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「見える化」によるナレッジ・シェアリング

2015年05月12日 17時35分 JST

この週末は昨年度終了した文部科学省科学研究費の最終報告書と格闘しています。この数年で、年度ごとの収支報告や、新しく採択された研究費の交付申請書など、どんどんオンライン化されてきました。数年、秘書さんに任せていたことを今年は自分で行っており、現場の変化を実感しつつあります。

自分が研究者の駆け出しの頃にも、最初は確か手書きで報告書を書きました。日本語は小学校の時代から「マス目に合わせて文字を書き入れる」という手習いの伝統があるので、大人が書く報告書でも、そんな風にして「研究成果を600〜800字で記入のこと」となっていました。

平成26年度に終了した科研費の報告書は、「概要」の部分はむしろ少なくなって「300字」となりましたが、別様式のWordファイルをアップロードせよ、となっていました。10ポイントの字で二段組の報告書は、字数制限なし、図表の挿入OKとなっていて、大幅ボリュームアップ! 5年間頂いた研究費の報告書では、中身も、ですが、もちろん「論文発表・学会発表・図書」というパートも年数に比例して多くなります。細かい間違いをしないように、こういう業績を仕上げるのは根気のいる作業ですが、この5年間の自分の活動を振り返るには良い機会でもあります。

さて、この制度を社会の側から見てみましょう。「大隅典子 科研費」とキーワードを入力すれば、たちどころに私のドメインが挙がってきます。あるいは、「マウス音声コミュニケーション 大隅典子」でも同じサイトに行き着いて、そういうキーワードが入った研究課題を見つけることができます。いずれ、上記の報告書もこのサイトに載るものと思います(註)。また、個々の研究者には科研費を申請する際に「研究者番号」が与えられますが、さらにこの番号は「研究者リゾルバーID」とリンクしており、他のデータベースにまとめられている業績リストや、Researchmapなどに飛ぶこともできます。つまり、研究者の営みは、これまで以上に「見える化」されているのです。

これは、国民全体にとって大きな財産だと思います。私たち科学者は、プロ相手には英語で執筆する「科学論文」に大きな価値を置いていますが(分野にもよりますが)、多くの日本の方々にとっては、しかも専門外であればなおのこと、母国語である日本語で書かれた研究成果は、英語の論文よりも使い勝手があるでしょう。紙媒体の時代よりも、情報がクラウド化された現代では、科学者、研究者が、税金を使って行って得た「知」を皆で共有できるのです。時代は「ナレッジ・シェアリング」になったのだと思います。

逆に言えば、研究者はもはや象牙の塔に閉じこもることはできず、その行いは常にウォッチされているのだともいえます。かつて言われた「お天道様が見ている」という言い回しは、今では「クラウド様が見ている」ということでしょうか......。

「この報告書が誰かに読んでもらえて何かのヒントになればいいなぁ」と思いながら、人前にさらして恥ずかしくないようにしなければ、と改めて思いました。

註:この新しい様式の報告書はまだKAKENHIデータベース上で閲覧できる状態にはなっていません。我々が報告書を指定の学術振興会サーバにアップロードするのが5月半ばくらい。それが実際に個々の研究者のドメインに紐付けられるのだろうと思います。

(2015年5月9日「大隅典子の仙台通信」より転載)