テレビ情報を再構築すると、新ビジネスが見えてくる?

2012年4月から、"ソーシャルテレビ推進会議"という勉強会を運営している。テレビとソーシャルメディアの連携がメインだが、大きくとらえるとテレビとネットの融合の先にある可能性を考えていく集まりだ。テレビ局やIT企業、メーカーやスポンサー企業などから興味を持ってくれた皆さんに参加してもらっている。私的な勉強会なので会社を代表して参加するわけではない。その分、ざっくばらんな話ができるのが、運営する側としても面白い。

2012年4月から、"ソーシャルテレビ推進会議"という勉強会を運営している。テレビとソーシャルメディアの連携がメインだが、大きくとらえるとテレビとネットの融合の先にある可能性を考えていく集まりだ。テレビ局やIT企業、メーカーやスポンサー企業などから興味を持ってくれた皆さんに参加してもらっている。私的な勉強会なので会社を代表して参加するわけではない。その分、ざっくばらんな話ができるのが、運営する側としても面白い。

毎月定例会をやる中で、参加者にいろいろと発表してもらっている。先日開催された2月の定例会では番組情報を扱う2社の方に発表してもらった。

IPGという会社は業界の人でもあまり知らないかもしれない。正式名称は株式会社インタラクティブ・プログラム・ガイド、なのだけど略称としてIPGと呼ばれることが多い。何の会社かというと、EPGを扱う会社だ。

EPGとは、これ。ようするに番組表のこと。

今日はどんな番組あるのかな?いまどの番組が面白いのかな?と思ったら一昔前まではみんな新聞のテレビ欄を見ていただろう。テレビ好きな人は専門の情報紙を買っていた。この番組情報を電子化したものがEPG(Electronic Program Guide)と呼ばれる。

IPGではこれをGガイドというサービス名で、メーカー受信機やYahoo!、携帯キャリアなどに提供している。。写真のようにテレビやレコーダーなどがわかりやすい例だ。でもそれだけでなく、デジタルデバイス上で出てくるテレビ番組情報はIPGが提供していることも多いようだ。何と言ってもスマートフォン上ではアプリとして提供されている。androidではプリインストールされていることが多いそうだ。だから普及率はかなり高い。

このGガイドはこれからどんどん進化していくそうだ。まず画像付きが標準になっていく。これは大きいと思う。どんな番組なのかは文字情報だけではなかなか伝わらない。画像がつくことで番組内容が直感的にイメージできる。逆に言うと、イメージしやすい画像をテレビ局側がうまく選ぶ必要があることになるが。

さらに、番組個別のハッシュタグやソーシャルアカウントへの入口になっていく。いまは番組についてつぶやく時、なんというハッシュタグにすればいいか明解ではない。視聴者の側で自然に集約されたものになっていくことが多い。今後は番組側で「このハッシュタグでつぶやいてね」と"公式ハッシュタグ"を設定するケースが増えてくるだろう。それをGガイドで明確に伝えるようになるとわかりやすい。

人びとの番組選択の中でEPGが果たす役割は今後、大きくなっていくだろう。すでに10代20代の若い世代では、新聞のテレビ欄よりEPGを見て番組を選ぶ傾向になっている。そこでどんな画像、どんな紹介文を置くかで、視聴に結びつく度合いが高まるはずだ。EPGは今後ますます重視すべき要素になるだろう。

一方、番組情報で注目されているのがエムデータ社だ。一カ月ほど前、2014年の1月にこんなリリースが発表されニュースになった。

リンクされている記事を読めばわかるが、エムデータ社にテレビ局と大手代理店が出資したというニュース。これはどういうことだろう。

エムデータ社は「TVメタデータ」を扱う会社だ。TVメタデータとは、テレビ番組の内容をテキスト化したもの。同社は水戸にある拠点で常時数十名のスタッフがテレビの前に張り付き、いま放送されている番組の情報を次々にテキストとして打ち込んでいるのだ。番組の出演者、しゃべった内容、とりあげた題材、とにかくあらゆる情報を文字にしている。

そんなことをして何になるのか?おそらくあなたの身近でも使われている。例えば最新のレコーダーには、録画した番組を観る時に"目次"機能があったりする。ニュース番組の各コーナーでとりあげた題材を文字で表示してくれるのだ。それを"拾い視聴"すれば、ニュースの中で自分に興味のあるものだけを観ることができる。

あるいは、どんな話題がどれだけ各テレビ番組でとりあげられたかもわかる。選挙の際にどの候補が合計何分語られたか、新発売の商品がどの番組で紹介されたか、どのタレントがどれだけ番組に露出しているか、などなどなど。TVメタデータの活用例は多様に考えられる。さらに、twitterなど他のデータも合わせて分析することで、いわゆるビッグデータ分析の重要な要素として扱うことも可能だ。

同社ではすでに、TVメタデータをソーシャルメディア上のデータなどと組み合わせて分析することで、AKB総選挙の結果や、国会議員選挙の結果予測も試みて、かなりの精度で的中させている。政治からマーケティングまで多様な領域でTVメタデータは生かせそうだ。

同社に民放各局と大手代理店が出資したことは、このメタデータを業界が公式に使って何らかのビジネスを検討していくということだろう。

さてここで紹介した2つの会社は両方とも"テレビ番組に関する情報"を扱っている。IPGでは広報的な意味で出された、番組の"事前情報"。"前メタ"とか"先メタ"などと呼ばれる。エムデータが扱っているのは放送された番組の情報。"後メタ"と呼ばれる。

こうした"メタ"をどう使うかは、いま書いたことだけではなくもっともっと広がりを持ちそうだ。そしてそれを探究することこそ、メディア界の新しいビジネスの開拓につながるかもしれない。

それにしても面白いと思うのは、"テキスト"が重要になってきていることだ。そしてエムデータはそれを人力で生成している。コミュニケーションの最小要素は結局コトバであり、それを抽出するのも人間だ。メディア界の最新ビジネスはそんな素朴なところから生まれるのだととらえると、不思議な気がしないだろうか。デジタルはツールであり、扱われる要素は結局はアナログなのだ。コミュニケーションとはそもそも、体温から離れようのない領域なのかもしれない。

さてこのソーシャルテレビ推進会議は、引き続き運営していくつもりだ。テレビとネットの重なる領域に興味のある方は、連絡をくれれば参加してもらえますよ。

コミュニケーションディレクター/メディアコンサルタント

境 治

sakaiosamu62@gmail.com

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