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【赤ちゃんにやさしい国へ】子育てコミュニティには、寅さんが必要かもしれない〜まごめ共同保育所(その2)〜

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【赤ちゃんにやさしい国へ】のシリーズでは、待機児童の問題の裏でひっそり進んできた、新しい保育活動を取材している。自主保育と共同保育には、行政に頼らないこれからの保育のモデルが見いだせる気がして、とくに取材してきた。最後に行ったまごめ共同保育所では、ユートピアのイメージを重ねて記事を書いた。

【赤ちゃんにやさしい国へ】子供たちがのびのび過ごす時間が、ユートピアなのかもしれない〜ごたごた荘とまごめ共同保育所〜

取材の中で"からあげ"という人物がさかんに登場した。からあげ?どうやら男性で、保育の仕事をしていたらしい。定年で退職したのだそうだ。

2009年に制作された写真集がある。保護者で力を出しあって完成させた重厚な印刷物で、ボランティアで制作した保護者達の、共同保育への熱い気持ちが伝わってくる。その最後を飾るカタチでからあげのコメントが写真とともに掲載されている。真打ち登場といった感じだ。どうやら重鎮的な存在だったのかな?
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前回の取材では代表の松井さんにお会いできなかったこともあり、再度取材をお願いした。もちろん、からあげさんも呼んでくださいとお伝えした。日にちを調整する中で、2009年の写真集を中心になって制作した保護者の方も参加することになった。

取材には前回同様、三輪舎の編集者・中岡祐介と、映像ディレクター・山本遊子も同行した。

当日、代表の松井妙子さん、"からあげ"こと渡辺勝美さん、そして保護者OBで写真集制作をした早川昭仁さんに集まっていただき、座談会的にいろいろお話をお聞きした。
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からあげさんは、先の写真から武骨な職人さんみたいなイメージを持っていたのだが、実際にお会いすると穏やかでいつも微笑んでいる優しそうなおじさまだった。

1時間半ほどの間に、お三方からたっぷりいろんなお話をうかがうことができた。全部書くとえらく長くなるので、ポイントと思う部分を書き出していこう。

●共同保育所が必要だった時代
まごめ共同保育所は75年にスタートした。当時は三歳以下は親の手で育てるものだという世の中の風潮で、働きながら子育てをする母親たちは肩身の狭い思いをしていた。預ける先も圧倒的に少なく、数少ない公的保育所も"預かってあげる"という姿勢だった。四角四面で融通がまったく利かず、働く母親の立場での要望など受け付けてくれる雰囲気はまったくなかった。
自分たちの手で自分たちに合ったやり方で保育所をつくりたい、そんな思いを共有する人たちが集まって、馬込に保育所をつくろうと動き出した。
松井さんは、そんな母親たちから保育士役をやって欲しいと頼まれ、そのために資格を取った。親たちが集まって親たちが職員を集めて、まごめ共同保育所は誕生した。
似た動きは首都圏のあちこちで起こり、ごたごた荘もたつのこ共同保育所も同じ頃できている。当初から連携をとり情報共有して助け合っていた。
馬込に作るつもりが場所が見つからず、ようやく見つけたのが大田区中央だったが名前は"まごめ共同保育所"とした。そこは二年半で出て、大田区山王に移った。二軒続きの長屋で隣はやくざの家庭だった。そこにも若い母親と幼子がおり、まごめで預かった。母親は徐々にとけ込んでくれたがやくざである旦那はそれを嫌い、仲が悪くなったので別の場所を探した。
同じ山王に、別のいい場所が見つかった。からあげが参加したのは三軒目に移った翌年だった。

●ハワイの美容師が、なぜか日本で保育者に
渡辺勝美さんはハワイで美容師をやっていた。もともと、美容師と保育士が高校時代からの夢で、保育の仕事もやろうと美容師を辞めて向こうで試験を受けたら落ちてしまった。それで日本に戻らざるをえなくなり、こっちで保育士の勉強をしていたらたまたままごめに勤める女性保育士と知りあい、募集していると言うので面接に行った。
当時まごめは毎週運営会議を行い、終わったら父親たちが酒盛りをしていた。そこに面接に行き、面食らう中、言われたのが「うちは資格なんていらないよ。学校から教わるんじゃなく子どもたちに教わって育児をするんだ」ということ。なるほどと思い、結局保育士の資格はとらなかった。
採用されて初日に行ったら子どもたちが彼の髪形を"刈り上げ"と言えずに"からあげ"と言った。以来みんなからからあげと呼ばれ自分でも気に入っている。子どもたちも本名を知らないだろう。
保育士の資格は昔は男性はとれなかった。資格が取れるようになり男性が保育士になったあともなかなかなじめなかった。子どもたちは男性にそもそも慣れていないので時間がかかる。男性は足手まといになりがちで、採用があまり進まなかった。共同保育は全般に早くから男性を受け入れていて、なじみやすかった。

