どうしてこんなに傷つきやすくて生きづらいの? HSP(とても敏感な人)であることはただの弱点?

HSPが周囲の人たちと、また敏感な自分とうまく付き合うにはどうしたらいいか

HSP(とても敏感な人)チェックリスト

前回の記事で、HSP(とても敏感な人)のチェックリストを紹介した。

著者もHSP

『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』の訳者で、この記事の執筆者である私もチェックリストを試してみたところ、HSPである可能性があることが分かった。皆さんはどうだったろう?

この本の著者で心理療法士のイルセ・サンも、本書の中で自身もHSPであることを告白している。

自費出版から世界へ! バイタリティ溢れるアイデアマン

イルセ・サンは、この本を2010年にデンマークで自費出版した。

自費出版という選択をしたことについて作者は、出版社を探すのに時間がかかること、また出版社を通さないことで売り上げの大部分を自分の取り分にできること、プロセスの大半を自分で掌握できることを理由に挙げている。実際、印刷所と交渉したりとかなり大変だったが同時に大きな達成感を覚えた。

とはいえ、初めは自費出版ゆえかメディアでほとんど取り上げられず、がっかりと肩を落とした。しかしじわじわと口コミが広がり、メディアで少しずつ取り上げられるようになった。

そしてコペンハーゲンで開かれたHSPについての会議で出会ったスウェーデン人のつてで2012年、スウェーデン語版の出版を実現。

さらに快進撃は続く。デンマークで開かれた彼女の講演会を聴きに来ていた女性が(イギリス在住)、こういう本はイギリスにないので出版してはどうかと連絡してきた。女性はイルセ・サンの許可を得て、本書を英語に翻訳。出版を実現させた。

イルセ・サンは大使館や翻訳会社から世界の出版社の情報を得ると、本の英版のデータと概要(英語)をメールで送った。

初めはどの国も反応が薄かったが、ノンフィクションで有名なドイツの出版社からドイツ語版が出版されたことで注目が高まり、フランス語、ポルトガル語、韓国語、ロシア語など総計18ヶ国語への翻訳出版を成し遂げた。

さらに近く中国、ギリシャ、スペインでの刊行も控えている。(各国版の表紙は作者サイトで全て見られる)

アジアには敏感な人が多いのだろうか。作者いわく、彼女の本は特にアジアで人気。本作は台湾のベストセラーリストで1位に、彼女の他の著書『感情の迷路で新たな道を見つけよう』は韓国のベストセラーリストで1位に輝いた。

(下の写真はそれぞれ台湾、韓国、ポーランド、ロシア、イタリアで翻訳出版された本作の表紙)

著者の活動、人柄から見えてくるHSPの長所

それにしても著者のバイタリティには感服させられる。

作者のサイトには、プロモーションに自由に使えるよう著者近影が自由にダウンロードできるようになっていたり、ラジオやテレビに出演した時の情報などが事細かにまとめられていたりと各国の出版社も翻訳者もマスコミも彼女の情報を容易に入手できるようになっている。

訳者である私が連絡した際も、本の紹介にサイトにある情報を自由に使って頂戴、と言ってくださった。

FacebookではHSPの情報をまとめた英語のコミュニティページを開設。また希望者に無料でニュースレターを定期的に送信しているよう。

作品の中でHSPの強みが挙げられているが、著者自身も想像力が豊かで、独創的に物事を思い浮かべる能力に長け、外界から得た情報を吸収し、それを元にさまざまな思考や空想を広げ、新たな可能性を見出し、物事を深く考える能力にも長けているように思える。

作者はHPで、自分と同じように海外で本を出版したい著者に向け、海外の出版社とどう連絡をとったらいいのかについてガイドを公開しているところからも、気配り上手で誠実なHSPの長所が垣間見られる。

HSPが抱えやすい心の問題

本書ではHSPの長所とともに、HSPが抱えやすい心の問題がデンマークのHSPの体験談を交え、紹介されている。

1.自分自身に高度な要求をしてしまう

例: 「私のことを批判する人がいると、その人のことがしばらく頭から離れなくなります。その批判が的外れだと感じても、批判される理由があるのではないか、と自分に問いかけ、それに耳をふさごうとしているのは自分だけじゃないかと自問します」 ヤンネ(31歳)

2.罪悪感と羞恥心に苛まれてしまう

3.恐怖心を感じ、憂鬱になりやすい

4.怒りをあまり放出できない

例:「意見がわかれてしまい喧嘩になったとき、たいてい自分のほうが引くので、私は自分のことをずっと弱い人間だと思ってきました」 ヘレ(57歳)

「自分にこの世で生きる権利があるのか疑ってしまっています。自分のことを『間違った人間』だと感じているのです。人の輪のなかに入れてもらえるだけでも感謝しなくてはならないような人間だ、と。他人に迷惑をかけてはならないとも感じています。私は、怒りを表さなくてはならないとき、恐怖心を過剰に感じます。それは怒りを感じることができないからでもなければ、どのように大声で怒鳴ればいいかわからないからでもありません」 イェンス(45歳)

