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ワーキングマザーは互いを発見することで生まれた〜博報堂リーママPJ〜

2015年04月24日 16時35分 JST | 更新 2015年06月23日 18時12分 JST

ワーキングマザーという言葉がある。ぼくたちはいま、これを普通に使うし、その言葉の後ろに様々の課題や社会的なテーマを自然に想起する。働きながら子育てをするのはただでさえ大変なのに、保育所は足りないし育休制度はやっと整ってきたばかり。そんな事柄がおのずから頭の中にわき出てくる。

だが例えばぼくが結婚して子どもが生まれた二十年前に、ワーキングマザーという言葉がどれだけ一般化していたかは定かではない。別にその頃もあった言葉だろうし、そもそも造語でも何でもないのだから、90年代に「ワーキングマザー」と言われたら「ああ、働いてるお母さんのことね」と中学生でも分かる英語として難なく受け止めただろう。

だがどうやら、ワーキングマザーという言葉が生活の中や、こうしてブログ記事の中に普通に登場し、その後ろ側にある問題を即座にイメージするようになったのは、ごくごく最近のようだ。少なくとも、この5年ぐらいの話ではないだろうか。

それはつまり、この国のワーキングマザーは実はあちこちに困難を背負わされた存在なのだとみんなが認識するようになったのが、それくらい最近のことだということだ。それがあまりについ最近だという事実に気づくと、がく然とする。

それはどういうことなんだろう。例えば50代前半のぼくたちの世代にワーキングマザーはいなかったのだろうか。そんなことはなく、いる。昔の会社の同僚にも、いるし、今も当時同様働きつづけている女性はかなりいる。

ただ、同じ職場で働きつづける女性は今に比べると少ないと思う。大変だから。大変さをこなす女性はスーパーキャリアウーマンで、仕事もチョーできるし、家庭でもチョー頑張っているようだ。つまり働きつづける女性はそういう、「超」がついて頑張れる女性に限られていたように思う。

そしてその頃は、ワーキングマザーという言葉はあまり使われてなかったし、その背景にある課題も浮上していなかったと思う。いま思うと不思議ではないだろうか。

博報堂リーママ・プロジェクトの田中和子さんから話を聞いて、ワーキングマザーという概念の意外な新しさに気づいた。

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この活動は博報堂の社内プロジェクトだが、社外とどんどんコミュニケーションをとって他のワーキングマザー、彼女たちの言うリーママとつながっていき、いろんな問題と意識を共有するために続けられている。「リーママ」という言葉を作りだしているのが広告代理店らしいが、これはサラリーマンを自虐的にリーマンと呼ぶように、サラリーマン・ママをこう呼んで、深刻になりがちなワーキングマザーの問題をもっとカジュアルに、気軽に口に出して語れるようにしようという意図のようだ。

リーママのプロジェクトリーダーである田中和子さんとはランチをご一緒しながらよもやまと話をして盛り上がった。

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彼女の話を聞いて発見したのが、ワーキングマザーは昔からいたけれど、顕在化したのはごく最近だということだった。

田中さんは研究者のご主人と、ごく普通に結婚し、子どもが生まれたあともごく普通の感覚として、博報堂で働きつづけたという。そこには「さあ私はワーキングマザーになるんだ!」という意気込みがあったわけでもなく、育休を取ったりしつつ当たり前のように出産後も復帰して働きつづけた。

しかし、博報堂という会社は、激務の広告代理店の中でもとくに勤勉な会社だ。電通に次ぐ2番手のポジションを、努力と知性で覆そうという企業文化のようなものがある。そんな激務中の激務をこなしながら、家事をこなし、育児にもエネルギーを注いだ。そのことに疑問や不満を感じてもいなかったという。そういうものなのだから、そうしていたのだそうだ。当たり前だと思っていたのに、なんだか大変。でもそんな悩みも一人で抱え込み・・・。と無理をするうちに、ある日、倒れてしまった。

救急車に乗りながら、何を自分の人生で優先すべきかが見えました。まちがいなく、子ども!そして、子どもが持つチカラを信じて育てる。子どもの力を信じながら育て、与えられた仕事にも信念を持って応える。そこさえブレなければ大丈夫!(でも、救急車はもうコリゴリです)

