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『水曜どうでしょう』にはテレビの未来へのヒントがつまっている

2013年11月08日 01時14分 JST | 更新 2014年01月07日 19時12分 JST

11月1日に開催した「ソーシャルTVカンファレンス」では最後のコマで豪華ゲストによるバトルトークをぼくの司会で行った。モデレーター特典としてゲストはぼくが呼びたい人が大集合。角川アスキー総研の遠藤諭さん、東芝で"録画神"と呼ばれる片岡秀夫さん、博報堂のソーシャルメディアの女王・森永真弓さん、そして北海道テレビ『水曜どうでしょう』のディレクター藤村忠寿さん、通称藤村D。

藤村Dをわざわざ北海道からお招きしたのは『水曜どうでしょう』には実はテレビの将来が見え隠れしている、とぼくが感じているからだ。藤村Dはソーシャルメディアは使わない。けれど、『水曜どうでしょう』はソーシャルテレビのひとつの形だと考えている。

『水曜どうでしょう』の新作は北海道テレビではすでに10月からスタートしている。東京では約一カ月遅れて今月11月10日からMXテレビで放送される。これを読んでいる東京在住の皆さん、今度の日曜日はとにかくこの番組を観てほしい。今を時めく大泉洋と、何者かよくわからない鈴井貴之という人物が出てきて、とりたてて特別なこともしないのになーと思っているうちにその独特の世界に引きずり込まれるだろう。

カンファレンスで藤村Dは言ってのけた。「ぼくは視聴率は気にしてません」視聴率についてこんなことを平気で言うテレビマンは他にはいないのではないか。

「いい番組作りが大事だから視聴率は気にしないようにしてます」そんなことを言う人はいるだろう。でも藤村Dはそういう美しい姿勢とはまったくちがう。「視聴率の高さで入る広告収入より、番組販売やネット配信、DVD販売の方がずっと高いですから」

つまり藤村Dにとって視聴率は最優先するべきではない数値なのだ。視聴率を気にして番組がその時だけの価値になって逆にDVDで観る価値がない、てなことになってしまうと損をする。視聴率は気にせず、本気でいい番組作りに取り組んだ方がDVDが売れる。そんな確信を持てるだけの実績があるのだ。

藤村Dはまた、視聴者についてこう言う。「ぼくにとって視聴者は友達なんですよ」この言い方は新鮮だ。だが考えてみたら当たり前だ。視聴者は制作者と同じ人間だ。なのに、ともすると制作者は、視聴者との間に線を引き、違いを意識し、壁を作ってしまう。"大衆"という言い方がそうだが、視聴者は大勢の塊のように捉えられがちで、ひとりひとりの顔を見えなくさせていた。視聴者を友達と捉えるのは大いなる発想の転換かもしれない。

『水曜どうでしょう』の面白さ、その独特の持ち味、そしてソーシャルな感じはこの"友達"に起因している。森永さんはこの番組を「とくに何も起こらない、友達のプライベートなビデオを見せられている感覚だ」と評した。「それ、褒めてないんじゃないですか?」と不平のように言いつつ藤村Dはまんざらでもなさそう。なぜならば、まさしくそういう作り方なのだ。

友達と作ったビデオを友達に見せるように放送する。だから友達のつもりで観れば、こんなに面白い映像もない。この番組には藤村Dがカメラの横で笑う声がそのまま放送され、時には画面に登場する。テレビの常識では、制作者は黒子で画面には出てこないものだが、これも友達だから出ちゃうわけだ。

意外にも『水曜どうでしょう』の公式サイトは90年代に立ち上げたものなのだそうだ。そこではファンの書き込みが盛んになされた。友達だからだ。そして藤村Dは書き込みに対して友達のように応じた。腹が立つ書き込みには平気で、その言い方はなんだと友達に言い返すように書いた。そのやり取りで、藤村Dは番組のファンの気持ちを把握していったのだそうだ。自然と番組作りにも反映されたと言う。今で言う"ソーシャルリスニング"を10年以上前にソーシャルメディアなしでやっていたのだ。

公式サイトは起ち上げた当時のフォーマットのままで、今見ると古いスタイルに見える。もちろんソーシャルを取り入れた新しい仕組みなどない。"ソーシャル"とは実は、ツールやテクノロジーより、姿勢、考え方なのだ。旧式でも、交流したい意志があればソーシャルになりえる。

藤村Dはこうして十数年かけてファンを"育てて"きた。気の長い話ではあるが、こうしてファンという友達と深い関係が築けているので、番組を取り巻くビジネスは"読める"ものになっている。視聴率という水物ではなく、販売という地に足のついたビジネス展開ができている。いわゆる"エンゲージメント"が確立できている。そうなるともはや"放送"を超えた存在になる。だから「どうでしょう祭り」を開催すると何万人も集まるのだ。

公式サイトには「一生どうでしょうします」との宣言が書かれている。ファンが待ってくれている限り、続けていける。制作者としてこれほど素敵なこともないだろう。さらに藤村Dは「どうでしょう」を中心にしながらもドラマ制作も手がけている。もちろん"どうでしょうファン"が観てくれる。番組販売され全国のテレビ局で放送されているのでファンは全国にいる。藤村Dが東京でトークイベントをやると大勢集まる。

『水曜どうでしょう』が提示するテレビの未来像とは整理すると、視聴者と友達としてつきあう → ファンが増え強いきずなができる → 視聴率とは別の経済価値ができる → ファンたちとつきあいながら番組を続けていく。テレビの未来というと何かテクノロジーを駆使し新しいことをしつづけなければならないと考えがちだが、『水曜どうでしょう』が提示するのは、人間として基本的なことだ。誠意を持って作りつづけ、交流しつづける。テレビに限らず、創造的な活動を続けることは結局、そういうことなのかもしれない。

今度の日曜日からMXテレビでスタートする『水曜どうでしょう』の新作を、ここで書いたことを頭に入れて見ると何かが発見できるかもしれない。いや、そんな七面倒は置いといて、純粋に楽しめばいいのかな。

コミュニケーションディレクター/コピーライター/メディア戦略家

境 治

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(※この記事は、2013年11月7日の「クリエイティブビジネス論!~焼け跡に光を灯そう~」から転載しました)