●父親たちも自然に参加する雰囲気
設立して間もない頃からまごめには男性の保育士がいた。それが、父親も参加しやすい雰囲気をつくったようだ。からあげの参加でますますそんな空気になった。からあげは遊びが上手で、子どもたちの人気者だった。男性の保育士がいると遊びがダイナミックになるし父親たちも参加しやすくなる。
保育所に入る時、"ここはいろんなことを自分たちでやらなければならない"と説明をする。そのため、入る時点で父親も"育児に参加する"気持ちができている。
からあげがはじめた"遊び塾"というイベントが年一回開催される。夏休みの好例なので、今年ももうすぐだ。卒業したあとも子どもたちは大勢参加し、保護者も一緒に参加している。早川さんも長年参加してきたのだが、今年はお子さんが中学受験で参加しない。自分だけ参加することにしたら、子どもはあきれているが、これからもずっと参加したいと早川さんは言う。

ここに書いたことだけでもいろいろと発見があり、考えさせられることがたくさんある。

自主保育や共同保育を取材してきて、どこも30〜40年前あたりからはじまっているのが不思議だった。少なくとも90年代以降にスタートしたものはない。その理由がよくわかった。保育所がどうしようもないほど少なかったのだ。男女雇用機会均等法以前の時代、女性が働きつづけることがそもそも社会的にまともに扱われていなかった。この時代のことはもっと調べてみたいものだ。

それから、「男性と保育」について考えさせられた。男性が保育士にいると、いろんな効用がある。男性だから遊び方が広がる、という側面。そして一方、男性がいると父親たちも参加しやすい、という側面。男性が育児に向いてないわけでもないし、育児が嫌いなはずもない。そういう雰囲気を作り、男性なりの参加を促したり役割を与えれば生き生きと入ってくる。それにより、育児を取り巻く空気が大きく変わるようだ。

遊び塾について語る早川さんは、こう言っていた。「損得で言うとトクするから参加してるんだと思います。面白いし人生が豊かになる」そんな気持ちを、男性が育児について素直に言える環境は素晴らしいと思う。この国の育児についてもっとも欠けているのは、父親が楽しく参加する環境ではないだろうか。男女が平等かどうか、とか、女性の社会進出が進んでいるかどうか、という話とは別に、子育てが楽しい!と父親たちが感じとる機会が必要なのだと思う。

おそらく、そういう雰囲気を、からあげさんが作ってきたのだろう。彼が持つ、のびのびと自由な雰囲気が、父親たちの心を開放したのだ、きっと。彼は、ずっと独身で、退職した今も子どもたちの家庭を訪ねており、親も含めて大歓迎しているそうだ。

前回まごめ保育所について"ユートピア"と書いたが、大袈裟に言うとこれからの日本のモデルがそこにはある気がする。ぼくたちが近代化と都市化の中で失ってしまった、失うべきでなかった大切なものがここにはある。そしてそれは情緒的なものでは決してなく、システム化できるはずだ。こうすればいいんじゃない?まごめ保育所は何かをぼくたちに教えてくれようとしている。

帰りの電車の中で、映像ディレクター・山本遊子と感想を語りあった。どうしても話題はからあげの話になる。自らも子育て真っ最中の彼女が、ぼそりと言った。「からあげさんは、寅さんですよね」

ああ、そうか!確かにそうだ!

寅さんは根無し草で自由で、責任も負っていない。時にはみんなに心配や迷惑をかけるが、自由な存在だからこそ何かを解決したり、人びとの心にゆとりをもたらしたりする。そういう"立場"を持たない人が、実はコミュニティにとってとても有益だったりする。まごめでも、からあげさんはみんなから愛され、のびのび振る舞うことでみんなを呼び寄せた。リーダーとは別の立場でコミュニティのムードを作ってきた。

"自由な立場の男性"が子育てコミュニティには必要なのではないか。そしてそこには、男性の育児への関わり方のヒントがある気もする。

さて今回も、取材を映像にしてお届けしよう。お三方の話を凝縮したものだが、その空気を感じてもらえればと思う。


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取材サポート・中岡祐介(三輪舎)
映像制作・山本遊子(Uguisu Production)
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