「店内で子どもを自由にさせないで」店員のツイートに思う

子育て中の私の胸はぎゅっと苦しくなる。

子連れ客の店でのマナーについてtwitterやテレビなどで話題に

最近子連れ客の店でのマナーの悪さについて、SNSやテレビなどで様々な意見が飛び交っている。

子どもが飲食店の障子を破いてしまったのに謝りもせず帰ったり、走り回る子どもを注意しなかったり......それは確かにダメだ。

頭ではそう思うのに、言い聞かせられないなら家にこもってろ、しつけができないなんて親失格、といった類のツイートを目にすると、子育て中の私の胸はぎゅっと苦しくなる。

私も子どもを持つまでは、親がきちんと言い聞かせられれば、子どもは騒がない、自分が親になったら、絶対子どもを騒がせないぞ、と思っていた。でも現実はそんなに甘くなかった。子育てってどうしてこんなに難しいんだろう。

リアル世界の人の大半は子連れに優しい?

HSP(とても敏感な人)は、物事を軽く受け止めるのが苦手で、恐怖や悲しみが心の中で肥大化して憂鬱になりやすい。

今回の話題について私が1人勝手にくよくよして、ツイートしているのに気付いた同じ子育て中の友人が、「でも実際、世の中の人達って、子連れに結構優しいよね」とメッセージをくれた。

子育てや子どもの遊びに強い信念を持つおもちゃ屋店主

友人に倣って私も、現在1歳3ヵ月の息子とこれまで出かけた際、電車の中やお店の人達、道行く人達からどんな優しさをもらったか振り返ってみた。確かに友人の言う通りだ。心がぽかぽかしてくる。

中でも一際鮮烈に残る記憶は、さいたま市にあるToy-Toyという木のおもちゃ屋さんを息子と訪れた時のものだった。

枇谷玲子

子育ての経験を仕事に生かす、孤育てする親の話し相手も

枇谷玲子

店主は現在中学生の娘さんが生まれる前は香料の会社に勤めていた。会社の待遇に不満はなかったが、ある程度社会経験を積んでからできた子どもだったゆえ、子育てに専念したいという思いが自然と芽生えた。

写真のニックスロープは現在中学生の娘さんに初めて買ってあげた木のおもちゃだそうだ。

娘さんはモンテッソーリ教育を取り入れている幼稚園に通っていたのだが、そこで店主は保護者向けの連続セミナーを受け、子どもの自主性を重んじるモンテッソーリ教育について学んだ。また子育てを通し、子どもの知覚を刺激する遊びや発達に興味を持つようになった。

そしてお子さんが小学校3年生になり、子育てが少し落ち着いた2013年、このお店をオープンした。お店は賃貸で、旦那さんの名義でなく、ご自分の名義で契約した。利益を出すことも大切だと考えているそうだが、売ろう売ろうとはしてこない。

子どもだけで何度も来て買わない子もいるそうだが、このお店が子ども達の憩いの場所、遊びの場になればとむしろ嬉しく思っているそうだ。子育てを通して学んだこと、感じたことを伝えたいという思いで接客に当たっている。

「やって来たお客さん1人1人とじっくり話をしてくれるのはなぜですか?」と私が尋ねると、「子育ての悩みを気軽に相談できる相手が身近にいない環境で子育てしているお母さんが多いみたいなので、そういう人の話し相手になりたい」と教えてくださった。

おもちゃを作っている職人さん達の思いや労働環境についても学ぶ

店主はニュルンベルクの国際玩具見本市を観に、ドイツに旅したことがある。

枇谷玲子
枇谷玲子

旅行中、ドイツのオストハイマー社のおもちゃ工房にも訪れ、木の管理、削りだし、研磨、オイル塗布、色付けなどの工程を見学した。

枇谷玲子
枇谷玲子

アメリカ等から入ってきたプラスチック製のおもちゃに淘汰される木のおもちゃ会社が多い中、いまだに手作りにこだわる理由を尋ねると、職人さんはこう答えた。

「手作業でしか、作り出せない形だから」、「子どもにとって、誰かの手によって作り出されることを知ることが大切だから」その言葉を聞いて、店主は胸を熱くさせた。

枇谷玲子
枇谷玲子

オストハイマー社は支援の必要な人にも働く場所を、というシュタイナー教育の理念に基づき、体の不自由な人達や難民の人達も雇入れていたり、実際に工房に来れない人にも、家で仕事ができるように在宅ワークの充実にも取り組んだりしている。

