自ら目標を設定し、自ら学習する意欲を引き出し、ゼロからイチを生み出せる若者を育てたい - 株式会社a.school 代表取締役/校長 岩田 拓真

今回は学校での学習内容を子どもたち自身の興味関心にひもづけることで、学習するモチベーションを引き出す学習塾「a.school」をスタートさせた岩田拓真さんのお話

株式会社a.school(エイスクール) 代表取締役/校長 岩田拓真

1985年生まれ。京都大学、東京大学大学院卒業。ボストン・コンサルティング・グループ勤務を経て、動機付けに特化した教育プログラムや学習塾「はじまりの学校a.school」を展開する株式会社a.school を設立。

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どうして数学は、建築やゲームのような身近な活動を題材にせずに、いきなり幾何や代数から入るのでしょうか。いつも疑問に思っていた私は、学校での学習内容を、子どもたち自身の興味関心にひもづけることで、学習するモチベーションを引き出す学習塾「a.school」をスタートさせた岩田拓真さんにお話を伺いました。

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OYAZINE(以下Oと略):a.schoolの「a」にはどんな意味があるんでしょうか?

岩田さん(以下、岩田と略):aには3つの意味があるんです。まず1つは形としての意味なんですが、「0から1」という意味があります。aという文字は数字の0と1が組み合わさっているように見えますよね。0から1を生み出すように、決まった人生や誰かに与えられた人生を歩むのではなく自分で人生を切り拓いていくような自立的な人を育てていきたいという意味が込められています。もう1つは「はじまり」という意味。「あ」も「a」も最初の文字であるように、創造的な人材になっていくはじまりの場をつくりたいと思っています。それと、面白いものに出会った時の「あっ!」という驚きや感動、モチベーションをはぐくんでいきたい意味もあります。たまたま形と意味と音が重なってa.schoolにしようと決めました。

O:素敵な意味が込められているんですね。「0から1を生み出す」ということが時代のキーワードのように感じているのですが、岩田さんは何がきっかけで「0から1」に興味を持ったのでしょうか?

岩田:ただ純粋に僕自身が好きな発想なのだと思います。明確に意識しだしたのは大学時代ですが、小中高時代も無意識にゼロからものを生み出すようなことが好きでした。小学生の時、うちはあまりゲームを買い与えてもらえるような家ではなかったので、自分で遊びを作らないといけず、紙でゲームを作って弟と遊んだりしていました。滋賀県出身なんですが、家の近くの比叡山のふもとの山中で自分なりに工夫して遊ぶのも好きでした。

勉強も誰かに言われてやるのは嫌で、勝手に本を買ってきて読んだりしていました。正直、小中高時代は学校の学び方に苦戦していたように思います。決められたことをやらないといけないのが嫌で、テストの点数もそこそこは取れていたんですが、燃え上がるようなものがなかったんです。部活も、スポーツをするのは好きでしたけどそれほど燃えたぎるような対象にはならなく、エネルギーが一番ある中高時代に没頭できるものが見つかっていませんでした。

大学に入りやっと色々な面白い活動をしている人がいることを知って、新しい場所に飛び込んでいったり、自分がこれまでやったことのないチャレンジをしたり、世の中であまりやられていないことをやることが楽しくなっていきました。当時は対象が今のような教育分野ではなかったんですが、お祭りを企画したり、京都で学生主体の新聞を発行したり、バングラディッシュでマイクロファイナンスを学ぶコースを日本の財団と作ったりとだいたい1年に1つのプロジェクトに没頭していましたね。大学院まで出ているのでだいたい6つくらいのプロジェクトにかかわったと思います。そういった中で次第と、ああ自分ってゼロから何かを企画して実際にやってみるのが好きなんだなと。0から1を生み出すことや、そういう生き方の面白さを感じるようになりました。

O: ゲームを買い与えたりしなかった、というご両親のお話もありましたが、そういった0から1という点で、ふりかえってみてご両親からの影響もありますか?

岩田:いえ、正直いうと、両親と弟はどちらかというと保守的で、自分だけ特殊な感じがしています(笑)。弟は公務員ですし。ただ、祖父が商売やっていたのでもしかしたら隔世遺伝かなと思ったりもします(笑)。家族には、チャレンジングなことを好む人というのは正直いないんですよね。でも、両親はそんな少し変わった自分を辛抱して見守っていてくれたので、そこには感謝しています。

O:そうなんですね。先ほどおっしゃっていた燃え上がるようなものが見つかっていなかった中高時代から、大学で色々なプロジェクトに関わるようになったきっかけはなんだったんでしょうか?

