「インパクト・インベストメント」は金銭的な見返りばかりでなく、社会的あるいは環境上の価値を生み出す投資です。この概念に賛同する人々の熱意はパラダイムシフトに他なりません。すなわち、いかに不完全なものであろうと、市場ベースのツールがグローバル資本主義から取り残された人々の救済に活用できる、という考え方です。

(カリフォルニア州レッドウッドシティ) -- ウィンストン・チャーチルは、「民主主義は最悪の政治形態と言うことができる。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けばだが」と、民主主義というものを最も適格に表現しています。

同じことが資本主義についても言えるでしょう。この数十年に、国際市場は何百万人もの人々を貧困から引き上げ、生活を一変させる技術的、科学的革新をもたらし、生活水準を世界的にこれまでにないレベルに高めました。 しかし、痛ましいことに余りに多くの人々が取り残されてしまいました。このことは世界のどこを見渡しても言えることで、1%の富裕層が保有する資産は1950年には僅かに25%だったのが今では43%に達しているアメリカも例外ではありません。世界的に見ても、12億人の貧困層の消費は世界の僅か1%を占めるに過ぎませんが、富裕層の消費が72%に達する、という不均衡が存在します。こうした富の偏在を放置しておくわけには行きません。

本日、北アイルランドで開催されるG8サミットでも、とりわけ、こうした膨大な人的コストと、それが世界の安定にもたらす脅威を認識し、国際的な経済システムがこの不平等にどう取り組むのかが話し合われます。 とても解決できそうもない大仕事のようですが、私たちは決して気落ちしていません。それどころか、私たちは70億人という地球規模のスケールで雇用を創出し、必要としている人々にサービスを提供するには市場ベースのソリューションが強力な方法であることを身をもって体験しています。そして私たちは、「ソーシャル・インパクト・インベストメント」という新しい、崇高な運動に特に思いを寄せています。これは明示的に市場のパワーを、容易に根絶できない経済的、社会的課題の解決に向けて利用しようというものです。

端的に言えば、「インパクト・インベストメント」は金銭的な見返りばかりでなく、社会的あるいは環境上の価値を生み出す投資です。この概念に賛同する人々の熱意はパラダイムシフトに他なりません。すなわち、いかに不完全なものであろうと、市場ベースのツールがグローバル資本主義から取り残された人々の救済に活用できる、という考え方です。インパクト・インベスターは今年だけでも持続的農業、購入可能な住宅、クリーン・エネルギー・テクノロジー、貧困層向け金融サービスといった多様なセクターで変革をもたらすソリューションに数十億ドルの資金を投じます。また、今月初めには国連のハイレベル・パネルが、インパクト・インベストメントを2015年以降の持続的発展のための、現実的な「第三の方法」と位置付けました。

インパクト・インベストメントのよく知られた例としてはM-Pesaがあります。これはケニア経済を一変させた民間のモバイル・バンキングサービスです。2007年にサービスを開始し、現在では1500万人のケニア人が利用しています。利用者の大半はそれまで従来の銀行口座を開設することができず、携帯電話ではじめて預金、引出、送金ができるようになった人たちです。 M-Pesaの普及は驚異的なものがあり、現在では毎秒80件の取引を処理し、金額ベースではケニアのGDP、336億ドルの約3分の1に相当します。

ただ、あまりよく知られていないのは、M-Pesaが官民パートナーシップの直接的な成果だ、という点です。 このシードマネーはボーダフォンと、英国の国際開発省が提供しています。官と民がともに、携帯プラットフォームの普及により従来の銀行インフラを一変させて貧困層に金融サービスを提供するという、前例のないサービスに賭けたのです。

M-Pesaは官と民の両セクターのインセンティブを整合させ、膨大な社会的便益を創出させたインパクト・インベストメントの好例といえます。私たちはアメリカで、ニューヨーク州クイーンズにあるRikers Islandの拘置所におけるソーシャル・インパクト・ボンド・プロジェクトを起ち上げました。これは若い収監者に対する集中教育、研修、カウンセリングを通じて再犯を減らそうというものです。ゴールドマンサックスが当初資金を提供し、Bloomberg Philanthropies(ブルームバーグ慈善財団)がローンの保証人となり、MDRCという非営利団体がプロジェクトの監視に当たっています。

仲介役を務めるのはニューヨーク市です。再犯率が大幅に低下すれば、ボンドの保有者に対し再犯率の低下によるコスト低下分の見返りがあります。再犯率が減らなければ、再収容コストの低下もないので、金銭的な見返りはありませんが、納税者は何も支払う必要がありません。

ソーシャル・インパクト・ボンドは、もともと英国で始まりました。英国では政策決定者がソーシャル・インパクト・ボンドや同様の革新的なプロジェクトの採用に対して、非常に積極的に取り組んでいます。英国で始まったということで、キャメロン首相がG8首脳会議の議長としてインパクト・インベストメントを次のレベルに活かしたのは立派なことでした。キャメロン首相は、6月6日にロンドンで シビル・ソサエティー、政府、民間セクターの 指導者を集め、アーン湖で開催されるG8首脳会議の問題解決のツールボックスに、インパクト・インベストメントをいかにより系統的に組み込むことができるか、ということについて肉付けをしました。

私たちはアメリカ人として、母国がこうした試みの最先端にいることを嬉しく思います。Rikers Islandの試みのような州レベルの取り組みだけでなく、米国政府も国レベルのソーシャル・イノベーション・ファンドを支援し、実績のある非営利活動を広げようとしています。ちょうど先週USAID(米国国際開発庁)と、 DFID(英国国際開発省)がグローバル開発革新ベンチャー(GDIV)の創設を発表したところです。これは 世界中のいたるところからソリューションを探し出し、それを厳しい手段と段階的な資金供給によりテストし、標準的な手法よりも大きな価値を提供するものを基準化する目的で設立されました。GDIVは官民両セクターから投資資金を引出し、商業的にまたは公的セクターを取り込んでソリューションを拡大して行きます。

インパクト・インベストメントは、民主制のように、決して完璧なものではありません。しかしながら、私たちは市場ベースのソリューションが何百万人もの人々の生活を向上させることができる、ということをeBay、PayPalで目の当たりにしました。

私たちには残された大きな課題が待ち受けています。市場ベースのアプローチ―そして特にインパクト・インベストメント―は完璧な解決策ではありませんが、私たちの発展に突きつけられた課題に対するソリューションの一部を構成するものでなければなりません。私たちはG8各国の首脳に、市場ベースのアプローチに、思慮深い、正当な評価を与えるよう求めます。

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