子育てしにくい社会を変えるため、主婦の私にはニコ生を観る以外、何もできないの?

この国では困っている人がいても、多数でなければ票につながらないから、支援の責任は民間企業にゆだねると言うのか?主婦の私には何もできないの?

憂鬱な確定申告

春になると、私は急に主婦になる。

確定申告を終えた私は、昨年の翻訳収入を夫に告げた。すると夫はぼそりとこうつぶやいた。

「あんなに働いて、それしかもらえないの?俺は何のためにたくさん家事を手伝ったんだよ」

その後、しばらく私はせっせと床を磨き、家事をちゃんとやるから、翻訳を続けさせてくださいと無言のアピールをした。

社会を変えるために動く人達をニコ生で観ているだけの私

4月19日に開催された『みんなの保育の日 2017 ~子どもは社会で育てよう~』をニコニコ生放送で視聴した。

子どもを皆で育てる社会の実現に向け、行動を起こしている人達。プレゼンテーションの後、厚生労働大臣塩崎さんに皆の思いを伝えるNPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さん。

私はそれをただインターネットで観ているだけ。

ネット弁慶、チキンな自分

ハフポストに出版翻訳家である自分の苦しい状況について書いてから、出版社や他の翻訳者からどう思われるだろうと脅えていた。私はいつもびくびくしている。

PTA、広報廃止の署名

小学校4年生の娘の学校で役員決めがあった。なかなか決まらず、流れる気まずい沈黙。ようやく立候補者が出ると、昨年PTAで広報をしていたママが、昼間何度も大人数で集まっても、どうせ毎年同じような内容でないと学校が認めないし、働いているママの負担にもなるから、廃止にしよう、と署名を募りだした。

署名をして、「ありがとう」とお礼を言うママもいれば、広報はあった方がいいと意見を言うママも。自分には関係ないと思っているのか、知らん顔する人もいた。

私はというと、声を上げたママと少し話した後、そっと署名して帰った。目立って誰かを敵に回すのが怖いから。帰りの廊下で、無理に決まってるよね、と話すママ達の横を足早に通り過ぎて。

もう保育所には通わせたくない

下の子はあと少しで1歳。出産後すぐに保育所に申し込んだが、いまだに待機児童だ。でも待機児童になってほっとしている自分もいる。

上の娘を公立保育所に通わせていた時、忙しくない時期も、平日5日毎日、8時半から16時半まで預けないと嫌な顔をしてきたり、低賃金、長時間労働でいつもイライラ、きつい言葉を投げ掛けてきたりする先生達のことが怖かったからだ。

幼稚園で働いていた友人に相談すると、こんな答えが返ってきた。

「預かってもらっているんだから、嫌だったら、仕事をやめて自分でみるしかないよ」

今の日本は70年代のノルウェーのよう

北欧の1国、ノルウェーでは70年代に保育所増設を求めるデモが活発化した。しかし1974~75年の記録では、当時0歳から7歳の子を持つ母親のうち保育所に子どもを預けられたのはわずか6パーセントだったらしい。

ノルウェーの社会学者Runa Haukaaは、当時の母親は、「辛くても弱音を吐けなかった。そんなに文句があるなら、仕事を辞めればいい、と言われてしまうからだ」と述べた(『私は今、自由なの?』"Er jeg fri nå?"、Linn Stalsberg著より)。今の日本は70年代のノルウェーみたいだ。

ワーママと主婦は分かり合えない?

家で息子を見ながら在宅ワークする私は、子育て支援センターに通っている。9歳の娘と通っていた時に比べ、働きたい、保育所に入れたいと口にするママが増えた印象だ。

でも私は支援センターでは仕事をしていることは言わないことにしている。上の娘の時、支援センターで仲良くなったママに、娘が1歳を過ぎた頃、保育所に入れると告げた時のことを忘れられないからだ。

彼女は「私も働かなくちゃ」と言って表情を曇らせた。その後、すぐに連絡は途絶えた。

働くママ達が主婦は暇人と言っているのを何度か聞いたことがある。

先に挙げた本でも、ノルウェーで70年代、働く女性達が、子どもを預けて働くことに罪悪感を覚えたり、家で子どもを見ている女性達を羨ましく思ったりしていた、と書かれていた。

ワーママへの子育て支援は保育所だけで十分?

子育て支援センターでは、子育てが孤育てにならないよう、ママ同士友だちになるよう薦められる。子育て支援センターは土曜、開いているところもあるけれど、平日の昼間、家で子どもを育てるママのサポートが主な目的とされているような気がする。

昼間子どもを保育所に預け、働いているママ達は、いつママ同士のネットワークを広げ、育児情報や子育て支援を得られるのだろう?

