アイドルからセクシュアリティを考えてみる~アイドル×LGBT~[前編]

"アイドルオタク"とセクシュアリティの関連とは

9月17日(日)に名古屋で開催するアイドル×LGBT=? in Nagoya

今年の5月4日(木・祝)に、Tokyo Rainbow Prideのレインボーウィークの一環として東京で行った「アイドル×LGBT=?」イベントの名古屋出張版として、今回は9月16日(土)〜24日(日)の「NAGOYAレインボーウィーク」の一環として開催します。

イベントの開催経緯や詳細については、こちらをご覧ください。

9月17日(日)に控えるイベントに向けて、今回の共同主催者である私りぃな(Twitter @rii83na)とレロ(Twitter @rero70)さんで、「アイドル×LGBT」について語り合いました。 レロさんのインタビュー記事はこちらをご覧ください

この対談記事をきっかけにイベント内での参加者同士の意見交換がより活発になってくれたら嬉しいです。

  • なぜ『アイドル×LGBT』という観点に興味を持ったのか

りぃな

「そもそも、どうしてレロさんは『アイドル×LGBT』という見方を始めたんですか?

私はここ数年『LGBT当事者』の一人として、LGBTに関するイベントに参加することが何度もありましたが、そういった場でアイドルの話が出ることはあまりなかったというか、アイドルとLGBTの話は別々のもの、という認識が自分の中に当たり前にありました。」

レロ

「私にとっては、アイドルとLGBTの2つについて考えることはすごく自然なことでした。でも誰もやっている人がいなかった。だからみんなで考えたいと思い、アイドルとセクシュアリティ研究会(仮)(Twitter @idol_sexuality )を立ち上げました。」

りぃな

「確かに。私も5月にレロさんが開催された第1回の『アイドル×LGBT=?』に参加するまで、この2つについて考えたことはありませんでした。」

レロ

「私は、自分のことを外から分類するとLGBT当事者に入ると思います。ただ同時に、自分自身はアイドルオタクをずっとやってきています。だから、私はLGBTとアイドルオタクの両方の当事者であると思っています。」

りぃな

レロさん

レロ

「アイドルオタクのコミュニティにいるうちに、広い意味で言ったらLGBT当事者に入るだろうなという人っていっぱいいたし、もっといっぱいいるんだろうなって思うようになりました。そしてその人たちを見ていて、『アイドルオタクをしているからこそ、LGBT当事者としても自己実現できている部分があるのではないか』と思い始めたんです。」

りぃな

アイドルオタクのコミュニティが、LGBT当事者としての自己実現に関わっているということでしょうか?」

レロ

「LGBT当事者の中でも、恋愛が上手く出来ないとか既存のLGBTコミュニティに出て行けない・出て行きたくない人たちが、多くいます。それはひとつには、今のLGBTコミュニティの特に出会いの場には、既存のいわゆるパリピっぽい文化が根強く残っているからなのかなと思います。例えば、夜の飲み屋とか、クラブイベントとか。

もちろんここ数年で、明るい昼間の時間帯のオフ会とかも増えてきてはいるけれど、まだまだLGBTコミュニティの出会いの中心は、夜なのかなと。」

りぃな

「そうですね、未成年者で飲酒・喫煙が出来ない私にとっては、参加できるLGBTコミュニティがかなり制限されていて、正直とても不便ですね。

そういった自分の経験を活かして、休日の昼間の時間帯に『名古屋あおぞら部』(Twitter @ nagoya_aozora)を1年前に始めましたが、当初想定していた高校生・大学生以外にも、社会人も多く参加されていることに驚きました。

LGBT当事者と自認しながらも、お酒やタバコが苦手だったり夜の空気が苦手だったりして、既存のLGBTコミュニティに出て行けない/出て行きたくない人が多くいると実感しています。」

りぃな

名古屋あおぞら部の様子

レロ

「例えば私は女性アイドルが好きでよく現場(アイドルのライブ会場や握手会会場、ファン同士の交流の場など)に行っていたのですが、今お話しているような既存のLGBTコミュニティの場へ出て行けない/出て行きたくない人たちが、アイドルの現場に出て行くことで、女性ファンが女性アイドルに対して『好きだ』って言うことのある意味延長線上に近い感覚で、女性ファンに対しても自然と『好きだ』と言えている例を見てきました。

アイドルオタクのコミュニティの中で、女性のアイドルオタク同士の恋愛ができている場合があるんです。

普段の生活では言えない、セクシュアルマイノリティとしての何かをアイドルオタクの場を通じて発散できているんじゃないかな?と思いました。」

  • "アイドル"には異性愛しか存在しないのか

レロ

「アイドルの話をすると、みんな異性愛の文脈で話すし、フェミニズムの観点からは男性消費者が女性アイドルの性的搾取をしているなどの見方がしばしばなされます。もしくは、ただ単にアイドルの良さを語り合う穏やかな空気のファン批評。アイドル批評ってほとんどその2つしかないです。どちらも、特に前者は大事な批判ではあります。けれど、なんでみんなそんなに異性愛の文脈だけで語るのかな?と。」