「リーママたちへ 働くママを元気にする30のコトバ」(角川書店)より

この時、彼女の中で彼女にとっての"ワーキングマザー"が芽生えたのだろう。これが目覚めだとしたら、それはいつ実体化したのか。

会社で研修があった。その研修は入社○○年の社員が受けるものなので同世代が集うはずだったが、仕事と家庭できりきり舞いの彼女にはそんな時間が割けなかった。

人事部はそれを気にしてくれて、その研修に参加できなかった社員を「今度はぜひ参加してね」と熱心に勧誘してもう一度開催した。その勧誘が功を奏して最初に出なかった社員がたくさん集まったら、ほとんどが子どもがいる女性社員つまりワーキングマザーだった。研修の中では自分の話をオープンに語る時間もあり、家庭と仕事の両立に悩む話をすると「私も!」「おんなじ!」と似た悩みを持つ者同士がいることがわかった。

ひとりじゃない! 自分だけじゃなかった! お互いを発見した時、"ワーキングマザー"が実体化したのだ。

研修後もママ社員で集まるようになり、だったらこれを社内の活動として認めてもらおう、ということで生まれたのが、リーママ・プロジェクトなのだそうだ。"ランチケーション"と称して、忙しいリーママも集まりやすいランチタイムに昼食を囲みながら、情報共有している。他社にいるリーママたちも参加してもらい、輪を広げているそうだ。一人じゃない、一社だけでもない! 同じ悩みを抱えるリーママたちがそれを共有することで強くなれる、乗り越えられる。

そうやってリーママ・プロジェクトが活動をスタートしたのは、2012年だという。

ワーキングマザーは85年の男女雇用機会均等法から、いやもっともっと前から存在したはずだ。だがそこに"問題がある"という認識はこの国では薄かった。それがいまようやく、お互いが出会い、お互いがあまりにも大変だという状況を認識しあうことで「私たちはリーママだったのか」と顕在化した。それまでは、なんだか大変だったけど猛烈に頑張ってひとりでなんとかするものだったのだろう。なんとかできてきた先達たちをリスペクトしながらも、超がつく飛び抜けた人じゃなくても、もっと普通の生活感覚でも乗り越えられるようにしたい。それがいまの彼女たちを取り巻く時代状況なのだろう。つまりそれだけ、ワーキングマザーが増えてきて一般化した、マーケティングでいう"キャズムを越えた"ということなのかもしれない。

リーママ・プロジェクトではそういう言葉の力を大事にしている。ランチケーションでのリーママたちとのやりとりから生まれた、困難を乗り越える知恵の言葉を「糧コトバ」として抽出してきた。その糧コトバをまとめてもっともっとたくさんいるワーキングマザーたちへのメッセージとして本にしたのが『リーママたちへ 働くママを元気にする30のコトバ』(角川書店)だ。

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この本には様々な要素があり、タイトルの通り30の"糧コトバ"をリーママたちの日々の暮らしの中で実際に役立ててもらう、というのがメインだが、夫婦が共に育児や家事に取り組む共働共育を訴えかけてもいる。そのための、「新米パパでもできる作り置きできるレシピ」というコーナーもあったりする。

田中さんのご主人も、彼女が倒れたことで家事育児への参加に目覚め、いまではキッチンをわが物として牛耳る料理パパになったそうだ。物事を旧来の常識にとらわれず自由に考える研究者タイプだからかもしれない。

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欲張りなリーママ・プロジェクトは、もう一冊、『リーママザベスがあなたを救う! 働くママの迷いが消える30のコトバ』という本も同じ角川書店から出している。リーママザベスというカワハラユキコさんの描くキャラクターを仲介し、糧コトバを楽しく伝える本だ。これも併せてオススメしておこう。

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博報堂のリーママ・プロジェクトと歩みを合わせるかのように、ワーキングマザーの活動は多様な団体を通じて多様に行われている。そして横でつながり"連帯"をはじめている。ママたちがつながり、パパたちの自覚を呼び起こし、これからは社会全体での子育ての大切さへと広がるタイミングのようだ。

そういう大きな流れに、ぼくも知らない間に巻き込まれているのだろう。だったらその流れに流されて、あちこちを眺めていこうと思う。

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コピーライター/メディアコンサルタント

境 治

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