学術面と実践面の知識に基づきよいおもちゃを選定

枇谷玲子

お店のおもちゃの中には、オレンジ色のシールが貼ってあるものも。店主いわく、そのシールは第2次大戦後のドイツで母親達が子ども達に与えたい良いおもちゃがないという疑問を抱いたことをきっかけに発足された子どもの遊び審議会により推奨されたことを意味するマークなのだそう。

この審議会は親、発達心理学者、教育者、建築家、デザイナーなどで成る。審議会は学術面と実践面の知識に基いていて、メンバーには利害が生じる可能性があるおもちゃ業界関係は選任されない。

よいおもちゃの選定基準は、対象年齢とその内容があっているか、想像力を養えるものか、耐久性、安全性が十分かなど。

壊れたらすぐ捨てるのではなく、長く使える質のよい製品を

枇谷玲子

お店にはドイツのおもちゃだけでなく、日本やスイスやイタリア等のおもちゃもあった。この白木のリムジンのおもちゃは、スウェーデンのデブレスカ社のもの。

店主はこの製品の曲線美やなめらかな手触りはもちろん、『壊れたらすぐ捨てる』という文化が支配している中、品質をモットーにおもちゃ作りをすることによって、人と環境に貢献したいというデブレスカ社の理念にも共感した。

ひとつひとつのおもちゃの遊び方を丁寧に教えてくれる

枇谷玲子

写真はおもちゃプラステンの遊び方を説明してくれる店主と、おもちゃで遊びまくる息子。それぞれのおもちゃが子どもの発達にどういう効果を及ぼすのか何歳ぐらいが対象かなども教えてくれた。

息子がサンプルのおもちゃを何度も繰り返し落として遊ぼうとするものでやめなさい、と慌てる私に、店主は子どもは繰り返しの動作を好み、満足するまで止めないものだと話してくれた。

店主はこの他にも、おもちゃや子どもの発達について息子を実際に遊ばせながらたくさん教えてくれた。

生き生き、伸び伸びと遊ぶ息子と寛容な店主の様子に、迷惑をかけてはいけないと緊張していた私の心も次第にほぐれていく。

例:赤ちゃんの追視について店主ブログ

子どものためを思う

お店で扱われているドイツのおもちゃ会社HABAは、子ども達の暮らしをよくするための製品を作り続けていて、高品質であること、安全であること、想像力を伸ばせること、子どもの成長に合わせた製品作り、環境保護など社会的責任を担うことを理念としている。

「子どものために」というのが、このお店のおもちゃや店主の言動から一貫して感じ取れる理念に私には思えた。

子どもの目線で見てみたら

子育てしていて、自分がまるで一人ぼっちみたいに思える時は、思い出そう。

この店の店主のように、子どもや親を支えようとしてくれている人がいることを。他にもこれまでたくさんの人から優しさをもらってきたことを。

辛い、大変だと言っている私もひょっとしたら大人中心に物事を考えてしまっているのかもしれない。子どもの気持ちを考え、時には子どもの目線で考えてみると、世界がまた違って見えるのかもしれない。

汐文社

従業員の労働環境、企業倫理にも思いをめぐらせ商品を選ぶことの大切さが描かれたノルウェーのYA。

晶文社

大金持ちのフェおばさんと3人の子ども達のおしゃべりを通して、お金の歴史をひもとき、現代の世界経済を観察する、お金と人生について考えるための経済学レクチャー。「誰かを助けようとするなら、その人のことを本気になって考えなくちゃ。でないと、その人が何を本当に必要としているか、分からないじゃない。......自分のことをスーパーマンみたいだと思っているだけでしょ。......実際に人助けしようなんて気はない。ファビアンが見ている人はみんな、アリみたいにちっぽけなのよ。みんなが殴り合ったり、お金を奪い合ったりしているのを見て、お腹をよじって大笑いするわけでしょ」という台詞が特に印象的だった。

みすず書房

エコノミックス――マンガで読む経済の歴史』マイケル・グッドウィン作、ダン・E・バー絵、みすず書房

世界の経済を漫画で解説。お金とは企業とは何なんだろう? これまでのように私達は経済成長を追い求め続けるべきなのか? 企業の社会的責任とは? 目先の利益を追うことにばかり気をとられ、お金は本来は人々の助け合いを円滑にするための道具であったこと、人は本来、支え合い、助け合う生きものであることが忘れられがちなお金中心社会を鋭く描いた傑作経済入門書。