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境 治 Headshot

池上彰とテレビ東京が起こした、ちょっとした革命

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この記事を読む前提として、この度の参議院選挙で、いわゆる開票特番を各テレビ局が放送し、池上彰さんをキャスターに据えたテレビ東京の選挙特番の内容が特筆すべきものだった、ということは知っておいてほしい。これについては、ブロガー杉本穂高さんが詳しく書いている。いまひとつわかってないのだが、という人は、このリンクからその記事を読んでおいてくださいね。

ぼくもこの番組を観た。というのは、前回衆議院選挙の時もテレビ東京は池上キャスターで選挙特番をやっていて、抜群に面白かったからだ。池上さんらしいわかりやすい解説もよかったわけだが、候補者へのインタビューが切り込みすぎるくらい切り込んでいた。ズバズバ切っていく感じ。質問される誰もがたじろいでいた。

杉本さんの記事にもあるけど、今回も切り込みまくっていて、中でも公明党の解説がすごかった。観ているこっちがハラハラするほど。つまり、公明党の支持母体は創価学会という宗教団体だと、はっきり言ってのけたのだ。それも、ちゃんと事前に22時前後から宗教団体の話を扱うと宣言していた。そのことへの注目ぶりはツイッターにはっきり表れていた。22時過ぎのツイッターの件数を各局別に見てみると・・・こうだった。

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(日本テレビ放送網のアプリ「WizTV」の画面より)

一目瞭然だが、池上彰特番がだんぜんツイートを集めている。

でも正直、ツイート数が上がっても、視聴率が高いわけでもないんだろうなと思っていた。

ところが、翌日驚いた。視聴率でもテレビ東京の池上彰特番がトップだったのだ。あ、いや、正確に言うと、民放の選挙特番の中ではトップだった、ということ。NHKの方が選挙特番としては視聴率がよかった。また、フジテレビはサッカー中継を放送して、高視聴率だった。

ぼくが仕入れた情報では(と言うか、いまはネットで検索すれば誰でも入手できる情報だが)、20時台の視聴率はNHKが15%強、他民放が軒並み一桁台の中、テレビ東京は10.2%。さらに21時を過ぎるとフジテレビのサッカー中継が18%強だったのを除くと、ずーっとテレビ東京が民放トップだった。

これはかなりすごいことなのかな?と思っていたら、某テレビ局の友人が「これはえらいことですわ」と言う。

報道番組でテレビ東京がトップというのはテレビ界としてはありえない、あってはならないことなのだそうだ。一方TBSは最下位。これまたTBSとしてはあってはならない事態だろう。選挙特番という報道の粋を集めたような番組でテレビ東京にお株を奪われるとは。

去年12月の衆議院選挙の特番でできた下地がまずあり、それが今回の特番ではツイッターでみんなが「池上さんまた切り込んでる!」とつぶやいてうまく拡散し、前回観なかった視聴者を引きずり込んでいったのではないか。その友人は分析する。

ぼくがまさにそうだった。池上特番を見ようと決めていたわけではなく、なんとなーくザッピングしながら各局眺めていたら「いつもと同じだなあ」と受けとめた。そんな中、ツイッター上で「池上さん」の名前が飛び交っていたので、今回も池上さんがキャスターか、前回面白かったから、今回も面白いのかな?と思ってテレビ東京にチャンネルを合わせたのだった。

一方、今回は特別だったとも言えるだろう。結果が見えていた選挙で、20時に各局の特番がスタートしたら大勢はほとんど決まっていた。選挙特番は本来は「どの党がどう議席を獲得するか」をドラマチックに追っていくものだが、この選挙では追っていきようがなかった。

ただ、池上彰とテレビ東京が今回突きつけたのは、「いままで通りの選挙特番やってても仕方なくね?」という問いかけだとも言える。視点を変えよう、議席数を追うだけはやめよう、選挙の本質を掘り下げよう、そんな明確なコンセプトが番組に出ていた。その表れが、公明党と創価学会の関係にはっきりふれたことだった。(しかしこれはテレビのタブーを破っただけで、そんなことみんな知ってることだ。選挙のたびにまわりの創価学会の知人が公明党への投票を勧誘してくるのだから。みんなが知ってることにふれないできた点にこそ、テレビの課題があるような気がする)

今回の選挙で、国政は揺るがなかったが、選挙特番という場ではちょっとした革命が起こった。さっきの局の友人は「池上さんが一度作った一種のブランドは、次の選挙特番ではさらに強くなるかもしれませんねー」と言う。でも、また国政選挙があったら、各局テレビ東京に負けじと戦略を練ってほしいものだ。だってそうやって進歩していくものだからね、人間は。

(※この記事は2013年7月24日の「クリエイティブビジネス論!~焼け跡に光を灯そう~」より転載しました)