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過疎化する地方でタクシーが果たす使命――日本交通・川鍋一朗が描く「交通」の未来

2014年09月21日 22時31分 JST | 更新 2014年11月20日 19時12分 JST

※本記事は、宇野常寛責任編集の「PLANETS」のメルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」 からの抜粋です。「ほぼ日刊惑星開発委員会」では、サブカルチャー、評論からIT・ビジネスまでさまざまなジャンルの記事を平日毎日配信中です。

日本最大のタクシー会社「日本交通」社長で、ビジネス誌などでも注目される川鍋一朗氏。大学卒業後マッキンゼーを経て、1900億円の負債を抱えた老舗タクシー会社「日本交通」を創業家の三代目として受け継ぎ、見事に会社再建を果たす一方で、タクシーを呼べるアプリ「日本交通タクシー配車アプリ」を開発するなど、新たな手法でタクシー業界の次の姿を切り拓いてきた。

PLANETS編集部は今回、川鍋社長に日本交通本社でインタビューを行った。uberなどのタクシー配車アプリが途上国を中心に爆発的に伸びている状況に、いかに対応していくべきか。そして、タクシーと切り結んだ、未来社会における「交通」の新たな姿とは。宇野常寛と川鍋氏が、「タクシー文化」の現代における可能性について語り尽くした。

【構成:稲葉ほたて】

川鍋一朗氏出演!

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渋谷ヒカリエとPLANETSのコラボ企画「渋谷セカンドステージ」シリーズ第4弾は、10月8日(水)開催です! これからの東京と都市生活を、建築・交通・情報という「プラットフォーム」の側面から考えます。

"タクシー王子"としてテレビや雑誌に多数出演している日本交通代表取締役社長の川鍋一朗さん、元Google日本法人社長/米本社副社長で、著書『村上式シンプル英語勉強法』が20万部のベストセラーとなった村上憲郎さん、PLANETSでもおなじみ建築学者・明治大学専任講師の門脇耕三さん、本誌編集長・宇野常寛、そして司会にはニッポン放送アナウンサーの「よっぴー」こと吉田尚記さんを迎えて徹底的に語ります。

▼「プラットフォームとしての東京―― 建築・交通・情報から考える」

開催:10/8(水)19:00~21:00(予定)

会場:渋谷ヒカリエ 8F 8/01/COURT

▼出演者

川鍋一朗(日本交通代表取締役社長)

村上憲郎(村上憲郎事務所 代表、元Google日本法人社長 兼 米本社副社長)

門脇耕三(建築学者、明治大学専任講師)

宇野常寛(評論家、PLANETS編集長)

【司会】吉田尚記(ニッポン放送アナウンサー)

▼チケットのお求めはこちらから!

[peatix] http://peatix.com/event/51236/

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▲川鍋一朗

■ 「拾う文化」から「呼ぶ文化」へ

宇野 今日は単刀直入に、川鍋さんにひとつお伺いしたいことがあるんです。まず、川鍋さんは、否応なく変わっていかざるを得ないタクシー業界にかなり強く介入されていますね。

川鍋 そうですね(笑)。

宇野 そのとき、川鍋さんはタクシー業界をどこに導こうとしているのか。例えば、あちこちのインタビューで、「これからはタクシー業界そのものが生き残りをかけなければいけない。流しのタクシーを拾う文化から、タクシーを呼ぶ文化に変えなきゃいけない」と仰られていますね。

川鍋 タクシー業界は一昨年100周年を迎えたのですが、まさに102年目にして「選べる時代」にさしかかりつつあるという認識です。まだ売上のボリュームでは都内のお客様の2割程度ですが、そういう能動的な方がどんどん増えています。当社の売上に関して言えば、10年くらい前は積極的にウチを選ぶ人は3割くらいだったのが、既に半分以上です。

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こういう施策は、もちろん会社の競争としても必要で、アプリもその一環です。あれはSUICAを導入したり、慶應病院の前で待つタクシーをウチにしてもらったりするのと同じ"シェア拡大策"のひとつなんです。

宇野 ただ、その背景には、明らかに世界的な流れがありますよね。現在、日本交通のアプリのようなGPS機能と連動してタクシーを呼べるアプリは、外国でも大きなインパクトをもちはじめていますよね。もちろん、途上国やアメリカと日本のタクシー事情は社会的な条件が大きく違うとは思うのですが。

