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介護報酬引き下げに見る社会福祉法人の隘路

2015年01月03日 02時11分 JST | 更新 2015年03月02日 19時12分 JST
Andrew Bret Wallis via Getty Images

3年ごとに見直される介護報酬改定が今年行われます。介護報酬は既に引き下げの方向が既定路線として進められており、全体の引き下げ幅は3%前後が軸となる見通しとも報道されています。

社会保障と税の一体改革で三党合意した介護職員の給与の月額平均1万円程度の増加は維持され、認知症対策や在宅介護の推進費もカットしない一方で、特別養護老人ホームは利益率が高いという理由で大幅に削減する考えです。このことから、今年の改定が社会福祉法人を狙い撃ちしたものであるという認識が広まっています。果たして社会福祉法人の事業は本当に「おいしい」事業なのでしょうか?

社会福祉法2条及び60条によれば、第一種社会福祉事業である老人福祉法上の特別養護老人ホームは国、地方公共団体又は社会福祉法人が経営することが「原則」と定められており、特別養護老人ホームは民間参入が阻まれている「非営利事業」となっています。非営利事業を行う社会福祉法人には様々な税制上のメリットがあります。社会福祉法人は法人税、印紙税、消費税、市町村都道府県民税、固定資産税、不動産取得税など、国税・地方税両方の分野で全部あるいは一部非課税措置がとられており、優遇されています。

また、厚生労働省の社会保障審議会第94回(平成25年5月31日)の配布資料によれば、特別養護老人ホーム1施設平均では、内部留保が約3.1億円、そのうち資金留保は約1.6億円との調査結果を発表しており、大きな内部留保を抱えていることも指摘されています。

これらのことから、法人税減税の代替財源として社会福祉法人にも課税ベースを拡大すべきであるという議論や、施設整備にかかる補助金の見直しをすべきだという風当たりが強まっているのです。厚生労働省も社会福祉法人改革には取り組んでおり、社会福祉法人の財務諸表の公開に踏み切るなど、透明化に務める努力はしていると思います。それでも、現状の介護保険費用の総額が10兆円、10年後には団塊世代が軒並み75歳以上となり、20兆円にも上るという試算がなされる中では、効率化の要請は非常に強く、もはや防ぎきれないという状況なのではないでしょうか?

しかし、私は社会福祉法人を槍玉に上げ、単に「儲けすぎだから削減しろ」という大号令は非常に危険だと考えています。なぜなら社会福祉法が「非営利」と定義されているからこそ生じる部分が見過ごされている感が否めないからです。会計基準においても、施設整備等の大型補助金が収入と処理されて、見た目上の内部留保が膨らんで見えるなど、営利企業会計と異なる側面も考慮しなければなりません。

社会福祉法人の中には、実態がブラック企業と化しているもの、公的側面が強いのにも拘らず私物化されているものなど、改善や指導が必要な法人はたくさんありますが、そのいぽうで懸命に地域との共生を模索し、医療連携にも取り組んで地域の核となっている法人もたくさんあります。実際、非営利だからこそ、真面目に取り組めば取り組むほど利益が減っていくという「隘路」に悩まされている法人が多いのです。

そうした中での一律の介護報酬引き下げは、良い法人も悪い法人も一斉に「あやめてしまえ」という乱暴な結果を招くことになってしまうのではないでしょうか?例えば個人タクシーには「マスター制度」というものがあり、優良タクシーには星が3つ付いているという「優良差別化」の仕組みがあります。厚生労働省も知恵を絞って、優良な社会福祉法人は経営の基盤が安定するような介護報酬上の優良差別化の取り組みを考えるべきではないでしょうか?

もっとも、厚生労働省の有能な官僚は間違いなくこう言うでしょう。「言われなくたってそんなことはとっくに考えている。だけど財務省が言うことを聞かないんだ。」ならば世論に訴えたらどうでしょうか?社会保障審議会にしても、公表しているとは言えまだまだ内向き。とても自ら世論をリードしているとは言えません。