鉄のフライパンは、大切に使えば軽く100年以上は使える

大切に使えば、軽く100年以上は使える鉄フライパン。日本、ドイツ、フランスなど、その国の食の歴史を見れば、そこには必ず鉄のフライパンがある。

どの分野にもギアフリークがいるが、料理においても例外ではない。男心をくすぐるのは道具の美しさであり、機能性や長年愛用できるライフタイムワランティーにある。

変形し、内面まで見事にハゲた、いわゆる "使い捨てフライパン" がゴミの中に置き去りにされているのをよく目にする。利便性を求めてきた時代の変化とともに、家庭が求めるフライパンの多くは、軽く、焦げにくいことが当たり前となったが、一方で寿命は短い。

かつて日本人の食生活に欠かせない料理道具であった、鉄で作られた「ご飯釜」。すき焼きなどに使われる「鉄鍋」やお茶を淹れる「鉄瓶」。歴史資料館でも飾られているこれら鉄製品は今でも現役で使えるが、なぜに昔の人たちは鉄に頼ってきたのか?

余分な肉脂を吸い、野菜炒めはしっかり水分を飛ばしてシャキッとさせ、炒飯もパラパラ、パンケーキはふっくらと。

決して使い捨てず、使い込むほどに、「旨さ」と「自分らしさ」を演出してくれる鉄フライパン。原点回帰とも言うべく、理にかなった良さを実感した、鉄フライパン時代へと回帰を始めようではないか。

使い分ける鉄フライパン三賢人

■プロが認める山田工業所の一枚

人類文明の進歩に欠かせなかった鉄は、46億年もの前に誕生し、日本のみならず、世界でも約1万年前から使われていたことが、歴史を紐解くと明かされている。

大切に使えば、軽く100年以上は使える鉄フライパン。日本、ドイツ、フランスなど、その国の食の歴史を見れば、そこには必ず鉄のフライパンがある。しかしながら、一言に鉄フライパンと括っても、重さ、形状、厚みの違いがあることに気づく。日本の鉄フライパンを代表する、「山田工業所」(写真・右下)。横浜中華街厨房の8割シェアを誇るフライパンは、ほかの鉄フライパンに比べ、厚みも薄く軽いのが特徴だ。

アジア料理を代表する料理と調理工程では、フライパンを「あおる、ふる」という動作が不可欠。強火で短時間に調理、「炒める」ことに適した山田工業所のフライパンこそは、厚みを薄くすることで、熱の伝わりも早く、炒める際の「あおる、ふる」動作でも軽く持ちやすいのだ。柄にサクラの木を使用しているのも特徴で、濡れた手でもしっとりと手に馴染む。

■1888年バイエルン創業の古参メーカー

日本同様、刃物の産地で知られるドイツ。鉄の原材料である、鉱物が盛んに採れることもあり、「RÖSLE」(ローズレ/写真・左)を代表とした業務用でも使用される高耐久な鉄フライパンが多い。ずっしりと重いのがいやという女性も多いのだが、実にフッ素加工フライパンの200倍以上の熱伝導率があり、1000度の熱まで耐えられる。

もしも美味しいステーキ肉を焼きたいならば、ガスやIHの上にドスンと置き、決してフライパンは動かさず、ゆっくり均等に伝えてくれる、ローズレの鉄フライパンに「ソテー(焼く)」をお任せしよう。

■フランス生まれのグリルパン

美食国家フランスを代表する「deBUYER」(デバイヤー/写真・上)の製品。一流シェフならば、誰でも知っているこのブランドは、186年の歴史を誇る。鉄フライパンのなかでも特徴的な、溝がついているグリルパン。グリルとは、焼き網を指すが、焼き目がきれいについた肉、野菜、魚などは、見た目だけでも食欲をそそるものだ。

魚などを焼くときは、接着面が大きすぎると、皮がはがれたり、くっついてしまうこともあるが、このグリルパンを用いれば、魚であっても香ばしい「グリル」ができるのだ。

肉を焼くなら鉄フライパンしかない

「焼く」を得意とするのは「RÖSLE」の鉄フライパン。重厚なる鉄製だからこそ、ステーキ肉は中がジューシーで、外はパリッとなる。冷たいフライパンに油を大さじ1ほど流し入れ、煙がたったら油は一度捨てる。フライパン全体に均等な熱が入っているので、火を弱火にしたら、あらかじめ常温に戻したステーキ肉を片面3分→1分と、短時間で焼くのが美味しいステーキ肉を焼くポイントだ。

DATA

サイズ:50.5×28×4.5cm

重量:1,712g

価格:10,584円

山田工業所┃九十九

サイズ:24cm:43×24×5.5cm/ 28cm:47×28×5.5cm

重量:24cm:910g/ 28cm:1,183g

価格:24cm:12,960円/ 28cm:15,120円

サイズ:47×26×4.3cm

重量:1,351g

価格:8,640円

※ワイ・ヨットオリジナル商品で本体が山田工業所、柄は昌栄工業

撮影┃佐坂和也

協力┃ワイ・ヨット

荒井康成┃Yasunari Arai

1968年、東京都生まれ。輸入雑貨商社、料理道具メーカーを経て、料理学校の講師やフードスタイリング、料理雑誌での執筆など、料理道具コンサルタントとして活躍。著書に『ずっと使いたい世界の料理道具』(産業編集センター)がある。

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