『みんなの保育の日 2017 ~子どもは社会で育てよう~』で働くお母さんに冷たい社会について憤りを表す日経DUAL編集長の羽生 祥子さんや治部 れんげさん達に境 治さんが理解を示していたが、ワーママの置かれている状況は本当に罰ゲームみたいだ。

1日6時間労働の提唱

スウェーデンのフェミニストで男女平等について様々な著作を世に送り出しているNina Björkは2005年、DN紙で子どもを持つ女性のフルタイム労働が理想とされる社会は経済成長ばかりを重視し、子どもの心を軽んじているのではないかとし、子どもを持つ両親の6時間労働や、働き方の違いによって賃金に差が出ないようにすること、また小さい子どもを持つ両親の残業禁止を提言し、スウェーデンだけでなく隣国のノルウェーでも社会的ディスカッションとなった。

グレーな労働環境

4月25日にお茶の水大学ジェンダー研究所で『最も幸せな国のジェンダー平等』という国際シンポジウムが開かれた。発表者の1人でノルウェー科学技術大学准教授、Guro Kristensenは、ジェンダー平等が完全とは言えないまでも進んでいて、世界で一番子育てがしやすい国の一つと言われるノルウェーでも、仕事と育児、家事の両立は容易ではなく、東欧などからの移民をお手伝いさんとして雇い入れる人が増えているとした。

このようなお手伝いさんは、賃金や保証などの面でグレーな労働環境にあり、その権利が十分に守られていないそうだ。しかしお手伝いさんからしてみれば、仕事にありつけ、物価の高い国で得た給与を母国に仕送りができる。

ある種、両者はWin-Winの関係にあると言えるとのこと。同時にGuro Kristensenは、ノルウェーの男女間の平等を実現するために、移民をこのような形で雇い入れるのは、社会民主主義の思想に反するのではないか、と疑問を呈してもいた。

私はそれを聞いて、移民の人達にシンパシーを覚えた。日本でフリーランスとして働く私もグレーな労働環境に置かれている。

出版社と在宅で子育てしながら働きたい私は、Win-Winの関係にあるのだろうか?

移民の人達が外国の言葉で権利を主張するのは、とても大変なことだろう。これから彼達はどうやって権利を勝ち取っていくのだろう?

私が今暮らしているのは生まれ育った母国であって、私は自分の言葉で言いたいことを言える。なのに声を上げられずにいる。

娘と将来の夢について話す

娘と将来の夢について話した。娘はパティシエになって、美味しいスイーツでお客さんを笑顔にしたいのだと言う。

「ママの夢は何だった?」と聞かれ、「翻訳家になること」と答える。

「夢は叶ったの?」「叶ったとも言えるけど、叶っていないとも言えるかな。お金をちゃんと稼いで自立したいけど、できないのが悔しいの。

皆にもっと本を読んでもらえるよう何かしたいけど、自分なんか、って思って何もできないのが、情けないんだ」と言う私に娘は笑って言った。

「私もあんまり本は読まないけど、パティシエになる夢を追いかける子が出てくる本は好きだよ。私も夢に向かって頑張るから、ママも頑張りな」

上から目線な物言いが気になったが、聞いていて、こみ上げるものがあった。娘はお客さんを笑顔にしたいと言う。

私は建前や決まりだらけの高校に通っていた頃、未来に希望が見いだせず、何のために生きているのか分からなくなった時、デンマークのフェミニストのジャーナリストが書いたYA『マリアからの手紙』(グレーテリース・ホルム作、伊佐山真実訳、徳間書店)に救われた。

私もそんな本を訳して同じような閉塞感に苦しむ子の心に希望の光を灯せたらと思った。私の心は一体どうしてこんなに淀んでしまったのだろう?

働くママを支えるべきなのは、国でなく、民間企業?

勇気を振り絞って近所に事務所のある与党議員に、お年寄りに向けた政策ばかりではなく、働くお母さんの支援策ももっと講じてほしいとお願いしてみた。答えはこんな内容だった。

年配の方はせっかく長生きしたのに、財政負担が増えると若者に思われる社会はあまりにも寂しい。働くお母さんのために保育園の整備を進めているが、つくればつくるほど申込者も多くなり、待機児童が増え、いたちごっこだ。

国から市にたくさんの助成がされていて、この保育園整備も働くお母さん支援にはなっている。シルバー民主主義とおっしゃるが、それを変えるのは少しずつ。もしくは民主主義である限り、難しいのかもしれない。

票に左右されない民間企業のブレークスルーが必要で、自分自身も一事業者として動いているところだ。またどんどん意見をください。

この国では困っている人がいても、多数でなければ大して票につながらないから、支援の責任は国が負わず、民間企業にその役目をゆだねると言うのか?

主婦の私には何もできないの?

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(市民の政治参加、民主主義、労働者の権利、男女平等について知れる本)

『労働法はぼくらの味方!!』(笹山尚人著、岩波書店)

『高校生のための憲法入門』(斎藤一久編著、三省堂)

『ノルウェーを変えた髭のノラ―男女平等社会はこうしてできた―』(三井マリ子著、明石書店)

『10歳からの民主主義レッスン』(サッサ・ブーレグレーン 絵と文、二文字理明訳、明石書店)

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