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社会を憎んだ少年が「利他」に生きる大人になったわけ

見過ごされてしまいそうなものや、見えにくいものの本質を捉えられるように、これからも世の中のあらゆることに対して敏感でありたいですね。

2017年10月19日 17時02分 JST | 更新 2017年10月19日 17時02分 JST

「生まれた場所が違っていれば」「あのときこうしていれば」という後悔や、「なぜあいつはうまくいっているのに自分は」という嫉妬。そのまま表に出すのは、はばかられる......でも、きっと誰もが一度は持ったことのある感情かもしれません。

今回のインタビューは、そんな思いを抱えながら育っていたはずが、いつの間にか「人のためにお金と時間を使う大人になっていた」と語る編集者、徳谷柿次郎さん。

どこでも地元メディア「ジモコロ」、小さな声を届けるWEBマガジン「BAMP」といったウェブメディアを手掛ける彼を形づくったローカルでの経験、そして今見据える「利他に生きる」ことについて語ってもらいました。

東京へのカウンターとしての「ジモコロ」

-「ローカル」というテーマでの活躍が注目されている柿次郎さんですが、もともとそういった領域に興味があったんですか?

「ジモコロ」をやる前は特になかったんですよ。登山が好き、くらいですかね。

-それまではどんな仕事を?

上京後に入社した有限会社ノオトという編集プロダクションで、取材の基礎やビジネスマンが何を求めているかを企画出しする修行をしていました。その後、株式会社バーグハンバーグバーグに転職。ディレクションや広報、オウンドメディアの運用・編集をやっていましたね。そこで培ったスキルと、もともと自分が持っていたカルチャーを掛け算して「ジモコロ」が生まれた感じです。

-上京前からヒップホップやストリートカルチャーに関心があったそうですね。

はい。僕は「ヒップホップとコーヒーとカレー」が好きなんですけど、それってどれも多様性のカルチャーで、実はローカルで起きていることとすごく近いんです。

-多様性のカルチャーですか。

そうですね。ローカルにはいろんな人がいて、いろんな奥深い文化があるんですが、ヒップホップもカレーもコーヒーも、その土地にしかない多様性があって、そこが自分のなかでつながるんです。それは実際にその土地に行ってみないとわからないことでもありますね。

-確かに最近はローカルがおもしろいですよね。

今、インターネットで誰でも得られるような情報に飽きている人って増えているんじゃないかと思っていて。みんな「自分だけの情報」を欲しがっているなかで、ローカルにはネットの情報だけを頼りにしていても得られない、リアルなおもしろがたくさん転がっているわけです。

そこに注目するようになったのは、僕がカウンターカルチャー好きというのもありますね。「ジモコロ」も東京の情報発信ばかりするメディアへのカウンターで。ただ、闇雲にカウンターをやっても意味がないので、実際にローカルにたくさん行って、奥深い世界に触れて、そのおもしろさをちゃんと伝えていきたいと考えながらやっているんです。

-そういう意味では、ネタ的なものから社会性のあるものまでネタのバリエーションも広がっていますし、「ジモコロ」はローカルをテーマにしたメディアとしては一つのブランドを確立していますよね。

メディアとして立たせることはできているかもしれないけど、ローカルは知れば知るほど奥深いし、知らないこともどんどん増えていくんですよね。だから、好奇心を広げすぎるのにも限界があるし、すべてを知り尽くすことはむずかしいなと感じることもありますね。

それに「地方創生」みたいなテーマも、いかんともしがたい世の中の流れがある中で、個人的には「今のやり方では無理じゃない?」とも思います。東京に集中しているものを分散させていくことくらいはできると思いますけど。

ローカルの「利他おじさん」

-東京には面白いものが集中しているからこそ、人もお金も集まってくるんだと思うんですが、分散させるためには東京以外の場所に、人やお金を惹きつけるものが必要ですよね。

それでいうと、ジモコロで取り上げた「タケノコ王」なんかはひとつの成功体験ですね。もともと地方で頑張っているおもしろい人がいて、それをネットで広げることで最終的に東京のテレビ局が取材に行くような現象が生まれたので。ローカルにいる個性との予期せぬ出会いを引き出していくことって、自分の役割としてありなんじゃないかと思っています。

-ローカルにはそういう、魅力ある人がまだまだ埋もれている。

そうそう。今長野に家を借りて東京との二拠点生活をしているんですけど、個性的なおじさんがたくさんいるんですよ。しかもある程度落ち着いていてリソースが余っているから利他的で。「なんでそこまでやってくれるの」っていうくらい、しかもそれが当たり前の行動になっている。

-利他的、ですか。

言葉として意識したのはコルクの佐渡島庸平さんを取材したときです。そのとき佐渡島さんが「マンガ家ってもともと人のために働くのは嫌いじゃない、人のために時間とお金を使うことが一番得になる」と言っていて。それを聞いて僕も共感したし、「みんな自分のことばかり考えないで、意識して利他的に生きればいいのに」と思ったんです。

-確かにローカルでは損得抜きの行動を当たり前に見かけますよね。

ローカルにハマる理由ってみんなそこなんですよね。利他的に生きると、いざ自分が困ったときにもみんなが助けてくれる可能性が増えますから、それは人の生存戦略みたいなものなんだと思いますね。

