2017春闘スタート!「経済の自律的成長」「包摂的な社会の構築」 「ディーセント・ワークの実現」をめざす

2017春季生活闘争が幕を開けた。「賃上げ」「格差是正」の新しい流れを確かなものとしていく、正念場の闘いだ。労使交渉のポイントは何か。須田孝連合総合労働局長に聞いた。

2017春季生活闘争(春闘)が幕を開けた。「賃上げ」「格差是正」の新しい流れを確かなものとしていく、正念場の闘いだ。労使交渉のポイントは何か。須田孝連合総合労働局長に聞いた。

社会・経済構造の変化を見据えて

─とりまく環境をどうみる?

2016年第2四半期のGDP速報値(12月8日・内閣府)によれば、実質GDP成長率は前期比0.3%(年率1.3%)と、1次速報の前期比0.5%(年率2.2%)から下方修正されたが、最終需要は全体としては大きく修正されていない。また、日銀短観(12月14日)における景気の先行きに関する経営者のマインド(業況判断D・I)は、大企業・製造業を中心に改善された。これは為替レートが円安に転換していることの影響とみられるが、日本経済の見通しは、全体として穏やかな回復状況にあると言えるだろう。

しかし世界の経済・社会情勢は非常に不透明だ。イギリスのEU離脱やアメリカ新大統領の政策、韓国大統領の国会での弾劾成立、新興国の経済情勢など、リスク要因が数多くある中で、さまざまな変化に柔軟に対応できるかどうかが問われている。日本へも少なからず影響が及ぶことに深慮しつつ、足腰の強い経済・社会、家計そして企業をつくり上げていくことが求められている。

─そういう中で2017春闘の役割は?

「底上げ・底支え」「格差是正」の実現を通じて「経済の自律的成長」「包摂的な社会の構築」「ディーセント・ワークの実現」をめざす闘いだ。「総合生活改善闘争」として、すべての働く者が直面している課題の解決をはかるだけでなく、日本の中期的な社会・経済構造変化を見据えて、それに対応していく契機としなければならない。同時に、春闘が果たしてきた日本全体の賃金決定メカニズムを通じて、社会に広がりを持った運動を展開していくことが重要だ。

イノベーションを起こすのは労働者

─職場における労使交渉のポイントは?

経営側は「自社の支払い能力論」や「物価上昇がない中で、賃上げを要求するのか」という主張をしてくるだろう。それに対して労働組合は、組合員が企業の存続と成長のために努力することを前提に、付加価値の向上と社会全体の公正取引の実現を通じて「自社の支払い能力向上」の運動も行っているのだということを主張しなければならない。

経営側が、労務費を単純に「コスト」と捉えてその経済合理性のみを主張するならば、組合員の理解は得られない。組合員の総意に基づく「要求」をしっかり受け止め、責任ある「回答」を示さなければ、「信頼関係」を継続することはできない。個別企業の事情はさまざまにあるが、「日本経済の自律的な成長をはかる」というマクロの要請に応える、労使の社会的責任を果たしてほしい。

そして、人口減少・少子高齢社会、情報技術の飛躍的進化など、押し寄せる大きな変革の波の中で、自分たちが働く産業、企業が、自らの仕事が、今後どうなっていくのかを、今こそ考えなければならない。企業は「イノベーション」に挑戦し続ける以外に、その価値を保ち存続し続ける方法はない。

そして、その「イノベーション」を起こすのは労働者、それも社会が求めるニーズに対する感度を持ち、それを可能にする手段を熟知し、それらを結びつける能力を持った「人財」のみである。労働者の側も「イノベーション」の波の中にあって、生計の途である「仕事」を確保し続けるために、自らの能力とスキルを向上させ続ける努力を迫られる。つまり「イノベーション」は労使双方に挑戦をもたらすものだと言える。

ただし、労働者のスキルアップや能力向上が、すべて労働者の自己責任に帰せられることがあってはならない。労働組合は企業に対して「人への投資」を求めると同時に、投資して育て上げた「人財」をきちんと処遇することを要求する必要がある。ましてや、「人財」を使い捨てにするかのような働かせ方があってはならない。

人口減少・労働力不足の時代にあって、新たなイノベーションを活用しながら生産性を高める(過重労働ではない)投資を進めるという、日本全体の成長に向けたチャンスと捉えていくことが重要であることを労使で共有化すべきである。

付加価値の適正分配を

─格差是正、底上げに向けては?

「春闘」とは、時々の経済情勢を踏まえて労働条件の改善を求め、労使の知恵と工夫、信頼関係で構築してきた運動だ。当然にして、とりまく環境が異なれば取り組み方法も変えていかなければならない。しかしながら、経済成長も物価上昇も右肩上がりであった昭和の時代の取り組み方に、いまだとらわれすぎているのではないか。

「春闘」の歴史を振り返ってみると、確かにインフレ下における賃金水準の改善に取り組んだ時期が長かった。平均方式で過年度物価上昇分を確保した上で、世間と同率の賃金改善を行ってきた。ただ、それは総額人件費の伸びとして世間並みであっただけで、個別の賃金水準の改善には必ずしもつながっていない。大手と中小の賃金格差の拡大がそのことを示している。

賃上げの「率」よりも、現在の「賃金水準」が、仕事の内容に見合ったものか、世間相場と比べて遜色のない水準なのかにこだわってほしい。物価動向が落ち着いている今こそ、個別の賃金水準にこだわる取り組み、つまり「実質賃金の維持・向上」を積極的に展開すべきである。

また、労働力不足が深刻化する中で「魅力ある産業・企業」を構築するとともに、働く者一人ひとりの能力発揮を通じて、市場に認められる価値を創造しなければならない。そして生み出した付加価値が、生み出した人に適正に分配される社会を築き上げなければならない。そういう問題意識から、2017春闘でも公正取引実現への取り組みを強く呼びかけている。

取引に関する法律を守るという基本に加え、取引慣行が長時間労働を招く一因となっていることも、社会的に共有しなければならない。

連合は、こうした問題意識を社会全体で共有するため、今季も「格差是正フォーラム」(昨年11月28日)を開催した。また、産業労使の政策課題として取り組みを展開している構成組織もある。地方連合会には「地域の活性化には地域の中小企業の活性化が不可欠」をテーマにさまざまな地域のステークホルダーとの対話集会の開催をお願いしている。連合総体として、これまでの慣行を含めた見直しを進め、「底上げ・底支え」「格差是正」を通じたクラシノソコアゲを実現していきたい。

須田孝

連合総合労働局長

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2017年1・2月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。

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