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「社会で個性を発揮できる、強く生きるすべを」 しぜんの国保育園園長 齋藤紘良

2015年06月18日 00時31分 JST | 更新 2016年06月16日 18時12分 JST

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齋藤紘良(さいとうこうりょう) "しぜんの国保育園 園長/作曲家。

町田自然幼稚園 副園長を経て、現在のしぜんの国保育園園長に就任。保育園の園長としての活動だけでなく、映像番組への楽曲提供や様々な場所でのワークショップ、他ジャンルのアーティストとのコラボレーションを行う。こどもと大人を文化でつなぐレーベルsaitocnoや齋藤紘良&ミラージュ楽団などを主催、チルドレンミュージックバンドCOINNメンバー、季刊誌BALLADをプロデュース。

http://toukoukai.org/wordpress/sizen/

しぜんの国保育園は東京都町田にある自然に囲まれた施設です。こどもたちは、緑豊かな環境での体験を通じて、生きるための知恵を学ぶことができます。芸術活動や音楽活動にも触れることができる環境をつくり、創造力や表現力が身につきます。また、創立当初から食育に力を入れ、多くのメディアで取り上げられてきました。どのような想いでこどもたちと接し、こどもたちのための場を作っているのか、しぜんの国保育園の園長である齋藤紘良さんにうかがいました。

OYAZINE(以下O と略記):しぜんの国保育園のはじまりについて教えて頂けますか。

齋藤鉱良(以下、齋藤と略):1979年にできて、今年で36年目の保育園になります。町田市の中でもはやい時期にできた園だと思います。初代の園長は私の父です。そこから5代くらい園長が変わって、5年ほど前から僕が園長になりました。

O:園長職に就く前はどういったお仕事をされていたのでしょうか。

齋藤:大学で教員免許を取得して、となりの町田自然幼稚園で働いていました。今の保育園では事務や副園長を経験し園長となりました。

O:高校の教員免許を持っていらっしゃるんですね。

齋藤:とりあえず取った、というかんじです(笑)。その頃は、具体的な夢はなくて、音楽が好きなので、音楽だけは続けようと思っていました。大学へ通う前は音楽の専門学校に通っていました。

O:音楽が好きなんですね。

齋藤:小学5年生の時、ラジオでラベルの「ボレロ」がかかって、これはなんだと思って、急いで図書館に借りに行ったのが自分から能動的に音楽に関わるようになったきっかけだと思います。小学校くらいから、音楽を聴くのは好きでした。

O:演奏もされるとうかがいました。

齋藤:こどもの頃は、ピアノを習っていました。でもある時期からピアノと距離を保つようになりました。今はピアノも好きですが、鍵盤1つの中にさらに音があるのに、どうしてこれしか鍵盤がないんだろうと思う時期があって、一時期はピアノを弾かないようにしていた時期もありました。

O:鍵盤1つの中に、もっと音があるはずだという着眼が素晴らしいですね。

齋藤:実家がお寺なので、お経の独特の響きには影響を受けたと思います。それから、お寺で市民に向けたイベントを定期的に開催していて、その中で海外の音楽を演奏してもらうことがよくあり、シタールやガムランを生で聴いたりする機会があったことも関係があるかもしれません。

O:しぜんの国保育園にも齋藤さんの音楽への愛情が表れていそうですね。

齋藤:意図的に出しています。音楽室は思い入れがあって、DJブースがあったり、ギターが並んでいたりします。他にもアトリエや実験室といった部屋があり、それぞれ工夫がされています。

O:DJブースがある保育園、はじめてききました。

齋藤:珍しいかもしれませんが、僕の感覚からすると、"楽器を練習"させることに違和感があります。せっかくの音との出会いなのに、鍛錬が先に来るのは危険だと思います。それに比べて、ターンテーブルのレコードをこすったりすることは直感的にできるので、感覚的で、僕はむしろ幼児教育に向いていると思って設置しています。

O:アトリエ、実験室、音楽室、建築という部屋があったり、独特のカテゴライズが面白いですね。

齋藤:この園で過ごしたこどもたちが、将来社会に出た時に、自分の個性を存分に発揮できるようになってほしいという願いがあります。それが強く生きるということだと思っています。こんな効果があるらしい、といった目的で芸術やアートを取り入れているわけではなく、こどもたちが自由な発想を表現できる場をつくるために、結果として取り入れたものが今の活動につながっています。

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▲取材時、しぜんの国保育園ではおめん作りがブーム。

O: 特定の教育法に寄っていないのが面白いですね。

齋藤:名前のついている教育手法って、聞こえもいいですし、僕もすごく学ばせてもらっているのですが、そこにしばられてしまうと、そのコミュニティから出た瞬間に弱いものに変換されてしまうことがあります。

O:弱いものというのはどういう意味でしょうか。

例えば、こどもが主体的に動いて、大人がほとんど声をかけずに、頑張った時や結果が出た時だけ「いいね」と声をかけるという教育があったとします。大人がムダな口出しをしないでこどもが主体的に動いて自主性を高めるということができて、それはそれでいいと思います。ただし、小学校に上がった時は完全に部屋の中で座って大人の話をきいて自分で勉強をしなければいけなくて、そのギャップに戸惑うという課題も出てくる可能性があります。しぜんの国保育園では、ひとりひとりの個性を伸ばしてあげたいという想いとともに、卒園して生活の環境が変わった時でも、こどもたちが個性を発揮できるような、強く生きる力のあるこどもたちに育ってもらえるよう意識して保育活動に取り組んでいます。

