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パトリック・ハーラン Headshot

大統領選のテレビ討論は音声を消して観よ

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presidential debate 2016

こんにちは、パックンマックンのパックンことパトリック・ハーランです。

先日行われた大統領選のテレビ討論の第1回、僕はビールを片手にポップコーンを食べながら見てました。終わった時は「ああ、もう終わるの? 早く続編が見たい!」という気持ちでいっぱい! 完全に映画鑑賞気分で楽しみました。僕ほどではないにしても、アメリカ人にとって大統領選、とりわけ候補者同士のディベートは「お祭り」なんです。しかも今回は本当にどうなるかわからない部分が多い。観た人は8000万人以上で過去最高だったとも言われます。かつて最高に盛り上がったというレーガンvsカーターを超える、史上最高の注目を集める対決が幕を開けました。

■テレビでは見た目が85%


今回の討論の結果については、ヒラリーが圧勝だったという人が多い一方で、マイケル・ムーアがトランプの勝利と言ったりしたりと、いろんな意見が出ています。

専門家には、テレビ討論の勝敗を見極めたいときには「音声を消して観ろ」という人もいます。どっちが自信を持って堂々としゃべっている雰囲気なのか、どっちが元気そうでリーダーっぽいのか、それが発言の内容よりも大事であり、それが投票に結びつくのだと。

いまだに絶大な人気を誇り、話術の達人だったレーガンを「ザ・グレート・コミュニケーター」に仕立てたメディア顧問のマイク・ディーヴァーも、こんな言葉を残しています。
「テレビにおいて視聴者が注目しているのは、85%が見た目、10%が話し方の印象、そして5%が話の内容だ」
(Television is 85% how you look, 10% how you sound, and 5% what you actually say.)

過去にテレビ討論の印象が、勝敗を左右した例をご紹介しましょう。

まずは、1960年に行われた初めて行われたテレビ討論会。副大統領として経験豊富、実際支持率も圧倒的に高かったニクソンを破ったのが、ケネディでした。日焼けしていて精悍な顔つき、ナイスミドルで溌剌としていることに加え、テレビ用にメイクもしていました。黒いスーツもバッチリ決まっていて、これ以来政治の世界での勝負スーツは黒に近い色です。いっぽうのニクソンは病み上がりで9キロも痩せ、メイクもしていなかったことで見栄えが冴えない。しかもテレビ慣れしないせいか汗がびっちょり。まるで追い詰められた政治家のような印象を与えてしまい、一気にケネディが優勢に転じたんです。

ところで、この討論会については、ラジオで聞いていた人のほとんどがニクソンの勝ちだと思ったとも言われています。ニクソンの主張や政策は決して劣っていなかった、むしろ優れていた。でも見た目の印象で負けたんです。

1992年の大統領選のテレビ討論は、ビル・クリントン、ブッシュ(パパブッシュ)、ロス・ペローの三候補で行われました(まれに支持率が取れる無所属の人が、筆頭候補に挙がることがあります)。
この時、民主党と共和党はペローに対し、いじわるを仕掛けます。ディベートの時、「ペローさんはちょっとお年も召しているから立ちっぱなしはきついでしょう。スツール(椅子)を用意しましょう」と言って、長身のクリントン、ブッシュに合わせた高いスツールを用意させたんです。

ペローは166センチほどの身長で、ヒラリー・クリントンとほぼ同じ。アメリカ人男性としては小柄です。そんな人が足の届きにくい高いスツールに座ろうとするとどうなるか。腰を乗せる場所が安定しないから落ち着かない。終始ペローはもじもじしていて、落ち着かない姿勢になっていました。
それを見た国民の多くが、文字通り大統領の「座」は任せられないと思ったんでしょう。結局、ペローは完敗しました。

president bush
(真ん中がペロー)

さらにこのディベートでは、ブッシュも大失態をおかします。その時の討論会では、話をしている候補以外の二人の様子を撮らないことが取り決められていたんですけど、それで油断していたのか、ブッシュは討論会の途中に腕時計をちらっと見てしまったんです。当時現職だったブッシュは、「ほんとは俺、こんなことしてる暇がないんだけど」と思っていたからかもしれません。

そんなブッシュの様子に気付いてか、クリントンは自分がしゃべるとき、後ろにブッシュの心あらずな姿が映るよう、動きながら話したんです。そしてそんなブッシュの様子が生中継され、新聞にも出て、「討論会をないがしろにするような人間には国を任せられない」という印象が生まれ、ブッシュは敗北したんです。

presidential debate bush watch

■ヒラリーは「100点」でも勝てない!?


さて、そういった上で、僕は今回の討論会をどう見たか。先にヒラリーについて言うと、100点の出来だったと思います。
まずは、これまで書いてきたような見栄えの部分です。健康不安が指摘されていたヒラリーですが、今回の討論では、メイクもバッチリで、すごく元気そうに見えました。真っ赤なスーツもそんな姿を際立たせていました。

スタミナの問題はトランプも突っ込んでましたけど、「120カ国と外交をし、停戦合意も行い、11時間も議会で議論してきた私にそれを言いますか」とエビデンスをきっちり示して反論していました。全体に話が一貫していて、よく準備して場に臨んだことがわかります。

ではトランプはどうだったか。冷静に発言を追って考えると、具体性に欠けて、支離滅裂。準備をあまりしてきていないだろうことは伝わってきました。

一方で、話術という点では、それほど悪いモノでもありません。

支持者が反応するようなキーワードを上げて連呼。雇用を増やすぞ、雇用を増やすぞ、雇用を増やすぞ、と。また、随時にペンシルバニア、ミシガンといったスウィングステート(浮動票の多い州)の名前を上げ、有権者のことを考えているぞ、という印象も与えていました。そして一番よく使った単語は「わが国」。こういった、話し手が聴き手に対し、共通の価値観や認識を持っていることを示すキーワードのことを「コモンプレイス」と言うんですが、こうした言葉を随所に入れるのはリーダーの話術の常套手段でもあります。

世界一の権力者の座を、話術で勝ち取る戦いである大統領選挙。話術というと、どうしてもロジックが大事だと言いがちなんですけど、実は相手を説得する上では、ロジックよりも大切な要素があります。

弁論術の父、アリストテレスは、人を説得するためにはエトス、パトス、ロゴスの三つの要素が大事だと言いました。

ロゴスは「言葉の力」、ロジックだけではなく、言葉のリズム、語感などが与える印象も含めます。パトスは「感情」。怒りを見せたり、悲しみに寄り添ったりすることです。でも大事なのはエトス、相手のためにがんばる姿勢であったり、実績や評判であったり、「この人の話を聞きたい」「この人は信用できる」と思わせる要素のこと。僕が教えている東工大のコミュニケーションの講義や、これまで書いた本(『ツカむ!話術』『大統領の演説』)でも何度も言っているんですが、一番大切なのはエトスです。聞く耳をもってもらえなければ、何も始まりません。

天秤にかければ、明らかにヒラリーの勝ちでしょうけど、トランプの熱狂的な支持者やヒラリーをはなっから嫌う人は決して少なくありません。ヒラリーは実績抜群、でも、どうしても政治家くささがしていて、「本物感」というか、現状を変えてくれるようなカリスマ性や人間味に欠けていて、エトスが弱い部分があります。僕は7対3でヒラリーが選挙に勝つと考えていて、今回の討論で7.5対2.5ぐらいにあがったと思ってるんです。しかし、普通なら致命的なはずの欠点をいくら抱えても支持率が下がらない、そんな「不死身のトランプ」に対して100点の討論だけでは、まだまだヒラリーの勝ちを決定づけるまでにはいきません。

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