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日本版1周年にあたりハフィントンポストに期待すること「21世紀のメディアの理想へ」

2014年05月23日 19時35分 JST | 更新 2014年07月23日 18時12分 JST

ハフィントンポストの日本版がスタートして1年経った。当初は読者が伸びる様子がなく「大丈夫かよ」などと心配、というより揶揄されていたのが、月間読者数1000万に達したというからその成長ぶりたるや素晴らしいものだ。その数だけとると、全国紙に引けをとらない存在だ。

ぼくは新しいメディアについて頑張って情報収集する人間なので、アメリカでのハフィントンポストの話は前々から聞いていた。その日本版ができるなんて面白いなあ、ぼくも書きたいなあ、と考えていたら友人が松浦編集長を紹介してくれた。杯を傾けながら話したのは去年の6月。ぼくのブログは時折読んでくれていたそうだ。それは光栄!というのでさっそく『クリエイティブビジネス論』の記事を転載してもらうことになった。

最初の記事は7月1日。初回だけは張り切ってオリジナルの文章を書いて寄稿したらけっこう「いいね!」がついた。それ以来、ブログを更新するとほぼ毎回、転載してもらっている。

『クリエイティビジネス論』はメディアの今後についてテレビを中心に書き進めているもので、一部の業界の人たちが読んでくれていた。でもハフィントンに転載されると、もっと広い層に読まれるようになったのを感じた。だったらと、テーマをもっと広げてみたくなった。

一方で、これまでにも増してソーシャルでの拡散を意識するようになった。ハフィントンポストはソーシャルの使い方がうまい。そしてとくにFacebookでは見出しとビジュアルがセットで拡散される。だったらビジュアルも企画性のあるものにした方がいいかもしれない。いまデスクを借りているデザイン会社Bee Staff Companyのアートディレクター、上田豪氏と相談し、見出しをキャッチコピーのように書き、それにビジュアルをつけてもらうやり方をはじめた。

誰かをヘイトすると、あなたがヘイトされる。」を皮切りに、いろんなテーマで試していった。徐々に"いいね!"数も増えていった。

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年末に書いた「日本人の普通は、実は昭和の普通にすぎない。」は5000いいね!を超えて驚いた。

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コピーとビジュアルを作るやり方と、ハフィントンポストの読者急増の相乗効果によってもたらされたのだと思う。

そして1月に「赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない。」が15万いいね!を超えるという、驚くべき事態が起こった。作戦通りと言うより、「一体全体何が起こってるんだ?」と戸惑った感じだった。

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戸惑いながらも、お母さんたちからの反響に動かされて、このテーマを掘り下げていった。もともとはメディア論の書き手だったのだけどなあ。まあそれもひとつの進み方なのだろうと積極的に受け止め、子育てについて考える変わったおっさんブロガーになっている。

ハフィントンポストは、大袈裟に言うと書き手としてのぼくを変えた。このメディアの上で、ぼくという書き手と、お母さんたちという読み手を引き合わせ、相互に影響を与え、ある意味で一緒に考えを進めている。メディアとはコミュニティのためにあるとぼくは考えているのだが、ぼくにとってはまさにその通りのことが起こったのだ。そしてそのことは、メディアと人びとの関係について考察する格好の題材となり、メディア論の書き手としてのぼくにも、多大なる影響を与えてくれている。

いつの間にかハフィントンポストはぼくにとって欠かせない存在になった。だからこそ一周年を迎えるいま、ぼくなりに今後への期待を書いておきたい。

1) 世界をひとつにするメディアになってほしい

メディアはコミュニティのためにあるとさっき書いた。この見地ではマスメディアとは"国"というコミュニティのために存在する。日本を日本にし、日本語を共通の言語にしたのも、津々浦々に共有できる文化体験をもたらしたのも、マスメディアなのだ。もやもやしていたであろう"日本"をはっきり形にしたのは新聞であり雑誌であり、ラジオでありテレビなのだ。

だがこの現象はこの二百年くらいの流れであり、憲法と言語を同じくし国境で区切られた"国家"とセットでの動きだ。日本はたまたま長らく"日本という国"を続けてきたので自覚しにくいが、近代的な意味での日本という国家はごく最近の捉え方だ。マスメディアが国境を越えて行くことはほとんどないのはそういうことなのだ。

インターネットによって少し話が変わってきた。国境を越えて存在するメディアが理論上ありえるし、現に出てきている。

ハフィントンポストは、インターナショナルなジャーナリズムをになえる可能性がある。いまもすでに、米国版や韓国版のニュースが翻訳されて配布されている。韓国旅客船事故のニュースを、韓国の視点でも読むことができる。これは画期的だし、ぼくたちに新しい意識を芽生えさせる可能性がある。幕末の志士たちが藩を越えて"日本のため"に動いたように、ぼくたちに日本を越えて"世界のために"動く気持ちをもたらすかもしれない。

