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「働き方改革」は「生き方改革」 インターバル規制導入で長時間労働是正を ~常見陽平氏を交えた記者勉強会レポート~

2016年12月07日 16時07分 JST | 更新 2016年12月07日 17時37分 JST

多くの職場で長時間労働が常態化し、企業のみならず日本の社会構造自体が、長時間労働を前提としたものになっていると言っても過言ではない。最近では大手広告会社の20代女性社員が過労自殺した事件を契機に、ソーシャルメディアでは激しい議論が巻き起こり、多くの人々が長時間労働問題を自分事として捉え、切実な関心を持っていることが浮き彫りにされた。

連合は、11月16日、連合本部で「長時間労働是正」の記者勉強会を開催。登壇したのは千葉商科大学国際教養学部専任講師で「働き方」評論家の常見陽平氏、情報産業労働組合連合会(以下、情報労連)書記長の柴田謙司氏、連合総合労働局長の村上陽子の3名。

日本における長時間労働の実態や、その解決法のひとつとされる「インターバル規制」について、また政府が推進する「働き方革命」への見解などが語られ、参加した記者からも質問が飛び交うなど、「長時間労働の現状」を学ぶ場となった。

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「とにかく休ませて、休みたい」という切実な声

「いわゆる『働き盛り』と呼ばれる人たちが遅くまで就業し、なかなか帰れない」と村上総合労働局長が指摘するのは、長時間労働の実態だ。

厚生労働省が発表した「平成28年度版過労死等防止対策白書」によれば、月末1週間の就業時間が60時間以上の雇用者の割合を性・年齢層別にみると、女性は約3%なのに対し、男性は約12%強。中でも30代と40代男性においては約16%と、他の性別年代と比較すると働き盛り世代の男性が、とりわけ長時間労働にさらされていることがわかる。

また、当然のことながら、残業時間が長くなるほど睡眠時間は短くなり、心身に及ぼす影響が懸念される。岩崎健二『長時間労働と健康問題』によると、勤務日の睡眠が6時間未満かつ週労働時間が61時間以上の人は、勤務日の睡眠が6時間以上かつ週あたりの労働が60時間以下の人に比べて、心筋梗塞リスクが4.8倍にも膨れあがるという。

この点、平成27年度厚生労働省委託事業「過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究事業」によれば、1週間の平均残業時間が20時間以上に及ぶ正社員のうち、約47%の人が3時間以上6時間未満の睡眠時間に留まっていた。

柴田情報労連書記長は「『労働者の健康確保』は『安全なくして労働なし』を運動の原則とする労働組合にとって、最優先かつ喫緊の課題。長時間労働そのものが安全衛生上のリスクであり、それを防止することが我々の役割だと考える」と話す。

また、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の「労働時間管理と効率的な働き方に関する調査(2015)」によれば、「18時頃に退社できるようになったらしたいこと」への回答で、最も多い支持(64%)を集めた項目は「心身の休養・リフレッシュ」であった。

「余暇を趣味や自己啓発、家族との時間などに充て、『ワーク・ライフ・バランスを実現する』というのが理想ではあるが、現実には『とにかく休みたい』というのが切実な声だと言えるだろう」と村上総合労働局長は語る。

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長時間労働問題に対する連合の取り組み

連合はかねてより、職場の取り組みと法改正の取り組みの双方を行ってきた。職場への取り組みは、2002年に「労働時間管理徹底の取り組み指針」を、2007年には「年間総実労働時間1800時間の実現に向けた時短方針」を発表。

2015年には「時短レシピ〜労働時間短縮に向けた取り組み実例集〜」を発表し、具体的な取り組みを行っている労働組合の好事例を紹介。職場環境に応じた労働時間管理の実現可能な方策を広く提案している。

また、法改正の取り組みについては、2008年労働基準法改正の際、ホワイトカラー・エグゼンプションや企画業務型裁量労働制の見直しに反対し、組織内外でさまざまな運動に取り組んだ結果、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入は見送られた。

このように、連合が以前から求めているのは

(1)休息時間および最長労働時間の設定

(2)実労働時間の把握の2点だと村上総合労働局長は強調する。

「どのような労働時間制度の適用であっても、実労働時間を把握し、休息時間と最長労働時間を設定することが、労働者の健康確保には不可欠なのです」

 

「インターバル規制」の推進とともに必要なのは意識改革

長時間労働是正に向けた具体的な実行策として、連合が提案するのが「インターバル規制」だ。インターバル規制とは、仕事を終えてから次の勤務開始まで、一定時間の休息付与を義務づける規則のこと。十分な睡眠と生活のための時間を考慮して、「休息時間(勤務間インターバル)」は24時間につき原則として11時間保障すべきだと連合は主張する。

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EU諸国ではEU労働時間指令によって、この「勤務間インターバル」を義務化。労働者の健康と安全保護の観点から、24時間につき連続11時間、7日につき最低連続24時間の休息時間を設けることが義務づけられ、1日の労働は13時間まで、1週間の総労働時間は48時間までと、規定されている。

 

長時間労働を可能にしてしまう、現在の日本の労働時間法制

日本では労働基準法第32条において、「1週間につき40時間、1日につき8時間を超えて労働させてはならない」と規定されているものの、いわゆる「36協定」の労使合意に基づく届け出によって、それ以上労働させることが可能となり、さらには36協定の特別条項を用いて上限さえも解除して働かせられる仕組みにもなっている。

