は「事実なら、報道現場に萎縮効果をもたらす発言だ」と指摘している。

この記事の末尾でNHK広報部は、「部内の会議についてはコメントできない。原発に関する報道は、住民の不安をいたずらにあおらないよう、従来通り事実に基づき正しい情報を伝える」としています。

「住民の不安をいたずらにあおる」という表現は、2011年3月の東京電力福島第一原発事故で、放射性物質の拡散についての危険性を警告する言説に対してネット上であふれ返った言葉です。この時、NHKのみならずテレビ報道は「公式発表」をベースに行なわれました。この公式発表が、「正確な情報を提示して住民を被爆から守る」結果とならなかったのは、その後に検証されている通りです。朝日新聞も、続いて次のように伝えています。

原発報道「公式発表ベースに」 NHK会長 部内会議で求める (朝日新聞 2016年4月23日)

NHKの災害対策本部会議で、本部長の籾井勝人会長が原発関連の報道について「住民の不安をいたずらにかき立てないよう、公式発表をベースに伝えてほしい」と話していたことが23日分かった。

関係者によると、会議は熊本地震の取材態勢などを各部局の責任者が報告するもので、理事や局長ら約100人が出席して20日朝に開かれた。最後に発言した籾井氏は、被災地で自衛隊が活動するようになって物資が届くようになったことなども報じるよう求めたという。

自衛隊が活動することで物資が届くようになったことは、大いに報道されていい事実です。一方で、「公式発表」にない直面する未解決の課題や、近い将来に起きるかもしれない事態について検証し、掘り下げるのも報道の大切な役割です。東京電力・福島第一原発事故を経験した私たちが、地震によって寸断された交通網を直視し、「川内原発」や「伊方原発」の避難計画の現実性を検証し、問題があれば具体的に指摘することこそ報道に他なりません。

公式発表によれば、これまでの地震で「川内原発」も「伊方原発」も異常が認められないとされています。原子力規制委員会の田中俊一委員長も4月18日、川内原発の運転停止をしないという判断について、 「科学的根拠がなければ、国民や政治家が止めてほしいと言ってもそうするつもりはない」(毎日新聞2016年4月18日)と述べています。

5年前の「3.11」前に、政府や電力会社や一連の「専門家」たちは、「大規模な原発事故は起こらない、その安全性は科学的に証明されている」という言説を私たちの社会に刷り込んでいました。その「科学的根拠」がいかに脆く、自然災害を前に崩れ去ったのかを、私たちは謙虚に学んだはずではなかったのでしょうか。田中委員長が規制当局として着目すべきなのは「運転を止めない科学的根拠」ではなく、「震源域の拡大による原発近くの強震でも安全性を確保できる科学的根拠」ではないでしょうか。

地震と減災 原発はなぜ止まらない (東京新聞2016年4月20日)

「熊本地震は、その規模も発生のメカニズムも、過去に類例のない、極めて特異な地震である。複数の活断層が関係し、断層帯を離れた地域にも、地震が飛び火しているという。

通説とは異なり、布田川断層帯は、巨大噴火の痕跡である阿蘇のカルデラ内まで延びていた。

海底に潜む未知の活断層の影響なども指摘され、広域にわたる全体像の再検討が、必要とされている。正体不明なのである。未知の大地震が起きたということは、原発再稼働の前提も崩されたということだ

未知の地震が発生し、その影響がさらに広域に及ぶ恐れがあるとするならば、少なくともその実態が明らかになり、その上で「問題なし」とされない限り、とても「安全」とは言い難い。過去の想定内で判断するということは、3.11の教訓の否定であり、安全神話の時代に立ち戻るということだ。

東京電力福島第一発電所の重大事故に至った「3・11の教訓の否定」とは、過去の経験則にこだわり、未知の解明されていない地震のメカニズムを直視しない姿勢です。私たちは「想定外」という発想を抜け出して、あらゆる事態をあらかじめ考える時に来ていると思います。

