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『戦争論』から16年、よしりん激白「保守もネトウヨも安倍もまったく愛国者じゃない!」

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 1998年、『戦争論』で大ブームを巻き起こした "小林よしのり" は、2014年現在の「ナショナリズム」や「ネトウヨ」をどう見ているのか? そして、ヘイトスピーチや集団的自衛権、憲法改正など山積する問題をどうするか、気鋭の論客たちと徹底討論!
 パネリストには、2000年代半ば以降「ナショナリズム」を理論的に分析してきた哲学者・萱野稔人、『中国化する日本』でまったく新しい東アジア像を描いた日本史研究者・與那覇潤、草の根のナショナリズム運動の現場を歩き、「ネトウヨ」的心性の広がりを見てきたフリーライター・朴順梨を迎え、それぞれの角度から現代日本の「ナショナリズム」を語った。

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▲『ナショナリズムの現在――〈ネトウヨ〉化する日本と東アジアの未来』

※この記事はKindle版『ナショナリズムの現在――〈ネトウヨ〉化する日本と東アジアの未来』の内容の一部を、見出しを変え転載したものです。

ナショナリズムが国益すら無視して暴走しはじめている

宇野 最近の新大久保でのヘイトスピーチに代表されるような、草の根レベルで行われている過激な反中・反韓運動について、みなさんの意見をもう少し突っ込んで伺ってみたいのですが、いかがでしょうか。

與那覇 ああいった人たちは、今やむしろ安倍政権の足を引っ張っているでしょう。たとえば2013年末の安倍首相の靖国参拝は、直前までどこにも告知せず抜き打ち的に行ってしまったわけで、それが米国の不快感に油を注いだ面がある。朝日新聞によると抜き打ちになった理由は、要するに首相が靖国に来ることが事前にわかってしまうと、参拝を歓迎するネトウヨの皆さんが旭日旗を持って集まってしまうかららしいんです。
 もし群衆の旭日旗に囲まれて首相が靖国に参拝する写真が海外で報道されたら、「日本は戦前に戻った。安倍は極右政権だ!」「もうこの国は支持できない」という国際世論が形成されてしまう。そういう事態を避けるためには、根回しなしでいきなり行っちゃう恰好しかとれなかったと。安倍さん応援団のネット右翼的言動が、実は安倍さんの取れる外交カードを狭めて、足を引っ張っているんですね。

小林 それはまったく正しいよね。たとえば、1991年に宮沢内閣で河野洋平官房長官が従軍慰安婦問題の存在を認めた「河野談話」というものがあるわけだけど、自民党は「河野談話を見直せ」とか「河野太郎を証人喚問しろ」みたいなことを言っていて、橋下徹なんかも同じようなことを言っている。
 で、わしはさ、この件に関して黙っておこうと思うわけ。もし万が一、自民党が河野談話の見直しをやってしまったら本当に大変なことになるからね。

萱野 それを言うなら、「慰安婦の強制連行はなかった」と言うことだって同じですよね。こういういことを言えば言うほど日本の立場は国際的に悪くなる。自分たちは愛国的立場で国のために言っているつもりが、それが国の立場を悪くしている。だから今の問題は「ナショナリズム」そのものの原理的な良し悪しの問題以前に、「ナショナリズムが国益すら無視して暴走しはじめている」というところだと思うんですよ。

小林 まさにその通り! わしが言いたいのもそういうことなんだ。つまり、いわゆる「保守」とか「ネトウヨ」とか、そういう人間がまったく愛国者じゃないんだよ。今のネトウヨとか保守を名乗る人たちが、逆に安倍政権を追い込むことになってしまっている。
 安倍晋三本人も非常にやばい方向に行かざるを得ないところまで来ている。たとえば尖閣諸島の国有化の問題のときも、ネトウヨとか保守を名乗る人たちは「領土がお金で買えるなら」とみんなで寄付金を集めていたけど、それは全然ナショナリズムじゃないわけだよな。「自分たちの血を流してでも、領土はしっかり守ろう」という覚悟があるものじゃない。「金で買えるなら」と言ってやっているわけだけど、その結果がどうなるかまでは考えていない。いまは、すべてがそういう安易な方向に行ってしまっているよね。

