身近なことから始めよう―現役大学生が語る若者と政治の関わり方 日本若者協議会代表理事 富樫泰良

大学に通う傍ら、若者の声を政治に反映させる団体「日本若者協議会」を率いる若者がいます。

2016年6月に施行された18歳選挙権ですが、若者の政治的関心はまだまだ高くありません。そんな中、大学に通う傍ら、若者の声を政治に反映させる団体「日本若者協議会」を率いる若者がいます。

富樫さんは協議会の代表として自分たちの声を提言として政党に提出し、実際に政府の政策や党の公約に反映させた実績の持ち主。政治に対する熱意はどこから湧いてくるのか、若者を政治に振り向かせるにはどうすれば良いか、最前線にいる富樫さんにそのヒントを伺いました。

■国際協力から芽生えた問題意識

―現在の活動を始めるまでの経緯を教えてください。

現在こそ若者と政治を繋ぐ活動を行っていますが、はじめの僕の関心は国際協力でした。小学生の頃、イラク戦争の惨状を記した本を読んだとき、自分と同世代の子どもたちが命を落としている現実にショックを受けたのがきっかけです。

僕も彼らの力になれないかと思い立ち、国際協力活動を展開していたNGOに片っぱしから電話をかけたんです。ところが、どの団体も学生の僕を門前払い。だったら自分でやってやる、と学生主体のボランティア団体"Club World Peace Japan"(以下、CWPJ)を立ち上げました。

CWPJでは、まずは自分の手の届く範囲の事から始めようと、地域が抱える課題に取り組みました。最初はお祭りの運営や防犯パトロールといった、誰かの頼まれごとをこなしていましたが、回を重ねて仲間も増えていったので、自分たちで新しく活動を立ち上げることにしました。

その一つが、海に関心を持ってもらう活動です。最近の若い人は、昔に比べてあまり海で遊ぼうとしません。海は臭い、汚い、危険といったネガティブなイメージが付きまとっていたからです。他方で、海辺のゴミや海洋汚染の問題は深刻化しています。そこで、「浜辺でBBQをやろう」と人を誘って、終わった後のゴミ拾いを通じて海への関心を高めてもらう活動に取り組み、これは現在でも続いています。

―国際協力活動から政治そのものに関心を抱いたきっかけは何でしょうか。

政治に関心を抱くようになったのは、中学二年生の頃です。当時僕は「フリー・ザ・チルドレン」という児童労働問題に取り組む国際NGOにて、子ども代表委員を務めていました。

そこで「世界一大きな授業」に講師として登壇する機会をいただきました。普段先生と呼ばれる国会議員が生徒になって、僕たち生徒が先生になるという不思議な授業です(笑)。僕たちが話したことは議員を通じて政府へ届けられるのですが、その時に政府の影響力の大きさを肌で感じました。NGOがいくら頑張っても大した影響を与えられない一方で、政府は莫大な資金や人を動かせる力を持っていますから。

政治への関心が「若者の声を反映させる」という具体的な活動へと変わっていったのは、東日本大震災がきっかけでした。被災地の復興計画に若者の意見を反映させようと、宮城県の閖上町を舞台に「閖上復興こども会議」を開催し、集まった意見をまとめて役所に提言をしたんです。

残念ながら、僕たちの意見は受け入れられませんでした。別の意見を持つ大人たちからプレッシャーをかけられたり、両親に気兼ねした子どもたちが声を上げなくなったりしてしまったからです。若者の意見を政治に反映させるために、団体として行動する必要性を痛感し、その後に設立された日本若者協議会の代表理事に就任しました。

■「政治家と話す」から「政治家を動かす」へ

―日本若者協議会の特徴は何でしょうか。

これまでも、若者と政治を繋ぐ団体はたくさんありました。けれども、その多くが単に話し合いの場を設けるだけで、彼らの意見が本当に政策になることはなかった。この点日本若者協議会では、僕らの声を党の公約や政策として実現することまでがゴールです。

協議会の設立から今に至るまでに、ほとんどすべての政党と意見を交わしたり自分たちが考えた政策を提出したりした結果、今回の参議院選挙(注:2016年7月実施)では、被選挙権や供託金の引き下げ、若者担当大臣の設置など、僕たちの提言が複数の政党で実際に公約として反映されました。

―政治家と直接会って話す中で、新しい発見はありましたか。

18歳選挙権の施行もあって、どの政党も若者重視の姿勢を強調してはいますが、実際に会って話してみると、本当にそうとは限りません。若者だからと尊大な態度を取ったり、こちらの意見に対してはぐらかしたり、テレビ番組に出演した時にありもしないことを言われたり。非常に残念です。