りぃな

「確かに、アイドルには、異性愛が前提でしか成り立たないものというイメージがあります。」

レロ

「確かにアイドル文化の根底には既存のジェンダーやセクシュアリティに関する規範が根強く残っていることは事実だけど、それとはまた別の位相で、実際にこれだけ多様な人がいる場(例えば、自分で自分のセクシュアリティを決められない/決めない人がいる)・生き延びられる場としてアイドルオタクのコミュニティが存在しているのに、誰もこの点について語ってきていないな、と。

アイドルオタクのコミュニティの中にも、いわゆるLGBT当事者が一定数いるという現状について語るべきなのではと思い、この『アイドル×LGBT=?』というイベントを始めました。」

りぃな

「私は男性アイドルのオタクのコミュニティにいる方が長かったので、未だに異性愛前提というか『かっこいい○○くんと私も付き合いたい!』という空気を強く感じます。

ただその反面、私がアイドルオタクを始めたタイミングは嵐がメジャーになり始めた頃。これまでの『かっこいい・俺が一番』という価値観よりも、『仲良し・メンバー愛』といった関係性で男性アイドルが高く評価されるようになりました。その流れの火付け役は、『わちゃわちゃ』という独特の仲の良さを表現する言葉を生んだ嵐だったように思いますし、その後、今に至るまで『仲の良さ』が男性アイドルにおける大きな評価ポイントになっているように思います。」

レロ

「そうですね。それ以前からメンバー同士の仲の良さを好きになるアイドルオタクも一部いたと思います。

けれど、嵐のブレイクをきっかけに、メンバーの仲の良さを高く評価することがメジャーになってきて、関係性の消費がより一般的になったのかもしれないですね。」

りぃな

「こういった関係性を重視する流れは、今の男性アイドルのBL売り(アイドルグループのメンバーが男性同士で付き合っているかのような言動をする)、女性アイドルの百合営業(アイドルグループのメンバーが女性同士で付き合っているかのような言動をする)に繋がっている気がします。

もちろん、こういった売り方も元々あったけれど、嵐のブレイク以降でより一般的な売り出し方法になったように感じます。」

レロ

「なるほど、そういう見方もありますね。」

りぃな

「関係性を重視するアイドルが売れるようになる中で、『メンバーの○○くんがかっこいい』という応援の仕方のファンも確かにいたけれど、それ以上に、いわゆる箱推し(メンバーではなくグループ全体を応援する)やカップル推し(グループ内のメンバー二人のペアを応援する)という応援の仕方が増えていったような感覚があります。そしてそれが、当時の『仲がいい』という関係性を重視する売り方の中でどんどん主流化していっていた気がします。

もちろん、この場合のカップル推しをする人の中には、『純粋にアイドルのコンビとしてこの2人が好き』という人もいれば、『メンバー2人が付き合っていたら良いのに』『付き合っているだろう』といういわゆるBL的な見方をする人もいました。いわゆる腐女子と呼ばれるような人たちですね。その両方のオタクが混在するコミュニティで、同性愛を容認していく空気がありました。」

レロ

「確かにメンバー単体ではなくて、グループ全体だったりグループ内の関係性だったりを応援する人が増えたような気がします。」

  • "アイドルオタク"とセクシュアリティの関連とは

レロ

「りぃなさんはアイドルオタクを始めた頃、自分のセクシュアリティについてどう思っていましたか?」

りぃな

「私は、アイドルオタクを始めた頃セクシュアリティとか特に考えたこともなくて、自分も周りと同じように異性愛者だと思っていました。

アイドルオタクをしながらいつも『なんで私は「○○くんが好き」っていうふうに一人のメンバーを決められないんだろう?』と思っていましたが、メンバー単体ではなく箱推しだったりカップル推しだったり、その他の応援の仕方が許されていたので、アイドルオタクを続けることができたんじゃないかな?と思っています。」

レロ

「じゃあ、アイドルオタクを始めてから、自分のセクシュアリティに気づいたんですか?」

りぃな

「そうですね。

現実とアイドルとは違う世界かもしれないけれど、アイドルのBL営業やそれを応援するオタクやそのコミュニティを見ていて、同性愛に対する目がどんどん柔らかくなっていく、どんどん寛容になっていく、変化していく過程を体感してきました。

私はレロさんとは反対で、アイドルオタクになったことが先で、そのコミュニティを通じて『同性愛に対して厳しい目を持たない人もいる』と知りました。その経験から自分のセクシュアリティ(同性愛者かもしれない)に気づき、徐々にLGBT当事者のコミュニティに近づいていったような感覚ですね。」

レロ

「それはすごく面白いですね。 アイドルの姿やそのオタクの姿から、自分のセクシュアリティに気づいた、というのは。」

りぃな

「当時の私の周りの環境は、同性愛とかLGBTとか全く教科書に載っていないし、テレビでも『ソッチ系』とか『オネエ』とかいう言葉でうやむやにして一概に笑うという環境でした。