「現実問題として、労働時間は青天井となり、長時間労働が常態化していると言わざるをえないのではないか」と柴田情報労連書記長は指摘する。

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情報労連では、2009年春闘から「インターバル規制」導入に向けた労使間論議を促進する方針を掲げ、通建連合加盟組合(通信建設業)を中心に13交渉単位で労使協定を締結。2010年春闘ではすべての加盟組合に対象を広げ、協定化を促進し、新たに2交渉単位で協定を締結した。しかし2011年以降、労使間の見解の違いによって、こう着状態となった経緯がある。

さらなる協定締結につなげるべく、情報労連は2012年11月に「勤務間インターバル規制」のガイドラインを策定し、2015年1月にも改定。「インターバル規制」を要求する動きは通信建設業以外にも情報サービス業、生活協同組合など他の企業別組合にも広がりを見せている。

先行導入事例としては、KDDI労使の取り組みが多くの企業にとっても参考になるだろう。そもそも国際電信電話(旧KDD)時代より、交替(24時間)勤務の社員は、勤務終了から次の勤務開始まで7時間開けることが制度化されていた。

2009年の春闘で情報労連の取り組みと連動し、インターバル規制の導入について方針化。2012年10月に裁量労働制の導入と合わせ、裁量労働者に8時間の勤務間インターバルを制度化した。2015年7月からは組合員(非管理職)の就業規則として、8時間の勤務間インターバルを義務づけ、管理職含む全社員を対象とした安全衛生規定に、健康管理上の指標として11時間の勤務間インターバルを設定している。

導入に際してはシミュレーションを実施し、導入に大きな障壁はないことが確認された。

「通信インフラという事業の特性上、『絶対に止められない』という責任感から、制度化しただけではなかなか『休息時間を確保する』という意識に向かわなかった。会社、組合員双方が働き方について意識改革し、企業における社会的意義、休息確保を尊重する職場環境の醸成など、包括的に取り組んでいくことが重要」と柴田情報労連書記長は語った。

 

「働き方改革」は「生き方改革」

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記者勉強会後半では常見氏を交え、ディスカッションが行われた。

常見氏は「僕自身、会社員時代に過労で倒れたり、抑うつ状態になったりしたことがある。長時間労働については言いたいことがたくさんある」と語気を強める。

はじめに常見氏から投げかけられた論点は、政府が掲げる「働き方改革」について。「働き方改革」では、非正規雇用の処遇改善(同一労働同一賃金)、女性・若者が活躍しやすい環境、テレワークや副業・兼業など柔軟な働き方、そして今回のテーマである長時間労働の是正など、全9項目が掲げられている。

「神津連合会長をはじめ、榊原経団連会長など各企業団体の有識者も会議に加わっているが、話がかみ合わないまま、結局自民党の思いが達成してしまうことを懸念している」と常見氏。柴田情報労連書記長は「『働き方改革』の実現を管理職にばかり要請し、生産性を高めるだけにこだわるのでは、犠牲者は止まらないのでは。根本的なところから変える議論を深めるべき」と指摘する。村上総合労働局長も「誰のため、何のための『働き方改革』なのか注視しなくてはならない。働く人の代表として、その生の声を代弁しなければ」と続けた。

また、続く記者からの質問では、「裁量労働制と実労働時間把握の両立の難点」「裁量労働制の実質的なホワイトカラー・エグゼンプション化」など、柔軟な働き方の推進による懸念点が挙がった。それに対し村上総合労働局長は「仕事の進め方のみではなく、仕事量・業務量も含めた裁量労働制でなければ意味を成さない。

また同時に、どのような雇用形態であっても実労働時間の把握は労災認定の観点からも必要」と回答し、常見氏も「柔軟な働き方と、それをマネジメントすることは矛盾しない」と賛同。柴田情報労連書記長は「柔軟な働き方の実現は大切だが、あくまで長時間労働問題を放置して進めるべきものではない。単に『時間外手当を下げたい』という経営者側の思惑が先行してしまう」と指摘した。

ディスカッションの中では、大手広告会社社員が過労自殺した事件にも言及された。

独自取材により、広告会社に勤める社員から話を聞いたという常見氏は、「会社自体も長時間労働の是正に動く中、クライアントから営業に対して『これで貴社の強みは失われたね』という声が寄せられたとか。彼女は長時間労働を余儀なくされる職場にいたが、それを強いていたのは会社だけでなく、クライアントや制作会社、あるいは上司や周囲の人間関係などいくつもの複合的な要因があった。彼女を殺したのは他でもない、日本の社会なのではないか」と憤った。

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最後に常見氏は「ノマドワーカーやフリーランサーなど既存の雇用形態には当てはまらないような労働者が増え、高齢者やLGBTなど労働者の属性も多様化する中、『働き方改革』というよりむしろ『生き方改革』と呼べるのではないか。

長時間労働が是正されれば、仕事一辺倒の生き方しかしてこなかった日本人は、仕事以外のこととも向き合うこととなる。

『働くとは』を継続して議論し、さまざまな立場の声を報道に乗せることで、国民のため、社会のためであるべき『働き方改革』を本来の姿たらしめてほしい」と記者たちへの言葉を寄せた。