従軍慰安婦を「どうせ売春婦だろ」と言ってしまう歴史感覚のなさ

 小林さんが『戦争論』で「従軍慰安婦に感謝する」という言葉を書かれていてすごく印象的だったのですが、「ネトウヨ」と言われる人たちにはこういう視点がまったく欠けていると思うんです。今のいわゆる「愛国奥さま」の団体は街宣などで、「従軍慰安婦はウソだ」「慰安婦は売春婦だ」とか言っていて、さらに「売春ババァを殺せ」とまで歌っているグループなんかもあります。とにかく慰安婦を人間として扱ってない。
 関東大震災の時に、デマを信じこんだ人たちによりたくさんの朝鮮人が殺されました。子供たちまで加担したケースもあったと言います。「あれは不逞鮮人だから」という人もいますが、だからと言って殺していい訳はないし、親日派と言われた人ですら、同様に軽い扱いを受けていました。
 19世紀の朝鮮の政治家に金玉均という人がいたんですが、彼は福沢諭吉らとも交流があって、「日本に倣って朝鮮の文明を開化させたい」という志を持って活動していた。のちに上海で暗殺されますが、その前の約三年半は、東京で生活していたんです。暮らしは比較的自由に見えましたが、明治政府は彼を政治的道具として利用しようとしていたし、生殺与奪を握るのは自分たちだと考えていました。そして自由に動けることで、何をしでかすかわからないからと、朝鮮から閔氏の刺客が送り込まれることにもなりました。
 日本に倣いたいとやってきた彼ですら、日本はある意味道具にした。この時代から結局、朝鮮半島の人たちを同じ人間と思っていないというところがあるのではないかと。しかもその視点は現在では、いわゆるネトウヨから非常に感じられるんですね。まあ、関東大震災や金玉均の話はその当時の時代状況が今とは違うかしれませんが、最近ではネトウヨだけではなく、一般の人たちですら朝鮮半島の人たちを人間扱いしていないのではないか、と感じるときがあります。
 とはいえ、震災の時に朝鮮人を虐殺から守った日本人もいましたし、頭山満や犬養毅のように金玉均を支援した人もいますので、すべての日本人がそうだという訳ではないと信じていますが......。

與那覇 ただどうでしょうか。僕は、「朝鮮人は同じ人間じゃない」と言ってしまうような露骨なヘイトスピーカーは、あくまでノイジーマイノリティであって、決して日本のマジョリティにはならないとは思っているんです。

 本当にそうでしょうか?

與那覇 それぐらいには、日本人の良識というものを信じていますから。宇野さんのいうように、レイシスト的な言動に走る狭義の「ネトウヨ」と、なんとなく安倍政権を支持しているサイレントマジョリティとは、分けて考えた方がいいと思います。
 もちろん、それは「だから日本は大丈夫、安心だ」ということではなくて、逆に「何がこれから、マジョリティになってしまいうるのか」を考えてみると、やはりそれは歴史感覚の欠如だと思うんです。たとえば慰安婦問題が最初に沸騰した90年代までなら、少なくとも戦時下の日本というのが現在とは異質な、異常さを孕んだ時代だと、そういう認識は共通してあったと思います。だから、当時は「歴史認識論争」だったわけでしょう。今の我々の感覚では到底理解できないことが、普通に行われていた時代がある。そのことは前提にしたうえで、それをどのような物語の中に位置づけるべきか、が問題になったわけでしょう。
 しかしネトウヨの人たちが使う「いつの時代も売春婦はいる」だとか「きっとお金がほしいんでしょ」みたいな罵倒が示しているのは、「今の私たちとはまったく感覚が違う時代があった」ということを想像する気がはなからない、ということですよね。いまの自分の生活感覚の尺度まんまで、壮絶な体験をしてきた人の過去を論評してしまう。そういう非歴史的な態度の方は、容易にマジョリティ層にも拡散しうると思います。小林さんたちが『戦争論』の頃に仮想敵にしていたように、「戦後の価値観を自明視して、往時の日本人を単に悪として切り捨てる人」はかつてマジョリティだったのだから、それがちょうど左から右に裏返った格好で、定着してしまう危険性はありますね。

「方法としてのナショナリズム」は機能するか

萱野 與那覇さんの言っていることはその通りだと思うんですけれど、それだと「ネトウヨの人たちは歴史感覚がない」「昔の人の感覚をもっとちゃんと想像しよう」という道徳的な批判に落ちてしまう。こういうタイプのナショナリズム批判はもう終わりにしたほうがいいのではないか、というのが私の考えなんです。そうではなく、「中国・韓国に反発したい気持ちはわかるけれど、このまま憎しみをぶつけるだけでは日本の立場は悪くなる一方だから、もっといい外交戦略につなげて行こうよ」と言うことのほうが、今は大事ではないでしょうか。

