ハイチ支援の光と影

2013年から3年余りの駐在で、ハイチでさまざまなNGOの活動を見てきて感じたのは...

飛行機の中で思う

アメリカのアトランタからハイチの首都ポルトープランス国際空港へ向かう飛行機の中で、ふと機内アナウンスが英語だけであることに気づきました。機内アナウンスは、出発国と到着国の言語で話されるのが通常ですが、ハイチの言語であるクレオール語も、公用語であるフランス語のアナウンスもありません。

機内を見渡すと、乗客のほとんどがアメリカ人で、ハイチの支援に取り組む若者やミッショナリーのシスターたち。アトランタとポルトープランスは、空路で3時間弱。現地で貧しい人々の力になりたいとの思いを、気軽に実行に移せる距離です。

ハイチに入国するほとんどの外国人は支援にかかわる人々で、幾千もの教会やNGOがハイチ各地で活動を繰り広げています。それだけハイチは支援が必要な国といえます。プラン・インターナショナルが日本政府の支援で行う「水と衛生プロジェクト」も、下痢やコレラなどの病気の蔓延を防ぐため、安全な水やトイレへのアクセスを向上させる目的で実施してきました。

活動地域のひとつマリゴーの町

同じく活動地域ジャクメルのカーニバル

支援の影と苦労

2013年から3年余りの駐在で、ハイチでさまざまなNGOの活動を見てきて感じたのは、良かれと思っての支援が、長期的にみると必ずしも現地の人々の生活向上につながっていない場合があること。ハイチに限ったことではありませんが、支援が人々の生活向上に貢献する一方、自分の生活や地域の発展への意欲を萎えさせてしまう面も否めません。

特に都市近郊部は、農村部に比べ比較的アクセスが容易なため、援助団体の支援が集中します。多くの支援で、モノをもらうことに慣れてしまい「モノを持つ者が持たない者に支援するのは当たり前」という考えが芽生えていきます。

長年コミュニティと活動をともにし、コミュニティの自助努力による開発を目指すプランは、コミュニティの視点に立って開発を考えていきますが、もしかしたら短期間の支援で帰ってしまう支援団体であれば、そうした側面に気づくことができないままなのかもしれません。

コミュニティと築き上げる信頼関係

援助への依存が強いコミュニティでの活動は、容易ではありません。そうした考えをもった人々に、自分たちが自助努力しない限り持続的な発展はできないと訴え、意識を変えていくには、年単位での継続的な努力が必要です。

コミュニティでの活動(トリガリング*)

グループワークで活動計画を練る衛生委員たち

*トリガリング:行動を起すきっかけをとなる機会

私が担当していた「水と衛生プロジェクト」でも、毎年新しいコミュニティで活動を始めるたびに、コミュニティの人々の関心を引き、活動への参加を求めるのに苦労しました。それは、プランのプロジェクトが「モノをあげない」プロジェクトだからです。

しかし、日々コミュニティとコミュニケーションを取り続けるうちに、人々はプランの職員に徐々に心を開き、信頼するようになり、次第に自助努力の大切さをわかってくれるようになります。そして、ともに行動し始めるのです。現地職員とコミュニティの人々が協力関係を築き上げていく光景は非常に感慨深く、私自身もこのプロジェクトに従事して手応えを感じました。

学校衛生イベントの様子

衛生コンテストでディベートする生徒たち

2013年からコミュニティの自助努力により新規に建設されたトイレは400基以上、手洗い場が併設されより衛生的になったトイレは1000基以上にのぼります。人々がトイレを使う必要性を理解し、コミュニティ全体で活動を盛り上げた結果です。ある支援対象校の先生は言いました、「このプロジェクトのおかげで、病気になる生徒数がずいぶん減って、出席率も良くなったよ」。

支援は人を育てる、子育てにも通じる

支援の本質は、人づくり。子育てにも通じるものがあると思います。支援を受ける人々が前を向いて進めるように自立を助ける支援でなければ、効果は長続きしません。

私たちの活動や関与が支援を受ける人々にどのような影響を与えるのかをよく考え、どうしたら人々が現状の生活を見直し、改善に向けて行動に移していくことができるかコミュニティの人々と一緒に考え、取り組んでいくことが地域開発の基本なのだと、プランのハイチの活動を通して痛感しました。

2013年11月から3年間の「水と衛生プロジェクト」は終了します。しかしながら、彼らの自立にはまだまだ支援が必要です。

プロジェクトスタッフと林職員(前列右から3人目)

プラン・インターナショナルはコミュニティが完全に自立し、私たちプランが地域から撤退する日まで継続して支えていきます。

プラン・インターナショナル プログラム部

はやし・みほ

アメリカ大学院で持続可能開発学修士号取得。バングラデシュでインターンを経験後、カンボジア、ドミニカ共和国に長期滞在し、環境の専門家として多国間や二国間援助業務にかかわる。

そのほか、マレーシア、インドネシア、カザフスタンなどの国々へも短期赴任。

2013年11月よりプラン・ハイチに当該事業プロジェクトマネージャーとして勤務。

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