社会を憎んだ少年時代、上京で抜け出たコンプレックス

-そういえば、柿次郎さんの上京物語的な記事が以前ネットで話題になっていました。

地元の大阪にいたときは社会をちょっと憎んでましたね(笑)。なんでこんなに理不尽なことが多いんだろうとか。それも政治とかの話じゃなくって、なんで俺ばっかりっていうものすごく個人的な。

-確かにあのインタビューを読むと、それも自然というか...。

本当に当時はそればっかり。でも同じようなことを思っている人ってローカルにたくさんいると思うんですよね。そもそも選択肢がないから。僕は東京に出て、そういう思いから抜け出られたからよかったですけど。だからそういう人はどんどん東京に出てくればいいと思っています。

-そうやって選択肢を持った柿次郎さんが、今度は自分からローカルに向かっているというのがまた、面白いですよね。

結婚してから「子育て」のことを考え出したのも大きいんです。新婚旅行でボルネオに行ったんですけど、そこでは地域のみんなで子育てをするんですよ。子どもに優しい世界。その感覚ってめっちゃいいなと。東京ではそもそも自分自身が消耗してしまってる中、そこで子供を育てるイメージもあまり湧かなくて。満員電車ツラいだろうなーとか。

-とてもよくわかります。

以前取材した旭山動物園の園長も「チンパンジーは大人みんなで子育てする」という話を聞いていて、チンパンジーでもできるのになんで人間にできないんだと。東京ではお金がないと生きていけないし、母親と子供が1対1で向き合わないといけないからどんどんエネルギーが割かれてしまう。

-生物としての不自然さが生まれているのかもしれませんね。

でも、自然豊かな土地に行ったら心に余裕のある人が多い。何かお願いごとをしたら「いいよ!」と喜んで引き受けてくれるような雰囲気。ここなら子育てもやりやすいのかなと感じました。

可視化された数字よりも畑をつくれる筋肉を

-それでいうと、そういったある意味人間らしさを求める話と、AIによる労働代替のような合理化の進む未来と、どちらも現実として私たちの目の前にありますよね。幸せとは何かを考える場面も増えてきましたが、柿次郎さんはこれからのことをどう見ていますか?

うーん。未来が今よりも劇的に良くなることはないと思っています。富裕層と貧困層の世界はより広がるでしょうし。でも僕が取り組んでいるのは、そういった社会課題に対して関与できるかもしれない仕事じゃないですか。それは面白いんじゃないかと。

世の中がこれだけ社会変革の時代を迎えている中でやっぱり生き残りたいですし。奪われない側になる方法も、そういった大きな流れに関与しない生き方も両方知りたいんですよね。

-大きな流れに関与しない生き方。それはこれまでのお話に出てきたようなローカル的な生き方のことですか。

そうです。小さなコミュニティで東京の動きを無視して生きる人も増えるでしょう。僕の場合はローカルメディアをやっているから、全国各地の人たちに知見をもらって、それを生きる術、家族を守る術にしていく。さらにその中で利他的に生きていくことで、いつか自分に返ってくるものもあるだろうと思っています。

-利他が当たり前のコミュニティだと、生きていく術を見つけやすいんでしょうか。

見つけやすいというよりは、当たり前に見つかるという感じじゃないでしょうか。単純に東京のように競争が激しい場所だと、人は埋もれてしまうし、注目されている評価経済も、数字が可視化されると結局コンプレックスを持ちやすくなります。でもローカルはそんな数字より、畑をつくれる筋肉があるとか、生きる根っこをちゃんと持ってる人が多いですから、そういう人たちに囲まれたら、自分の生き方も変わっていくでしょうね。

-一緒にメディアを運営している方々をはじめ、柿次郎さんの周りにはそういう人が集まってきている印象があります。

ちゃんと自分のスタイルで生きている人が多いですよね。自分のことなんてたかが知れている、ということをわかっている人が多いんだと思います。だから、利他的な関係人口を増やしていくことの方にも関心を持つ。そういう生き方をみんなが実践していくことで、たまにしか会わなくても、困ったときには助け合えるような関係ができたらいいじゃないですか。今僕が運営しているHuuuuという会社でも、フリーランスと会社の中間くらいのギルド的な働き方でそんなかかわり方をつくっていこうとしているところです。

-あぁ、いいですね!

あと、意識しているのは「浪費の美学」です。自分が取材などでかかわった人の作品とか商品はちゃんと買う、それで関係をつくっていく。これからお金の使い方や概念が変わっていくと思いますが、そのときにどれだけ気持ちのいい使い方、利他的なお金の使い方ができるかっていうことが、僕は大切になっていくと思います。

-そういう価値の戻し方、返し方がもっと広がっていくといいですよね。

はい。そのためにも、常に敏感肌であることが重要だと思っています。このまま東京の広告や消費の世界にいても鈍感になってしまうという危機感があったし、社会問題に時間を使っているのもそこです。見過ごされてしまいそうなものや、見えにくいものの本質を捉えられるように、これからも世の中のあらゆることに対して敏感でありたいですね。

※撮影協力:ほしや(東京都台東区雷門2-13-1 KAMINARI 1F)


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(この記事は、"ハートに火をつける"Webメディア「70seeds」から転載しました)