宇野 僕もそこは同感で、「ネトウヨ」のような存在は、日本という国家が続く限りなくならないと思うんです。逆にこれまでのような戦後民主主義の力が異様に強かった何十年かのほうが異常だったと考えるべきではないか。今のように近代的な国民国家が隣り合っていたら、一定の割合で排外主義者は出てきてしまいますよ。
 さきほど與那覇さんが「かつては『良い物語』と『悪い物語』をめぐる歴史観論争だった。しかし、今は歴史(=物語)自体がない」とおっしゃっていました。今の日本にはもはや「物語」がない。だからこそ、人々がむき出しの現実とぶつかって生きざるをえなくなっている。むき出しの現実というのは、「国に予算がない」「もう日本は経済成長しない」「中国・韓国は反日的で、そのうち何をするかわからない」といった、今起きている様々な問題のことです。こうしたむき出しの現実に「物語」というフレーム抜きでぶつかると、何割かの人々は感情に駆られて自然と排外主義的な態度を取ってしまう、ということではないでしょうか。

萱野 つまり「歴史認識を持っていた時代のほうが珍しいんだ」という認識に立つべきだ、と。

宇野 ええ。だけれども、そこで今のような状態を「正常な状態に戻った」と言って肯定するのか、それとも「そんなことをやっていたら安倍政権のような連中が出てきて、外交でヘマをして困るからなんとかしよう」と考えるかが別れ道だと思います。
 何年か前に萱野さんが「方法としてのナショナリズム」という議論をされていた時期がありましたよね。「排外主義的な連中が出てくることは現実として認めざるを得ない。そういう前提に立った上で、ナショナリズムをいかに利用していくのかを考えよう」ということだと僕は理解していて、基本的にこの路線でいいと思っています。
 では「歴史観(=物語)」があった方が、「方法としてのナショナリズム」は生きるのか。それとも、左右の歴史観が完全に中和されて「信じたいものを信じればいい」という状態になっている今の状態を是とするのか、ということなんですよ。

萱野 そこですね。ネットで慰安婦問題について「あいつらは売春婦」とか「強制連行はなかった」と書いている人たちに僕は聞きたい。「そういうことばかり言っていて、本当に日本の外交的立場は良くなるんですか?」と。
 たとえば、橋下徹さんが2013年5月に「慰安婦は必要だった」と発言してバッシングされましたよね。そのすぐあとにアメリカのアーミテージ元国務副長官が「政治家は慰安婦問題について語るな。どうせ失言して日本の立場が悪くなるだけだから黙っておけ」と言っているわけですが、本当にその通りで、迂闊なことを言えば言うほど日本の立場は悪くなる。そういう今の状況の中で、どうやったら日本の立場を良くできるのか考えてよ、と言いたい。

宇野 萱野さんは、この「『歴史観』のない状態」というのを積極的に維持しながら、うまくマネジメントしていくという発想ですよね。

萱野 「積極的に維持する」というよりは、すでに、歴史観がうまく機能しなくなるような、社会的な状況の変化があるということですね。人々が主体的に歴史観をなくしたからこういう状況になったのではなくて、そもそも、歴史観が機能して議論が成り立つ時代というのは、ある意味で幸福な時代だったんです。しかしそれがもはやなくなって、今や自分たちの地位をどうやって維持するかを本気で考えないといけない時代になったときに、外国からいろいろ言われている。そういう状況だからこそ、今あちこちでいろんなかたちで排外主義が出てきている。こうなった以上は仕方がないでしょう、ということですね。

 それは要するに、萱野さんは「中国・韓国が日本に対して抗議をし過ぎるから日本で排外主義が生まれる」「あちらが先にやったからこうなったんだ」とお考えなんでしょうか?

萱野 私は、そういう側面は少なからずあると思います。

小林 やっぱり、「中国や韓国はどこまでしつこいんだ」という反発は基本的にあるわけだよな。

まだまだ白熱する議論の続きはぜひ、Kindle版『ナショナリズムの現在――〈ネトウヨ〉化する日本と東アジアの未来』で!

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▲『ナショナリズムの現在――〈ネトウヨ〉化する日本と東アジアの未来』
(萱野稔人×小林よしのり×朴順梨×與那覇潤×宇野常寛)

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