例えばぼくが書いたブログに対し、コメントが日本人からも米国人からも韓国人からもつくとしたら。コメント欄で読者同士が国境を越えて議論できたなら。ベビーカーでお母さんが電車に乗ってきたらどうするか、各国の感覚を話し合えたら、こんなに素晴らしいことはないだろう。議論が、より普遍的なゴールにたどり着けるかもしれない。

翻訳技術が進めば、いつか実現するだろう。ハフィントンポストにはその可能性がある。

2) 新しいリベラリズムの言論の場として

ほんとうは"リベラリズム"という分類はしたくないのだけど。でもいま、右寄りの言説が飛び交い、政府の意志が右側に大きく傾いているように見える。

それに対するアンチテーゼを唱える際、いわゆる左翼的な、あえて言えば"旧左翼的"なタッチで主張するとなんというか時代への訴求力を持てない気がしてしまう。ハチマキ巻いてシュプレヒコール!的なものの言い方から脱皮していかないと、"勝てない"と思うのだ。共感を得られず力あるムーブメントになっていきそうにない。

ハフィントンポストには、そういう旧左翼的な罠に捕らわれず、時代に合ったさわやかな空気を持つ言説の場にできる可能性がある。いまを生きる人びとの生活感に根ざした、自然な感覚としてのリベラリズムのベースになれるかもしれない。

ここで言う"新しいリベラリズム"とはかなりいい加減で曖昧な枠組みだ。「右寄りの言論には肌が合わない」方向の言説、という程度の定義でしかない。

とにかくそういう言論の場にできるメディアはハフィントンポストくらいしか見当たらない気がする。そういう場はこれからこの国にとって重要度が高まるだろう。そういうメディアであることを、送り手も読む側も意識していくといいと思う。

3) 広告の新しいカタチを実現する

3つ目は、理念的な話からビジネスの話にいきなりなってしまうが広告について。だがメディアにとって広告の仕組みは理念と切り離せない。そしてハフィントンポストジャパンなら"理念的な"広告の仕組みも成立するのではないかと期待する。

ネットメディアは広告をバナーで表示し、PV数に応じて広告収入が得られる。このテーマに敏感な人なら知っての通り、このところ"PV数でいいのか"という議論が巻き起こっている。PV数で広告収入が決まるなら、中身を読まれなくてもいわゆる"釣り"の見出しをつければ「なんだなんだ?!」と人が読みに来てくれる。記事の最初の方だけ読んで「けっ!釣りかよ!」とすぐにページを離れてもPVにカウントされる。逆にじっくり中身を読んでも同じPV数。それでいいのか?

さらに、"バナーブラインドネス"と呼ばれる傾向が強まっている。WEBメディアに慣れてきた我々は、視界の中にバナーがあっても目に留めない読み方を自然にできるようになってしまった。そんな状態でいくら広告バナーを置いても思うほど効果がでない。実際、バナーのクリック率は長期的にじわじわ下がっているそうだ。

WEBメディアにはこうした問題を乗り越える新しい考え方が必要なのだ。いままでの広告の考え方を超えた理想的なやり方があるのではないか。ぼくはそう考えている。

広告は記事と別の枠の中に入れるものだった。言ってみれば、記事を読むのに邪魔になるのが広告だった。邪魔だけど、この会社がカネ出してるからこのバナー枠を使うのは、まあ仕方ないか。読者にとってはそんな受け止め方だっただろう。

広告はそんな"仕方ないもの"でいいのだろうか。広告と書き手と読者が、メディアの上で共存できるようなやり方はありえないのか。いや、あるはずだ。

そこから先、具体的な手法については様々な議論と試行錯誤が必要になる。実現するには数年間かかるかもしれない。ただ、そんな理想的な関係をメディアが構築しようとする、その意志が大事だと思う。ハフィントンポストには、理想へ向かう前向きな意志を期待している。

いささか居丈高なことを書いてしまったが、この1年をともに歩んできた書き手の一人として、ハフィントンポストに託す思いを表明させてもらった。こんなこと書きたくなるのも、この場にぼくなりに愛着を持ちはじめている証しだと思う。何より、たくさんの人たちとの出会いの機会をもらったし、みなさんから得るものも多かった。まさかブログを書くことでこんなことが起こるとは思わなかった。何かをやりつづけていると、何かに結びつくのだなあ。

最後にちゃんとお祝いの言葉を。松浦編集長、そしてスタッフのみなさん、1周年おめでとうございます。2年目以降もさらにこの場が楽しく実のあるものにしていってください。ぼくもまた書いていきます!

コミュニケーションディレクター/メディアコンサルタント

境 治

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