O:音楽に、ドレミの音階以外の世界があるように、齋藤さんはこどもたちの中に自然にある何かを感じられているように感じます。

齋藤:人は、自分の中でも音階を決めるのは自分であっていいと思うし、自分なりの12音階があっていいのではないでしょうか。ただ24個ある中から12個を選ぶのと、12個しかない中から12個選ぶのは違うと思っています。本来なら無限の音があるよ、と見せてあげることが理想ですが、それはなかなか難しいので、その中でしぜんの国では24個を見せてあげる、そして隣の学校にいったらまた12個プラスされるかもしれない。そうやってこどもたちの世界が広がっていけばいいと考えています。

O:具体的に心がけていらっしゃる取り組みがあれば教えてください。

こどもたちにとって最も重要な環境は「多様な大人がいる」ということだと思います。そこにはもしかしたら、ちょっと嫌な大人がいるかもしれない。あるいはいつもめんどくさいことを言う大人がいるかもしれない、それでもいいと思っています。ただひとつ条件は、「すべてこども中心」として考えるひとがここに集まるかどうかです。そんな考え方から、しぜんの国保育園では、small villageというなまえをつけて園舎をつくりました。この小さな村は、「中心がこどもですよ」という前提の上で、バラエティに富んだ大人が集まっています。かっこいいなと思わせてくれる大人とか、あんな大人でもいいんだと思える大人とか(笑)。そういう大人の背中をみて育つというのが理想だと考えています。

O:保育園での活動とは別に、こどものための音楽活動をしていると伺いました。

5年くらい前から、保育園とは別でCOINNというバンドを組んで、こどものための音楽活動をしています。元々競演していたリーダー格の人物を引き抜いて結成しました。地域のホールや、保育園、幼稚園、こども劇場などで演奏会も行っています。大人が聴いても良い音楽と思い、且つ、こどもたちのもとへ向けた音楽を目指しています。

O:園長先生がバンドやってるなんて、大人の背中を見せている瞬間ですね。

そういう自然なおとなの姿の記憶のほうが残っていくと思います。僕自身、小学校の運動会の記憶がほとんどないのですが、何気ない友達との雑談とか、石を拾ったとかのほうが覚えています。そこに保育のヒントがあると思っています。 自分の小さいころと自分自身に対話をしながらこどもの感覚に潜っていかないと、結局チャイルディッシュなものばかり周りの世界に置いてしまって、成長しないなと思います。

O:齋藤さんが小さいころでご両親としたことでなにか印象に残っているものはありますか?

僕自身、しぜんの国保育園に2歳まで通っていたんです。母親と裏山から保育園に歩いて通っていました。保育園までの道中に、木の根が出ているところがあって、それが蛇みたいに見えて「ヘビだ!」というと、となりにいる親が「わっ!」って驚いてくれたことをよく覚えています。ヘビではないことがわかっているのに、何度やっても毎回反応してくれて、優しい人だなと2歳の幼心に思っていました。

O:面白いですね。2歳でも考えるのですね。ほかには何かありますか?

イタズラや悪いことをするといつも坐禅堂という真っ暗でちっちゃい部屋に外側から木の板で閉められて、2~3時間閉じ込められました。最初は私も泣いて嫌がるのですが、そのうち待っていたら開くだろう、ということで、じーっとしているようになって、感情がわーっとなる時があっても、すっとまとめることはそこで学んだと思っています。

O:そんなご経験がご自身の子育ての中で、いきていると場面がありそうです。

僕も自分のこどもに対して、厳しいと思います。6歳までは人間の中の動物的な野生があるので、人として成り立たせるために、厳しく接する時があります。その子が社会に出た時に弱くなってしまうので。でもこどもたちが自分で何かをしようとしたときは、その瞬間は一生残る経験になるので、こちらとしても神経を尖らせて対話するようにしています。

O:この先こういうことやってみたいな、ということがありましたら教えてください。

small villageにおもしろい大人がもっとたくさん来てくれたら嬉しいなと思っています。僕が知り得ないことを知っている大人ですね。都会にいかなくても楽しめる生活ができるようになり、この町田の地においてミドルテンポの幸せを見つけることができる。そういった価値観に共感できる人にぜひ遊びに来てほしいと思います。今はちょうど、月に2回、設計事務所で働いている方がボランティアで遊びに来てくださっています。ご興味のある方は、しぜんの国保育園のWEBサイトからでお問い合わせ頂ければ嬉しいです。またCOINNのライブは産前産後のお母さん、なかなかライブに足を運ぶことが難しい方々への無料インターネットライブを行っています。ぜひ http://www.coinn.jp をチェックしてみてください。

(この記事は2015年6月のインタビューを元に構成されています。)

インタビュアー/撮影 川辺洋平

編集/ライター 光井達彦

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