川鍋 我々はアプリ専業の会社ではないので、あくまでもタクシー事業者としてのアプリ運営でしかありません。ウェブサービスで言えば、「食べログ」というよりは「ぐるなび」に近くて、あくまでも事業者の効率的運営のサポートが目的であり、お客さまにとってのタクシーの価値を上げるためのものなんです。

それに対して、IT事業者の運営する、例えばuberやHailoのようなアプリは目新しいシステムではあるのですが、タクシー事業者にとってはマージンを失うものなんです。それでは産業全体として地盤沈下してしまい、お客様に新たな価値を届けられなくなります。しかも、多くのアプリは既存のタクシーを呼びやすくしているだけなのにマージンが10-15%ですから、我々にとっては払えるレベルではないんですよ。せいぜいクレカの手数料の3-4%が、事業としての限界なんです。

だから、産業という側面からすると、自分たちでやった方がいい。まずタクシー産業発展のために利益をしっかり確保しようという視点で、スマートフォンのアプリを広げています。いまは全国で120社くらいと提携していますね。

宇野 川鍋さんの仕事を見ているとタクシー業界が受動的に待つお客さんではなく、能動的なお客さんを今よりもつかまえるようになっていくんだなと思うんです。

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■ 都市生活におけるタクシー文化の可能性

宇野 ここまでのお話は、ある意味で業界にとっての「タクシー文化」の話ですね。でも、僕が本当に気になるのは市民にとってのタクシー文化なんですよ。

例えば、僕はほとんど百貨店に行かずに、楽天とアマゾンで買い物をしているんです。外食でも、通の人が出入りしている界隈を紹介してもらうよりは、食べログを見て「3.5なら行こうかな」という感じです(笑)。こういう都市生活の変化がある中で、公共交通機関は電車も飛行機も基本的には変わっていないわけです。そういう点では、まさに日本交通のタクシーアプリが交通における初めての変革ではないかと思うんです。

そこで僕に興味があるのは、市民とタクシーとの距離感がどう変わっていくかです。例えば、海外でタクシーアプリを使うユーザーにとっては、安全なタクシーを確実に呼べるのは大きいでしょう。でも、日本では治安が良いこともあって、タクシーでの犯罪というのはあまり聞かない。アメリカや途上国と日本では全く異なる変化が起きると思うんです。

川鍋 なるほど......。ひとつ言えば、アプリを使う若者たちに、タクシーという選択肢を持ち込めたのはありますね。

我々の世代くらいまでは、社会人になって飲みに行ったら、部長クラスから「しょうがないタクシーで帰れ」と指示を出されるのが、まだ経験としてあったんです。だけど、それはもう宇野さんより下の世代にはないでしょう。せいぜい年に数回程度という人が多いと思います。20代の人が人生でタクシー使った経験って非常に乏しいんです。その点で、アプリは入り口のハードルを下げたと思います。

もっと広い話題として、タクシーと生活文化との関わりを考えるなら、むしろこれからです。いまは単なるタクシーサービスですけれども、それでモノを運んでもいいし、頭痛が酷くなった人に薬を届けてもいい。5分程度で届くデリバリーという面での需要は大きいと思うんです。そういう、言わば「5分で一番速く来てくれる他人」という意味でのタクシーという姿が、今後ひとつあると思っていますね。実際、いま母の日に、車に母の日のプレゼントを積んで売るサービスをしていて、これをさらに展開していきたいと考えているところです。

■ 地方社会におけるタクシー文化の可能性

川鍋 もうひとつ私が考えているのは、過疎化の進んでいる地域でのサービスなんです。そういう地域では、電車もバスも乗る人が減って赤字になってしまっていて、オンデマンドタクシーの重要性が増しているんです。でも、結局は過疎化した街のおばあちゃんに必要十分な足を与えようとすると、どんな交通機関であれ赤字になります。それこそ、最終的には「住み慣れた家を諦めて、もう少し駅の近くに出て来てくれ」という政治的判断さえあると思うんです。

