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民主主義に「お任せ」はあり得ない

2015年05月14日 16時36分 JST | 更新 2016年05月13日 18時12分 JST
 

【神津里季生のどまんなか直球勝負!】

はびこる「お任せ民主主義」の危険

最近、投票率の低下傾向に拍車がかかっている。さまざまな世論調査を見ると「政治は自分たちとは別世界のこと」とか、「どうせ何も変わらない」といった突き放した見方が広がっている。

「お任せ民主主義」という言葉があるが、本来、民主主義に「お任せ」はあり得ないし、「お任せ」で世の中が回っていくことなど絶対にない。おかしな「お任せ」気分が広がる中で「この道しかない」という政権のプロパガンダに惑わされて、さまざまな重要課題がスルッと決められてしまいかねない危険な状況になっている。

5月中旬には、安全保障関係の法案が国会に提出されると想定されているが、報道内容を見ると自民・公明の与党協議の中身は曖昧さを残したものであり、世論調査で顕著になっている民意の動向とかけ離れている。安倍総理は、特定秘密保護法や集団的自衛権に関して「戦後レジームからの脱却」だと言う。

だがそれは、戦後日本が荒廃から立ち上がり、平和に価値を置きながら、一人ひとりの働く者の努力で築いてきた歩みとは対極にあるものだ。


労働組合が「投票に行こう」と呼びかける意義とは?

この危険な状況から脱するには、「お任せ民主主義」ではなく、一人ひとりの思いを大事にする本来の民主主義を私たちの手に取り戻すしかない。そして、そのプロセスにおいて、私たち労働組合が果たすべき役割は極めて大きいと自覚している。

連合は以前から、組織の内外に向けて「政治に関心を持とう」「投票に行こう」と呼び掛けてきた。こうした活動を全国規模で展開している組織は、連合の他にあるだろうか。

なぜ労働組合がそんなに政治に関わるのかと思う向きもあるかもしれないが、労働組合であろうとなかろうと、みんなが政治に関心を持って投票所に足を運ぶことがなければ世の中はおかしくなる。そして労働組合が、働く者の暮らしを守るための政策や法律を実現しようとすれば、正面から政治に向き合って影響力を行使することこそ王道だ。

それぞれの職場の組合役員が、一人ひとりの組合員に対して、政治に関わることの意義を伝える。そういう地道な活動を通じて「自分たちの運動」「自分たちの政治」という実感を持ってもらえるかどうか。そのことが連合運動の足腰強化のカギを握っている。


「大阪都構想」の落とし穴、「反対」こそ投票へ

―「大阪都構想」の住民投票が5月17日に迫っています

今回の住民投票は「大阪が都になることを決める」投票ではない。投票権を持っている人は「大阪市民」に限られているし、問われていることは大阪市を廃止し5つの特別区に分割するかどうかの一点のみ。だから「大阪都構想」ではなく、「大阪市廃止・分割構想」と言う方が正しい。

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府民のちから2015 事務局

当初の構想の触れこみは、(1)大阪市と堺市などを含めて周辺市域を廃止し、大阪府と一体化することで二重行政を解消する (2)20万〜30万人程度の特別区をつくる (3)大阪府と大阪市の二重行政を解消することで年間4000億円の節約効果が見込まれるということだった。

しかし、堺市などが構想に「NO」を突き付けたことで、大阪市を廃止して分割するだけの話になった。その上、大阪市自身のその後の計算によれば、二重行政に関する節約効果は実際には年1億円程度しかなく、逆に新たな区役所の建設費用などで600億円の初期費用と毎年20億円の費用が発生するという。

多くの大阪市民がこうしたことを知らないまま住民投票が行われようとしている。そのことだけでも大問題だが、投票の仕組みにも落とし穴がある。住民投票の結果は、投票率がどうであろうと、投票した人の中だけで、賛成・反対の多い方で決まるのだ。

「自分は反対だから投票に行かない」という人がいると、まったく民意が正しく反映されない。

3月の共同通信の世論調査でも、「賛成」の人の97.2%が住民投票に「行く」と答えているが、「反対」の人では「行かない」という回答も少なくなかった。また、分割後の区の人口に大きな差がある関係で、府議会議員選挙における1票の較差が極めて大きくなるという。このため、今回の住民投票は憲法違反ではないかと指摘する学者もいる。

この問題は、大阪だけの問題ではない。今回の住民投票が、将来に向かって悪しき前例となるからだ。それに、もしこれが通ってしまえば、橋下大阪市長は国政に打って出てくると言われている。記者会見で橋下市長は「憲法改正は絶対に必要だ。これは安倍総理しかできない。できることは何でも協力するし、都構想はその予行演習だ」と発言している。憲法改正を進めたい安倍総理が橋下氏とタッグを組むことで、来年の夏の参議院選挙に向けて大きな影響をもたらすとも言われているのだ。

メディアを使うことに巧みな橋下市長は、労働組合や公務員をバッシングすることでそれらの本質に無理解な人々の溜飲を下げ、自らの人気を上げてきた。

一方で、労働委員会や裁判所は、大阪市が職員を対象に労働組合活動への関与を調べたアンケート調査や、教職員組合の教育研究集会に小学校の教室を貸さなかった件などに関して、橋下市長の不当労働行為を明確に断じている。

しかし、橋下市長の人気が高いためか、メディアは市長によるルール違反を大きく取り上げていない。そういう違法行為も厭わないかのような暴力的な政治手法に巻き込まれてしまっていいのか。冷静にしっかりと目を向けなければならない。


心に訴えかける取り組みを

一方、連合として、いかに世の中に対して「社会的に広がりのある運動」「社会の共感を呼ぶ運動」を提示できるかということも、真剣に考えていかなければならない。

昨年9月の「敬老の日」に、テレビ東京系列で『緊急特集!ブラック化するニッポン〜使い捨てられる若者たちを救え!』という番組が放映された。タレントのカンニング竹山さんが、古賀会長にインタビューをする場面があったのだが、その直後から連合の労働相談ダイヤルへの電話が鳴り出し、その日だけで300件を超すという「事件」があった。

ホームページのアクセスは急上昇し、励ましのメッセージも頂いた。その経験から学んだことは、自分たちの運動を広く社会に拡散させるためには、これまでの前例のみにとらわれずさまざまな工夫を凝らしていくことが大事だということだ。そんな一つの試みとして、3月には、毎日新聞社との協賛で『こども新聞』(2015はる号)に「しるちゃんとユニオニオンのおしごとQ&A 知ってるかな?働くルール」という記事を掲載した。

今後、専門家のアドバイスも頂きながら、人の心に訴えかけるのに効果的なツールについても研究していきたい。

[4月21日インタビュー]


※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2015年5月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。

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