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祝!ノーベル生理学医学賞が「場所細胞・格子細胞」の発見に

2014年10月07日 14時19分 JST | 更新 2014年12月06日 19時12分 JST

科研費申請の山場と論文投稿が重なってデスクワークに没頭している間にノーベル賞ウィークの最初の発表、生理学医学賞の受賞者のアナウンスがありました。

The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2014John O'Keefe, May-Britt Moser, Edvard Moser

今年は神経科学! しかも、齧歯類を用いた空間認知記憶のメカニズムについてということで、子年生まれとしては二重に嬉しいです。さらに3名の受賞者のお一人が女性だったことも個人的にはとても嬉しい。

賞金の半分が授与されるJohn O'Keefe博士@UCLの研究は1970年代にさかのぼります。海馬という記憶に重要な脳の構造に、「場所細胞 place cells」という細胞が存在していて、ラットが二次元空間のある場所を通過したときに「発火する」ことを見出したという有名なお話です。

O'Keefe, J., and Dostrovsky, J. (1971). The hippocampus as a spatial map. Preliminary evidence from unit activity in the freely‐moving rat. Brain Research 34, 171-175.

O´Keefe, J. (1976). Place units in the hippocampus of the freely moving rat. Experimental Neurology 51, 78-109.

その仕事を引き継いで発展させたのがMoser夫妻@ノルウェー科学技術大学。この場合は、海馬ではなくて、嗅内野と呼ばれる部位なのですが、ちょうど「格子状の細胞 grid cells」が場所の認知に合わせて活動することを発見し、位置、方向、速度などが感じ取られているらしいことが示されました。私は方向音痴ではありますが、たぶん「方向」と「速度」は感知できているのではないかと思っています。

Fyhn, M., Molden, S., Witter, M.P., Moser, E.I., Moser, M.B. (2004) Spatial representation in the entorhinal cortex. Science 305, 1258-1264.

Hafting, T., Fyhn, M., Molden, S., Moser, M.B., and Moser, E.I. (2005). Microstructure of spatial map in the entorhinal cortex. Nature 436, 801-806.

Sargolini, F., Fyhn, M., Hafting, T., McNaughton, B.L., Witter, M.P., Moser, M.B., and Moser, E.I. (2006). Conjunctive representation of position, direction, and velocity in the entorhinal cortex. Science 312, 758-762.

今見たら、このモーゼル先生らの論文には、Menno Peter Witter先生が共著者になっていましたが、ウィッター先生は何度も東北大学で特別講義をして頂いています。ウィッター先生も海馬のご専門です。

Menno Peter Witter 教授 集中講義

(東北大学脳センターHPより)

現在、日本人の田代歩さんという方が、つい先ごろまでこのノルウェー科学技術大学で独立ポジションでおられたようです。神経新生の研究分野の大御所、Fred Gage研出身で、現在はシンガポールでラボを持っている模様。若手の海外での活躍は何より。でもって、直近の日本神経科学大会では以下のような講演が為されたようです(生憎、聞き損ねました......)。

osumi

4つ目の演題の田代歩さんという方が、まさに、海馬歯状回の神経新生と空間情報記憶の研究を融合的に発展させておられるようです。ちなみに、このシンポジウムのオーガナイザーの井ノ口馨先生は、以前CRESTの同じチームにご参画頂いた、高校の大先輩であり、共同研究者です。北村貴司さんは、元井ノ口研、現利根川研@MITで、海馬の神経新生が記憶の消去に関わることを2009年にCell誌に発表された方。

「脳は3歳で完成する」という神経神話は正しくなくて、海馬などでは生涯にわたってニューロンが産生され続けますが、そのことが動物の記憶・学習・気分に大きく影響することがどんどん明らかになりつつあります。上記のCRESTは、そのことを強く提唱したプロジェクトでした。

osumi

海馬は、有名なHM氏の症例から、短期記憶に重要であることが知られるようになりましたが、ヒトでは相対的に小さいことと、サルでは電極が刺しにくい深いところにあるため実験しにくいことから、齧歯類での海馬の機能や神経新生の研究は、ともすると軽視されがちでした。しかしながら、例えば、アルツハイマー病の初期の症状が「外に出て行って戻って来られない」などの空間認知の異常であったり、海馬の萎縮であることも知られるようになって、ヒトでもその重要性が少しずつ浸透しつつあると思われます。

ちょうど、先月9月21日に行われた東北大学包括的脳科学研究・教育推進センター主催の市民講座のテーマが「海馬」だったのは、なんとタイムリーなことでしょう! 河北新報の8日付に報告記事が掲載予定です。

2014年10月7日「大隅典子の仙台通信」より転載)