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テレビの中心が東京とは限らない時代になってきた〜NHK文研フォーラム「テレビ視聴の東西差を探る」より〜

2015年03月11日 14時25分 JST | 更新 2015年05月10日 18時12分 JST

毎年春に開催される、NHK文研フォーラム。今年は先週、3月3日(火)から5日(木)の開催だった。全体のプログラムは、このページで見ることができる。

ぼくは3日のプログラムに申し込み、前々から楽しみにしていた。実はお目当てはプログラムAの「『これからのテレビ』求められる役割とは何か?」という企画で、文研のジャンヌ・ダルクこと村上圭子さんが総務省の渡辺克也審議官に凛々しく突っ込む姿を見に行ったのだ。同じ日のプログラムB「テレビ視聴の東西差」もなかなか面白そうだし、お!コメンテイターとして影山貴彦さんのお名前が! 元毎日放送のプロデューサーでいまは同志社女子大で教えておられる影山さんには一度お会いしてみたかった、というやや不純な理由でBにも申し込んだ。そしたら、Aとはまったく別の方向でこちらも面白かったし、いまの興味と近いので、これについてレポートしたい。

最初に発表者として文研の舟越雅さんとコメンテイター影山さんが紹介されるのだが、のっけから影山さんが「舟越さんは今回初の発表ということで、みなさん盛り上げてあげてください!」と関西イントネーションでしゃべると、会場がわっと沸いた。影山さん、さすがだ! やっぱり関西のテレビマンはさっと会場の空気をつかんでしまうんだなあ。舟越さんがんばれ!という気持ちにもなり、空気が最初から和んだ。

NHK文研では、ビデオリサーチ社とはちがう手法で全国の視聴調査を長年定期的に行ってきたそうだ。その中から、主にこの十年の関東一都六県と近畿二府四県の調査結果をもとに分析している。どうして関東と関西じゃなくて、近畿なのかなあと不思議に思ったらすかさず影山さんがそこをつっこんでまた会場を和ませた。

いよいよ本題に入っていくのだけど、まず関東と近畿ではテレビの視聴時間に差があり、さらに細かく見ていくと平日夜にその差が大きいのがわかりました、と舟越さんが発表する。では全国的にはどうかというので出てきたのがこの図だ。

(あ、ここから先は、NHK文研にお願いして当日使われたスライドの一部をデータでいただいてここでお見せしている。文研の皆さんありがとうございます。)

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これ面白いなあと思ったのだけど、夜間の視聴時間が近畿と、あと北海道だけ長い。北海道は寒いからだろうと言いたくなるが、じゃあ東北は?と考えていくと謎だ。それから中部はなんでこんなに短いのか。とにかく、視聴時間には地域差があるのだ。

「この差はタイガースのせいかもしれませんよ。関西人はいまだにタイガース戦毎日見ますからね。」と影山さんが解説。確かに、関東では巨人戦は昔ほど見られていない。

さらに舟越さんのデータは深いところに入っていく。今度は平日夜の視聴率を世代別に見てみよう。まずは2005年のデータ。

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ひと目でわかるように、2005年時点では、関東と近畿の視聴率の差はどの世代でもほとんどないと言っていい。これが2014年になるとこうなってしまう。

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差が歴然だ。どの世代でも近畿のほうが視聴率が高いという結果がはっきり出ている。そしてなにより、若い世代で関東の視聴率がぐっと下がってしまっている。このスライドを見た時、ぼくは声に出して「ええー?!」と言っていた。

影山さんも驚きながらすかさず、「なるほど、近畿の若い人のほうが、テレビを愛してくれてるわけですね。うん、いい傾向ですね!」関西のテレビマンとしての喜びをダイレクトに言葉にしてまた笑いをとっている。いやしかし実際、これは喜んでいいんじゃないだろうか。もちろん、近畿でも若い人の数値が下がっているのは下がっているが、関東が12ポイントも下がったのに対し、近畿は5ポイントダウンに過ぎない。テレビ離れは近畿ではさほど起こっていないとも言える。これはタイガースだけのせいでもなさそうだ。

それがさらに、このリストで見えてくる。今度は、2005年と2014年の視聴率が高い番組のリストだ。まずは関東の若い世代。

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10本中7つがフジテレビというのがまず目立つ。そして10本中9つまで10%以上。それが2014年にはフジ一色ではなくなり、視聴率は10%をすべて切ってしまう。

同様の比較を近畿で行ったのが次のリストだ。これを見た時、またもやぼくは「ええー?!」と声に出してしまった。

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まず2005年のリストを、関東のものと比べてほしい。上位3番組は同じだし、視聴率もほぼ同じだ。それ以降も、順位は違うが同じものが多い。10本中7つが同じ。

ところが2014年になると、今度は同じ番組が少なくなる。2005年と入れ替わる感じで、10本中3本だけが同じ番組。その上、近畿では10%以上のものが4本ある。

それから、近畿の上位番組は『ホンマでっか!?TV』『探偵!ナイトスクープ』『ダウンタウンDX』と、関西のお笑い芸人が司会か、そもそも関西制作の番組か、というもので『ケンミンSHOW』も実は讀売テレビの制作だったりする。「極悪がんぼ」については影山さんがムッヒッヒと笑いながら「関西人は、こういうの好きなんですね」と解説した。