もちろん、念入りに下調べをしてくれて、僕らの声を党としての提言書にまでまとめてくれたところもありました。ある議員の方は、突然僕のところに電話をかけてくるやいなや「これから討論会するけど、若者の意見として何か言ってほしいことある?」とまでおっしゃっていて、本当に若者の事を考えているのだなと実感しました。

■いきなり政治ではなく、身近な問題から取り組もう

―18歳選挙権の影響についてどのようにお考えですか。

率直に言って、明日から劇的に変わるものではないと思います。そもそも、若者の低投票率は今に始まったことではありません。現在若者に対して選挙に行け行けと言う人でも、若いころは行かなかった人もいるでしょう。若者が政治に無関心なのではなくて、政治が若者にとって魅力的にならない限り、投票率の向上は見込めないのではないでしょうか。

それよりもむしろ、今回引き下げたことのみで満足してしまわないかが気がかりです。18歳まで引き下げたとしても、世界的にはまだまだ遅れているんですよ。スウェーデンでは30年以上も前に若者政策担当大臣が設置されていますから。日本の若者は、まだまだ軽く見られているのが現状なんです。

今の政治はとにかく回りくどいです。進める方向で検討します、とか。他には平然と約束を守らないことも気になります。こうしたことが積み重なれば、結果的に政治への関心が薄れていって、「どうせ入れても変わらない」という思いばかりが募り、投票率は下がる一方です。政治家の方には政策を高らかに掲げるだけでなく、それを実行に移すための具体的な道のりを示してほしいですね。

―若者の政治的関心の向上のために必要なことは何だと思いますか。

政治は無理やり興味を持たせるものではないと思います。地域の活動に携わる中で、政治の存在感を実感するのが一番です。日本では学校生活が中心ですが、アルバイトなりボランティアなり、もっと学校を飛び出して社会と積極的に関わっていくことが大事だと思います。僕は高校時代アメリカに留学していましたが、アメリカでは一定時間の地域活動が卒業要件にまでなっています。日本の高校でもこうした取り組みを進めてほしいですね。

いきなり政治のイベントを開催しても、元々政治に興味がある人しか来ません。ですから、日本若者協議会としては、ゴミ拾いなどのローカルな活動から始めています。CWPJでも先日の熊本地震の後炊き出しを行いました。まずは身近な活動を、それもネットなどで不特定多数に呼びかけるのではなく、友人づたいで参加してもらい、活動の輪を広げる。その方が人も集まりますし、関心も高まりますから。

―自分も行動を起こしたい、という若者のために、明日からできることはありますか。

僕の本を買いましょう(笑)。冗談はさておき、いきなり政治的な活動に参加するよりも、まずは自分の住む地域の中で何ができるか探すのが良いと思います。例えば町内会に入ったり、消防団に参加したり、お祭りを企画したり。今ではどこもお年寄りが中心で、はじめは旧態依然とした中身に唖然とするかもしれませんが、そこに若者の新しい視点を入れて、自分の力で変えていこうとする姿勢が大事だと思います。

―これからどんな人に政治を目指してほしいですか。

政治家という職業になることがゴール、ではない人にぜひ目指してほしいです。政治はあくまで手段の一つにすぎませんから。

僕も「将来政治家になるのか」とよく聞かれますが、10年後、20年後にも政治が僕の目標を実現する手段たり得ているならば、政治の世界に飛び込むことも十分考えられます。ただ当面は、大学卒業後は地方銀行で働きたいと考えています。地域とのかかわりをもっと深めていければと思います。そこでの経験を踏まえて、次のステップへと進んでいきたいですね。

プロフィール

富樫泰良(とがし・たいら)

慶應義塾大学総合政策学部在学中。19歳。

2009年中学生の時にイラク戦争についての本を読んだことにきっかけに10代が主体となり地域振興や災害派遣、国際協力まで幅広く活動を行うNPOクラブワールドピースジャパンを発足、現在も理事長を務めながら畑を通じた地域振興活動など現場で活動中。

中高生と国会議員での国民投票を主題にした討論会を開催した他、「世界一大きな授業」では超党派国会議員らに授業を担当。

東日本大震災の被災地で10代の意見を復興計画に反映させるため「閖上復興こども会議」を発足しコミュニティー再建にも取り組むほか、様々なところで地域振興、まちづくりにも取り組む。

2016年6月16日 ディスカヴァー・トゥエンティワンより自民・公明・民主・維新・おおさか維新・共産の議員とのホンネでの討議や若者のリアル、活動を通じて感じたこと、各党の実績などをおさめた「ボクらのキボウ × 政治のリアル」を出版。

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