宇野 長期的にはそうなると思いますよ。

川鍋 そうなってしまうと、やはりコスト構造が低い交通手段を考えていく必要があって、車一台を最小単位としたボランティアが究極の形だろうと思います。でも、オンデマンドタクシーは、政府の助成金がないと続かないんです。

実は地方では、若い人が車で送り迎えするような草の根ボランティアの活動も始まっていますが、これも結局は「自家用有償運送」と呼ばれるものになっていて、「ガソリン代だけは出してくれ」と地方自治体に掛け合うんですね。そうなると、やっぱりタクシーに近づいていくんですよ。

この問題を巡って、地方のタクシー会社と住人の不毛な平行線の戦いが起きているんです。タクシー会社は最低賃金ギリギリでやっていて、ボランティアはできない。政治家や行政は本心では住民のボランティアに期待しているけど、でも票を持っているのはタクシー会社なので表向きはそう言えない。この話の難しいところは、お互いの立場にとって、どうしようもなく正しい大義名分だというところです。

私としては、そこで例えばその地域のタクシー事業者の100%シェアをとって、その上でボランティアを束ねて、アプリで配車したいんです。その代わり、アプリを使ったら50円はいただく。その上で運転者には、このボランティアになれば多少のお金はあげるし、空き時間の好きなときに好きなだけやってよいと伝える。これが地方の公共交通機関への、私が考え得る唯一の答えですね。

宇野 まさにその通りだと思います。佐賀県知事と先日、対談したんです。実は佐賀県って、すごく人口がばらけていて、一箇所への集中がないんですね。コンパクトシティも鉄道の維持も全然現実的じゃないんです。でも、それは佐賀県だけの問題ではなくて、結局70年代に列島改造をやってしまった以上、日本社会はある程度分散した状態のままやっていくしかないという話なんですね。

そうなると、車社会のまま地方の交通をアップデートする以外に道はないのですが、残念ながら国や自治体には限界があって、やはり向こう10年は産業界からの提案で動いていくしかない気がするんです。でも、そこに具体的な回答を持っている人は少ない。おそらく、川鍋さんのいまのお話は、まさにその数少ない正解というか現実的なプランだと思いますね。

川鍋 番組名を忘れてしまったのですが、以前にNHKのドキュメンタリーで見た光景が、究極の姿だと思っているんです。過疎地域にたったひとつだけ個人タクシーがあって、そのドライバーの生活を地域のおばあちゃんたちがお金を出し合って支えているんです。なぜなら、その人がいなくなってしまうと、彼女たちは美容院や街に通えなくなってしまうんです。で、代わりにそのドライバーは、「ちょっとこの棚直して」みたいな要望にも応えるわけです。ある意味では、運転に主軸をおいた便利屋さんですね。でも、彼はおばあちゃんたちのことよくわかっていて、心も通いあっている――この姿にどう上手く移行していくかを、僕は考えているんです。

個人的には、過疎化された地域では事前に基準を設けて乗務員を採用するよりも、タクシーアプリが採用している評価システムのように、事後にユーザーが運転手を評価する仕組みが合うと思うんです。そうなれば、地方の主婦だとか、あるいは千葉のサーフィン好きのお兄ちゃんが、朝にいい波に乗ったあとで昼とか夜に自分の車でタクシーをやって、小遣いを稼げるかもしれない。みんなが地域での生活をエンジョイしながら、暇な時間に労働力を提供してタクシー社会を成り立たせる。そういう地方における交通のモデルがあるはずなんです。

宇野 特区のような場所で成功例を出すしかないと思いますね。ちょっと不謹慎かもしれないけれど、可能性があるとしたら、ひとつは東北ではないでしょうか。緊急避難時の装置として導入を認めてもらうのは手ですよね。

あるいは、オリンピックも良いかもしれません。湾岸は鉄道を伸ばしても輸送力が貧弱だし、だだっ広いので風が強くて、自転車も現実的ではない。そこで車は重要になるはずなんです。こういった、社会の動きと連動したなにかが必要な気がしますね。

それにしても、僕は今日の川鍋さんの話で、久しぶりに「地方にとっての武器」としてのインターネットという発想を忘れていたことに気づきました。

実はインターネットが出始めた頃、最初に変わったのは郊外の消費生活だったんです。その次に変わったのが、先ほども話したように都市生活ですね。