岩田:恐らく、高校の時のある先生との出会いが大きく影響しているような気がします。リアルな社会と触れさせようとする政治経済の先生で、社会人を学校に呼んで講演してもらったり、授業でリアルなテーマについてディスカッションさせたりするような先生でした。授業外でも、先生の大学時代の同級生が海外へ行き国連に関わって活動している話など色々と紹介してくださっていたので、大学に入る前から、進学したら色々なプロジェクトに関わってみようという想いがありました。

最初にかかわったプロジェクトのきっかけは、同じ大学に進学した高校の同級生が与えてくれました。高校を卒業してすぐ後くらいに、その友人の家に遊びに行った時、彼の弟が障がい者だったということを知りました。どちらかというとチャラいやつだと思っていましたし、高校では正直それほど深い仲ではなかったんですが、家族の一員として、ずっと弟の面倒を見ていたんだと知って、見る目が変わりました。そんな友人が、「大学に進学したら、今度は助ける側に回って、障がい者に関わるボランティア活動をしたい」と言っていたので、私も大学進学後、彼と一緒に障がい者にかかわる活動に取り組みました。

O:大学時代に色々なプロジェクトに関わっていらっしゃるとそのまま様々なプロジェクトを生み出す側に回られそうに思うのですが、今回「a.school」という一つの終着とも言える形に行きついたそのいきさつは何だったんでしょうか?

岩田:大学院で東京に出て東大に通う中で「i.school」という教育プログラムに出会ったんですけど、そこでの経験が大きかったですね。i.schoolのiはinnovationのiで、創造的な課題に対するプロセスを設計できるようになるための、方法論や心構えを学ぶというプログラムでした。それまで関わったプロジェクトは全て面白かったし、1つ1つ新しさもあったものの、本当の意味で自分は新しく意味のあるものを世の中に生み出せるようになるのだろうかと問題意識が湧いて受講しました。

そのi.schoolのワークショップの中で「社会課題を解決する」というテーマのプログラムがあって、僕自身は介護の問題を解決するアイディアを考えたのですが、隣のチームが教育の課題を解決するアイディアを考えていて、アイディアを聞いたときいいなと思ったんです。彼らは本当にやりそうだなと思ったので、そのアイディアをやるならぜひ一緒にやりたいと彼らに声をかけ、そこにいたチームのメンバーを中心に何人かでチームを組んで、実際にNPO化して教育の活動をしはじめたのがスタートです。

その頃はもう僕は就職が決まっていたので、その後働きながら週末子供にワークショップを企画するという生活を4年間続けることになりました。この4年間でやっと自分の軸が見えてきて、自分で新しいものを創造することは勿論今でも好きですが、それ以上に他人が新しいものを生み出す手助けをするのが好きなんだということに気づいたんです。

誰かが自分の好きなものを見つけ、目が輝いて顔つきが変えるようなことが教育でできることを知りました。自分自身が没頭できるものを見つけるのに苦労したからこそ、そういう人を減らしたいと思うようになりました。

O:じゃあまさか「教育」にいきつくとは思ってもみなかったですか?

岩田:全く思ってなかったですね。学校が苦手でしたから(笑)。教育学部は一番選択肢になかったです。わからないものですね。

O:a.schoolではどういった授業をされているんですか?

岩田:主に中高生向けに、毎週2時間の英語や数学の授業をやっています。40分と80分に分けて、前半の40分で自分の興味と科目を結び付けて「学びたい!気になる!」という内発的なワクワク感を持ってもらえるように心がけています。例えば動物が大好きな子がいたら、動物と国語、動物と数学を結び付けてあげられるようにしています。後半80分は前半の興味にもとづいて学習を進める時間にあてています。

O:興味と科目は具体的にどんなふうに結びつけるのですか?

