Amazonランキング1位 「ママが死んじゃう絵本」なのにママたちから大人気のわけ

のぶみさん自身が「これは子どもが大キライな絵本なんです」と言う反面、発行部数が10万部を超えた。どうしてここまで人気を集めているの? そんな疑問をのぶみさんにぶつけてみました。

『ママがおばけになっちゃった!』は、「しんかんくん」シリーズや「ぼく、仮面ライダーになる!」シリーズなど、これまで160冊もの絵本を手がけた人気の絵本作家、のぶみさんの最新作。

のぶみさん自身が「これは子どもが大キライな絵本なんです」と言う反面、本を読んだママたちの「涙が止まらなくなった」「単なる感動だけじゃない、素晴らしい本」といった声が盛り上がりを見せ、発売初日に増刷、その後も日をあけずに数回の増刷を経て、発行部数が10万部を超えた。

さらに、Amazon全体のランキングでも1位を獲得するなど、異例づくしの本となっている。

でも、どうしてここまで人気を集めているの? そんな疑問をのぶみさんにぶつけてみました。

作家じゃない。初めて「マネージャー」の気分を味わってます

ーー新刊『ママがおばけになっちゃった!』はタイトルの通りママが死んでおばけになって......という、かなりインパクトのあるお話ですよね。どうしてこの絵本を描こうと思ったのでしょうか?

のぶみ 「ママが死ぬ」っていう設定はめずらしいですよね。僕はものすごく絵本を読むのですが、こういった設定の絵本は見たことがありません。

大抵のママは男の子を生むと、「この子、こんなにアホなんだな」って思うらしいんですよ。男ってアホじゃないですか (笑) 。

うちの奥さんもそうですが、「私がいなくても生きていけるのかしら?」って、たとえ話じゃなくて本気で心配するんです。

だから、親にとっても子どもにとっても、絵本としては究極の設定だと思ったし、シンプルにそれを描いてみたかった。

ストーリー自体は、パッとひらめいて30秒くらいで絵のイメージまでできあがったんです。

そして発売前に講演会や打ち合わせで会った人など、1000人くらいに読み聞かせをしました。他の本より笑って泣いてという反応が断トツで、その度にみんなの意見を取り込んで少しずつ直しを加えていったんです。

今までの絵本は編集者さんと自分だけで作ってきたけど、これはみんなの力で作ったという感覚。

だから、作家というよりは、この本の「マネージャー」の気分です。この本が世の中に伝わるならなんでもやるぞ、と。

子どもには"ビンタ級"の威力のある一冊

ーーどんな人に読んでほしいですか?

のぶみ みんなに読んでほしいですが、子どもたちはかなり嫌がるんですよね(笑)。

1000人に読み聞かせて気づいたのですが、この本を読んで泣いたり、途中で読むのをやめて逃げちゃうのは、ママが大好きでたまらないことの裏返しなんだろうなと。

子どもだけど、ママがいなくなることをちゃんと理解して、泣いたりこわがったりする。この本で改めてママが大好きだと感じるんだと思います。だから読み終わった後、ママにくっついて離れなくなったりします。

いなくなって初めて大切だってわかることは、いっぱいあるんです。大人もそうだけど、特に子どもはママに何かしてもらえるのは当然だと思ってる。だけど、それがなくなることはあり得るんだぞ、ということ。

この本は子どもに対してビンタ級の威力があると思いますよ(笑)。「お前、ママは大切なんだぞ、よく考えてみろ」って分かってくれるといいな。

泣き、笑いが「たった5分間」に詰まってる

ーー今作は、子どもがほしい!というよりママがほしい!といって買うみたいですね。

のぶみ そうですね。

絵本って、ママが読みたいとか、読ませたいものを買う傾向がありますけど、ママが楽しめるから子どもも楽しめるかというと、必ずしもそうではない。

でも、これはママも子どもも、それ以外の人も楽しんでもらえると思うんです。それは全員がママから生まれていて、"ママと子どもの関係"を経験してきたから

それに、この本を読み聞かせるのには、だいたい5分くらいかかるんですけど、その5分に泣き笑いが詰まっています。たった5分でそういった感情の波を経験できるものって、ほかにないと思うんですよね。

だから、この本をきっかけに、絵本ってこんなに面白いんだというのを知ってもらいたいです。

ーー特にママの立場からは「この本に出会えてよかった」という感想が多いと聞きました。

のぶみ ママは子どもが生まれると、「子どもが大きくなるまで死ねない」って思うものですよね。だけど、毎日を過ごしてると大切なものが見えにくくなったりする。だからこそ、これを読んで改めてハッとするんじゃないかな。

子どもは愛を注入してあげないといけない生き物なんです。0〜6歳の間にお母さんの愛が入ってないと思春期でグレてしまう。僕がそうだったからよく分かる(笑)。だから小さいうちに、ちゃんと向き合ってほしいんです

子育てで大切なこと、すべてがここで学べる

ーーのぶみさん自身が思う、この絵本の見どころはどこでしょうか?

のぶみ 本作のラストは、最初は主人公のかんたろうが「僕もママのこと大好きだったよ」っていうセリフで終わらせようと思っていたんですけど、途中で「僕がんばってみる、ひとりでやれるよ」に変えたんです。

僕は、子育ての卒業は"自立"だと思っていて。子どもは一人でできるって言わなきゃいけないし、ママはそれを子どもに言わせなきゃいけない。子育ての大切なことすべてがこの一冊に入っているんです。

読み進めていただくと分かりますが、かんたろうの気持ちは「ママ会いたいよ」から「大丈夫だから見ててね」に変わります。きっと意地張って言ってるんだろうけど(笑)、意識が成長しているんです。

ーー今後はどんな絵本を描いていきたいですか?

のぶみ 僕は、「もう1回読んで!」と子どもがせがんで持ってくるような絵本がいい絵本だと思っていて、そういう本を描いていきたい。

今までは子どもが喜んで楽しめる絵本ばかり描いてきたけど、この本って、子どもが泣いたり嫌がったりして、晴れて子どもが大キライな本になったと思っているんです(笑)。

でも、「これ、すごく嫌だった。でも印象に残ってる」といって20年、30年後にもう一回読むと思うんですよね。だから、その意味でこの作品は壮大な「もう1回読んで!」なんですよ。

(2015年9月15日「QREATORS」より転載)

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