けれど、男性アイドルやそのオタクコミュニティのBLを容認する空気を通じて、私は初めて同性愛という概念を知ることが出来ました。」

  • 作品の中の同性愛の存在とは

レロ

「小説や漫画の中で扱われる同性愛って、以前は『禁断の愛』という文脈が強かったのが、どんどん薄まってきている気がします。同性愛がそこまで禁断という扱いではなくなってきています。以前は、『禁断の愛だからこそ美しい』という点で同性愛を扱う作品が評価されることが多くて、それは異性愛主義の規範を再生産したり強化することにもつながっていました。けれど最近は、その側面が弱まってきて、禁断の愛という点を押し出す作品が主流ではなくなってきたように感じます。」

りぃな

「同性愛を扱う作品の中で、『同性同士で付き合っているのがバレてしまいました。だから死ぬしかない』ではなくて、『同性同士で付き合っているのがバレてしまったけれど、周りが受け入れてくれているからこのまま生きていこう!』みたいなストーリーが格段に増えた気がします。売れ筋になっている作品にもそういった傾向を感じます。」

レロ

「創作とノンフィクションは違うし、それを区別することは必要だと思いますが、互いに影響を与え合っているのも事実。社会の変化と創作物の変化の相互影響を感じます。」

りぃな
  • もっと生きやすい"アイドル×LGBT"とは

りぃな

「ライブの挨拶の時に『女の人ー!男の人ー!それ以外の人ー!』って声かけを毎回するアーティストもいるけれど、アイドル業界にもその文化が広がるととても良いと思います。男性アイドルの現場に男性が行きづらい、女性アイドルの現場に女性が行きづらい、という状況はまだまだあるし。男でも女でもない人とか、どちらでもある人とか、多様なアイドルオタクを受け入れる空気がアイドル側にももっとあると、より良いのかな?と。」

レロ

「関ジャニ のライブでは、最初のMCで『子どもeighter!』『男のeighter!』『女のeighter!』と3回に分けてeighter(関ジャニ のファンの総称)の声出しがあります。『男のeighter』がどんどん増えていることを嬉しく感じますし、ジャニーズの中では先駆的な声かけだと思います。ただ、それと同時に『これは無性や中性のeighterさんはどこで声を出したらいいのだろう...』とも思ったりします。」

りぃな

「あと、男性アイドルの中で、学校の教室でよく聞くような『ホモキモい』って言って笑いをとるやり方は、今でも根強く残っていますね。これは10代の若いメンバーからも出るので、アイドルがというよりも、そういった発言をまだまだ容認している学校現場からの影響が強いのかな?と感じます。」

りぃな

「この夏行われたとある10代の男性アイドルグループのライブでも、ライブのMC中にメンバー内で特に仲良しの2人組を名指しして、『ホモはキモいから俺には近づかないでね!』というような内容のことを言って笑ったメンバーがいたと聞きました。

アイドルオタクのコミュニティの中で、そのMCに対して『面白いMCだった』という感想を言う人たちももちろんいたけれど、それ以上に『そういった発言は差別的だからやめた方がいいと思う』と、発言したメンバーに真剣に怒っている人も多くいました。『昔は許されたかもしれないし、君たちの先輩たちはそういう笑いの取り方をしても許された時代だったかもしれないけれど、今の時代は違う』とはっきり言う人もいました。」

レロ

「そんなことがこの夏にもあったんですね。」

りぃな

「私はその話を知って、時代が変わってきたと感じました。 アイドルの発言に怒っていた人たちに当事者性があったというよりも、ここ数年LGBTに関する報道が増えてきたことによってアイドルオタクの中の認識も変わってきているのかな?と思ったからです。」

レロ

「アイドルオタクの文化と社会的な動きが連動している感じがしますね。」

りぃな

「いま私が注目しているアイドルグループの中には、『ホモキモい』と発言した人に対して『何でそんなこと言うの?愛に性別は関係ないでしょ?』と発言した10代のアイドルもいます。

アイドルもどんどん新しい世代になってきているし、LGBTについて学校やメディアで学んだ世代がアイドルにもそのオタクにも増えていく中で、良い循環が起きているのではないかと感じます。」

この対談記事は後編へ続きます

りぃな

[日時]2017年9月17日(日) 13:30〜16:30(開場 13:00)

[場所]矢田コミュニティセンター 2階大会議室(ナゴヤドーム前矢田駅から徒歩5分)

[主催]アイドルとセクシュアリティ研究会(仮)Twitter @idol_sexuality

[ゲスト]LGBTアイドルグループ「NSM=」 (NAGOYA SEXUAL MINORITY EQUAL)より、樹梨杏さん(リーダー)・いづみさん (メンバーは現時点での予定です。追加や変更がある場合があります)

[参加費]500円(当日会場受付にて現金支払)

[参加方法]イベント前日までにこちらのサイトで参加登録をお願いいたします http://twvt.me/idollgbtnagoya