さらに影山さんが言うには「このところ、一度東京に出て成功した芸人が、関西ローカルの番組をはじめているんですね。凱旋番組と呼んでいますけど、さんまさんもダウンタウンも東野くんも、やってるんです」。つまり、関西色が濃い番組を、若い人も好む傾向が出てきている、ということだろうか。

ではもっと前はどうだったのか。ヒント的に舟越さんが見せてくれたのが、1982年のリストだ。

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一目瞭然だが、全然ちがう。「欽ドン」と「ザ・ベストテン」そして巨人阪神戦が両方にあるが、あとはちがうのだ。

ちなみに近畿の10位にある「原始猿人バーゴン」というのが気になる。影山さんが「これは何でしょうねえ?」と舟越さんに振ると、まさかの回答「調べました!」に会場が沸く。影山さんが「川口浩探検隊みたいですねえ」と冗談のつもりで言ったのだと思うが「そうです、川口浩でした」と、まるで漫才みたいなやりとりになって大笑いした。

さてこんな風に、舟越さんの熱心な探求の貴重な成果を、影山さんのおかげで関西特有の状況を解説してもらいながら楽しく聞くことができた。お二人にはほんとうにお疲れさまでしたと言いたい。

一方で、ぼくは強い衝撃を受け、いろんなことを考えさせてもらった。ここから、いくつかの仮説が見いだせそうだ。

実はこのプログラムがぼくにとってタイムリーだったのは、放送批評懇談会が発行する月刊誌『GALAC/ぎゃらく』の5月号が「テレビイノベーションは大阪からはじまる」という特集を組むのだ。ぼくもそこで原稿を書いているので、このところ大阪のテレビ文化について考えを巡らせていた。

「大阪というカウンターカルチャー」というタイトルで、黎明期には東京と並ぶテレビの中心だった大阪が、75年の「腸捻転の解消」以降は「東京から情報と広告を全国一律に送り届ける」装置となったテレビシステムの中、東京に主導権を渡した感がある。でもいままた、独自の存在感を発揮しようとしているのではないか。そんな趣旨で原稿を書いたのだ。

そんな仮説に、奇しくもこの調査が裏打ちをくれた気がした。82年のデータが出てきたが、このころはまだまだ、近畿圏のテレビ文化は独自性を保ち、東西で好まれる番組には差異ができていたのだと言える。

「全国一律ネットワーク」が90年代までに完成し、フジテレビの番組パワーが絶大な集約力を発揮した。だから2005年の高位番組は東西ともフジテレビ・関西テレビのものが大半を占めた。

「一律化」の流れがいまピークを過ぎ、むしろ個別の地域化が起こりはじめているのではないか。関西芸人の「凱旋番組」はその顕著な例だろう。そしていま、ローカル番組が個々の地域で人気を博したり他県で番組販売が成立したりしている。その代表が『水曜どうでしょう』だが、もはやそれだけではない。FBS福岡放送の『発見らくちゃく!』、広島ホームテレビ『アグレッシブですけど、何か?』などが続々秘かな話題を巻き起こしている。

仮に近畿で若者のテレビ離れが関西芸人の番組によって多少なりとも食い止められているとしたら、各ローカル局でも地域に根ざした番組によって若い人にテレビを見てもらえるのかもしれない。テレビ離れとは実は、東京離れのことかもしれないのだ。そう解釈すると、ローカル局が次にどう動くべきか、見えてこないだろうか。

それからもうひとつ、業界は「東京の数字」ばかり見過ぎているのではないか。視聴率はその典型で、関東のほうが若者のテレビ離れが激しいとしたら、関東の視聴率は年配寄りだということになる。年配に偏った視聴率に、全国に流される番組の傾向が左右されていいのか。関東ではこうだったが近畿ではこうだし、中京ではこうで九州と北海道ではこうだ。本来はそういう見方が必要のはずで、少なくとも東京の数字は他の地域とはこれほどちがうのだと認識すべきだろう。

さらに言えば、在京キー局は、もっと足下を見つめるべきなのかもしれない。在京キー局は、キー局である前に、関東ローカル局なのだとも言える。関東の人びとに、身近な若者たちに、どんな番組を提供するべきか。そんな問いかけをもとにテレビに向き合うことで、少しでも多くの若者がテレビに振り向いてくれるかもしれない。そんなことはないだろうか。

「テレビの前にいる人たちは何を求めているのかという想像力、それを持って、番組をつくる創造力、想像力と創造力。それぞれがいま大事だと思います。」さんざん笑わせてくれた影山さんが、最後にそんなグッと来るコメントを言って締めた。憎いなあ。でもホントにそうだ。テレビは、誰のために番組を作っているのか、いま再び見つめるべき時なのではないだろうか。お茶の間、とよく言うけど、それは東京のお茶の間なのか、大阪のお茶の間なのか、いややっぱり日本中のお茶の間なのか。想像して、創造すべき時なのだと思う。

※月刊『GALAC/ぎゃらく』5月号・特集「テレビイノベーションは大阪から始まる」は4月6日発売。お近くの書店で予約しよう!

→月刊『GYALAC/ぎゃらく』WEBサイト

※クリエイティブビジネス論(2015年3月11日)より転載

コピーライター/メディアコンサルタント

境 治

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