日本でも評判

この本は日本でも評判になっている。amazonでもたくさんの好意的なレビューが寄せられ、日本での発売から9ヵ月経つのにその勢いは止まりそうにない。またHPやブログ、twitterなどで多数の方々が本の感想をアップしてくださっている。自立に向かって苦闘している翻訳者の私から、この場を借りて感謝の言葉を送りたい。

「たくさんのカウンセリング被験者の感想が本書には出てきますが、1番共感したものを紹介します。

"私はHSPについての本を読み、ほかの人が出来ることや、ほかの人から期待されることに、自分がときどきノーといわなくてはならない理由を理解することが出来ました。それからというもの、断る時に言い訳をいくつも探すのをやめました、『私は刺激を受けすぎたから休息が必要なの』と包み隠さずに言うようになったのです"

断る時に「相手に嫌われないかな?」、「イヤな気分にさせないかな?」そう考えて、どう言い訳をするかで神経を使って来ましたよね? まわりに自分がHSPであることをあかして、理解を求めてみませんか? HSPに理解のあるパートナーと過ごしたいと思いませんか? きっと、理解ある人があなたを幸せにします」

HSPが周囲の人たちと、また敏感な自分とうまく付き合うにはどうしたらいいか

本書では、HSPが周囲の人たちと、また敏感な自分自身とうまく付き合うにはどうしたらいいか、様々なヒントがHSPの人達の体験談を交え示されている。体験談の一部を以下に紹介する。

「仕事で話し合いをするとき、私は自分が何を言いたいのか、どんな決断を下したいのか、わからなくなることが頻繁にあります。できることなら一晩寝て、考えたいのです。決断をなかなか下せないことで、仕事のペースが落ちてしまうことを、はじめは気に病んでいました。でも今は同僚も私自身も慣れてきて、そういうやり方なのだと考えるようになりました。会議の翌日に、再び話し合いの機会を設け、熟慮を重ねて緻密に系統立てられた私の考えを伝えると、同僚たちは大いに尊重してくれるようになったのです」 イェンス(55歳)

「ほかの人の責任を背負いこむのをやめるようになってから、この世界で生きる意欲が湧いてきました」 イーゴン(62歳)

AC(アダルト・チルドレン)との違い

HSPはAC(アダルト・チルドレン)の特徴と重なるところがあるように思える。私自身、9年前に長女が生まれてから、自分はどんな風に育てられただろうと振り返る機会が増え、ACに興味を持つようになった。

そのためACについての本はたくさん読んだが、なぜかACよりHSPについて描かれた『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』の方が私にはしっくりきた。イルセさんの誰をも責めない、みずみずしくて思いやり溢れ、同時に凜とした芯の強さを感じさせる言葉に癒やされたのだ。

イルセ・サンに、HSPとACの違いについて聞いてみた。

「アダルト・チルドレン? それは何ですか? デンマークでは、『アルコール中毒者の元に生まれ育った人』(Adult Children of alcholics)というのは知られています。HSPは辛い子ども時代を送った人とは限りません。しかし、機能不全の家庭で育った人には、敏感な資質を備えた人が多い。でも全員ではありません。機能不全の家庭で育った人の中には、適応不全になったり、犯罪を起こしたり、暴力的になる人もいます」

精神科医でHSPやHSCの本も多く出していて、よみもの.comというサイトで『子どもの敏感さに困ったら 児童精神科医が教えるHSCとの関わり方』という連載もしている長沼睦雄医師にも同じ質問をすると以下のような答えが返ってきた。

「HSPの中には、アダルトチルドレン(AC)心性をもつ人が少なくありません。ACとは、親から十分なサポートを受けられずに育ち、自己評価が低く周囲の評価に左右されて極端に不安になり、親に愛されなかった飢餓感や見捨てられ不安を持ち続けている状態の人をいいます。

なぜそうなるのか。HSPでない親が子どもを理解しようとしない、あるいは、親もHSPであったとしても、"面倒だ、こんな子と関わりたくない"、"私みたいにさせたくない"という気持ちが湧いてしまって、どうしたらいいのかわからないまま子育てがうまくいかないというケースも多いのです。

子どもは親から愛情をかけられず、守られて育ってこなかったことが心の傷になり、自信も自己肯定感も育まれず、自己主張もできません。"自分なんか"という認知のゆがみもあります。

その自己否定が強くなると、自分を痛めつけてくる相手になぜか引き寄せられていき、その結果、疲れて潰れてしまうようなことがしばしばあります。育ちの上での親との絆の結び方が、その人の対人関係の鋳型を形成し、その後の人生に大きく影響していくのです」

敏感であることは人格を豊かにしてくれる

イルセ・サンは本の最後に読者にこんな言葉を贈っている。「敏感であることは過ちではありません。それどころか、あなたの人格を豊かにしてくれるのです」

心理療法を疑似体験

日本でもHSPで自らの敏感な気質に悩んでいる人は多くいるだろう。しかしHSP専門の心理療法士は日本には少ないし、心理療法を受けること自体に抵抗がある人も多い。

この本はまるでイルセ・サンの心理療法を実際に受けたように、読んだ後、心が不思議と癒やされる。この本で心理療法を疑似体験してみてはいかがだろう?

注目記事