政府・原子力規制委員会の「公式発表」は、「今のところ原発に異常はない」とのフレームに絞った見解です。この「今のところ原発に異常はない」というアナウンスを相対化し、多角的な視点で問題点を摘出して、より広い視野で判断ができるように幅広く情報提供するのが報道の役割です。

「想定外に備え、川内原発は一時稼働停止を」 30キロ圏住民調査を行った広瀬弘忠氏に聞く

(『東洋経済オンライン』 2016年4月26日)

大規模な地震が相次いでいることから、現在は赤信号が点滅している状態だ。火山の噴火が差し迫っていることが察知できた場合にはいち早く原子炉を止め、使用済み燃料をプールから取り出して安全な場所に移送する手はずになっている。それができるとは思えないが、似た状況が地震によって起きる可能性があるのだから、あえて止めない判断をする理由はない。

今回、気象庁は最初の地震をいったん本震とみなしたものの、後にさらに大きな地震が発生したことからもわかるように、想定外はいつでも起こりうる。ステレオタイプな発想をしていると、想定外の事象に巻き込まれてしまう危険性がある。シナリオが外れた場合のリスクを考えたうえであらかじめ危険を取り除くべきだ。

川内原発、伊方原発の「住民避難計画」を調査・検証した広瀬弘忠氏(安全・安心研究センター)は、「赤信号が点滅している状態では、電力会社は想定外の事象を防ぐためにいったん立ち止まるべきだ。それが原発の一時稼働停止だ」といいます。「想定外の事象」によるリスクを排除する合理的な提言だと思います。

こうした冷静な指摘をふまえて、政府・原子力規制委員会の見解と方針を「科学的に検証」し、妥当な判断に導く役割をはたすのが報道の仕事であるはずです。「政府見解や公式発表」を繰り返しているだけなら、こうした議論はあらかじめ封印されたままになります。

原発再稼働について、通常は異なる立場であっても、「重大事故を繰り返さない」という一点で合意点を形成しリスクを早めに回避するためには、「一時稼働停止」をした上で今回の地震と災害の未解明の事象の分析を行ない、正確な現状把握を優先するのが妥当な判断だと私も思います。

報道の自由度、日本は72位 国際NGO 「問題がある」 (朝日新聞2016年4月20日)

国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)は20日、2016年の「報道の自由度ランキング」を発表した。日本は、対象の180カ国・地域のうち、前年より順位が11下がって72位だった。特定秘密保護法の施行から1年余りを経て、「多くのメディアが自主規制し、独立性を欠いている」と指摘した。世界的にも報道の自由は損なわれつつあるという。

この記事を書いている4月26日は、30年前にチェルノブイリ原発事故が起きた日です。あれだけの大事故さえも、日本では起こり得ないと軽視されて、その25年後に東京電力福島第一原発事故を迎えてしまいました。チェルノブイリから福島第一原発事故に至る間、テレビには「原発タブー」が存在して安全神話がつくられていったことを忘れるわけにはいきません。今、ふたたび「原発タブー」がよみがえりつつあります。「公式発表」以外のことを伝えにくくなっているのは歴史の逆流であり、時計の針を強引に5年以上前に戻すことになります。思い切って視野を拡大し、それぞれの場で発言する連鎖反応をつくりだしていくことが決定的に重要です。

私自身にとっては、今日(4月26日)は、1年前の世田谷区長選挙で再選をはたし、「ハフィントンポスト」で「太陽のまちから」(『せたがやYES!の力で第2ステージのスタートを』2015年4月26日)の1回目を書き始めた日にもあたります。1年前の再選を決めた選挙でも「原発は再稼働せずに廃炉に。エネルギー転換を進めます」と公約で鮮明にしました。過酷な原発事故を繰り返さないために、私自身も初心に戻って発言し行動したいと思います。