岩田:例えば、「デザインと数学」というテーマではインフォグラフィックスを使用しました。世の中にあるものの中から、自分がちょっと測ってみたいな、比較してみたいなと思うものを探し、それをグラフィックで現すというワークショップです。ただ数字で表現するのではなく、可視化することで、同じことでも伝え方を変えれば印象もガラリと変わるということを感じてもらっています。参加してくれた子の中には、目の大きさや体のパーツを自分なりに測ってみて数値化して比較したり、匂いを比べてみたりした子もいました。自分なりに興味をあるものを数値化するというのが面白いんです。

こんなふうに自分が興味をもったことについて式を作って数値化して伝えるという作業を通じて、分からない人により分かりやすく伝えるにはどうしたらいいかを自分なりに考えて表現する力を身につけてもらっています。

そうすると意外に数学って面白いな!と思ってもらえるようで、最初の授業の40分は特に力を入れて子供たちの興味を掴むようなワークショップを企画しています。

O:年齢や学年に合わせて、学校で学ぶカリキュラムに沿って子供たちが興味を持ったものをどう授業に取り入れるということも行っているのでしょうか?

岩田:学校のカリキュラムとどう照らし合わせていくかということはこれからの課題で、まだ調整しながら行っています。それよりも今、一番大事にしているのはバリエーションですね。数学の活用のされ方って実は色々あって、建築だったり経済だったり色々な所につながりますし、数学の分野という観点でも幾何、代数などと色々分類できるので、できるだけ多くのこととつなげて学べるようにしたいと思っています。なので、社会と数学のつながりを感じてもらえるようにとにかく似た種類ではなくバリエーションを多く用意するように心がけています。いろんな切り口で興味に火がつく可能性があるので。例えば、統計に関してのワークショップでいうと、ある意味統計を学ぶのは高校レベルにはなるのですが、中学生でも説明を加えてあげれば概念を理解できるので、やることは今の段階では中学高校共に同じにしています。

O:こういった40分のワークショップのあとの80分はどういった授業を行っているんでしょうか?

岩田:後半の80分は個別指導を行っています。最初の40分で学ぶ意欲に火をつけ、あとの80分では自分で学ぶ力をつけるような授業を行うようにしています。分からないことをただ教えるのではなく、学ぶ癖をつけるように指導していて、ぶつかりやすい問題の傾向や、思考パターンなどの自分の癖を一緒に発見していくようにしています。生徒には目標設定をしてもらい、終わったあとに振り返った上で、自分で宿題を出すようにしてもらっていて、学びのサイクルを自分でぐるぐる回せるように指導するようにしています。

O:大人でも学び続けるのは難しいのでこういったコーチングをしてもらえるのはありがたいですね。だいたい現在は何名くらい通ってらっしゃるんでしょうか?

岩田:15〜20名くらいです。去年の10月からスタートしてだいたい4か月が経ったのですが、口コミで徐々に生徒が増えてきています。どちらかいうと今は高校生よりも中学生のほうが多いですね。大学受験のために短期で通う塾というよりも、長期で捉えて通塾されている生徒さんが多い印象があります。

O:まだまだ始まったばかりではあると思うのですが、a.schoolに興味を持っていらっしゃる方へのメッセージがあったら教えてください。

岩田:まだまだ始まったばかりですが、来てくれている生徒たちの顔つきが少しずつ変わってきているんですよね。親御さんにも「塾に行っているはずなのに楽しそうな表情をして帰ってくる」と驚いていただいています。実際に来てもらっている生徒たちの満足度が高いからこそ、そういった生徒をもっと増やしていきたいと思っています。お子さんを通わせたい、あるいは自分で通ってみたいという方はぜひ一度体験にいらしてください。

また、大学生や社会人の方で、ボランティアスタッフやインターンとして活動を手伝ってみたいという方のご参加もお待ちしています。a.schoolでは月に1.2回、社会で活躍している様々な分野で活躍している大人を呼んでワークショップやイベントを行っており、一緒にそういった機会をつくっていきたいです。色んな大人の生き方にリアルに触れられるのがa.schoolの醍醐味の一つですし、a.schoolの中だけではなくて、外にいるいろんな方と協働しながら前に進んでいきたいと思っています。

O:最後に、a schoolをこれからどういう風に発展していきたいでしょうか?展望をお聞かせ頂けますか?

岩田:当面は10教室1000人の生徒を抱えられるようになりたいというのが目標です。面白い生徒が育つ創造的な学びの場を確実に増やしていくことですね。私だけではなく、色々な先生がいてワークショップを行えるようにしていきたいと思っています。さらにその先いつか、子供の能力の引き出し方のノウハウをモチベーション教育のカリキュラムや研修として提供なども行えたらいいですね。

(この記事は、2015年1月、都内某所でのインタビューをもとに構成されています。)

ライター・編集 青柳愛

聞き手・撮影 川辺洋平