医学部の新設の必要性と法科大学院の事例

国民の教育の質を向上させるという意味で、大学数を増やすという政策そのものは間違っていませんが、大学の数を増やし過ぎたがために、どうなっているかは皆、いろいろ思うところがあるのではないでしょうか。

『ハフィントンポスト』に「東北地方に医学部新設は必要? 安倍首相が検討指示」という記事が掲載されており、いろいろ興味深かったので、これについて少し。

1 記事の紹介

「安倍晋三首相は4日、復興支援策として東北地方への医学部新設を検討するよう、下村博文文部科学相に指示した」ことを受けて、「被災地の医療を支える人材を育成するために、東北地方に医学部を新設される可能性が出てきた」という記事です。

これについて「東京大学医科学研究所の上昌広(かみ・まさひろ) 特任教授は『人口915万人の東北地方に医学部は6つしかない』として」支持をする論調ですが、そうした意見ばかりではありません。

「約16万人の医師が加入する全国最大の医師団体『日本医師会』」は、「二〇〇八年に政府が医師数増加の方針を打ち出し,医師養成数の増加が図られてきた結果,医師の絶対数確保には一定の目途が付きつつあ」る。

更に「医学部新設には,教育確保のため,医療現場から一大学につき約三百人の教員(医師)を引き揚げざるを得ず,『地域医療の崩壊を加速する』と」反対の立場を表明しております。

他に、弁護士の猪野亨氏も「養成課程に教える人材を取られてしまうということ」を問題とし、法科大学院で問題となった「下位低迷校の私立大学」の「教える内容の水準を問題」にしています。

一方、 現場の医師からは、医師会は「ほぼ開業医の業界団体」で、「土日休診で、地域のお年寄り相手にガッツリ稼ぐという殿様商売をしている連中」なので、「商売敵を増やしたくない」が故に反対しているだけにすぎないという意見も掲載されていました。

2 法科大学院の「失敗」

「失敗」というのは言いすぎかもしれませんが、元記事にも有るとおり、法科大学院の事例は皆思うところがあるのではないでしょうか。

地域の弁護士不足解消などのために、司法試験の合格者数を年間3000人に増やした結果、さまざまな弊害が起こってしまいました。

当初、法科大学院修了者の70~80%が試験に合格する見込みでしたが、実際は20%台まで低下しました。

司法試験の合格者を殆ど排出できない大学も実際にあり、高い金を払って授業を受けた方々は、かなり思うところがあったのではないでしょうか(「夢」のために借りた奨学金と滞納が増加している「現実」)。

地方の弁護士不足は都市部に多く偏在するが故の結果だったわけですが、弁護士の数が増えてもやはりこうした都市部偏重が解消されたとは言い難く、都市部でも訴訟の件数も増えず、司法試験合格者が増えても法律相談所に弁護士として就職することも難しくなってしまいました。

3 競争原理

規制緩和の時のお題目として、ぬるま湯ではだめで、市場(競争)原理を持ち込むことが必要で、競争がおこれば、高くて質の悪いところは淘汰されるので、利用する国民にも大きな利益になるということが言われました。

デフレだったこともあり、確かに値段は下がりましたが、偽装建築問題や深夜ツアーバスの死亡事故に代表されるように、安さだけを追求した結果、より大事な安心・安全が失われてしまったような気がしてなりません。

ある意味、自由経済は競争が確保されてさえいえば「神の見えざる手」によってうまく行くと言われていたのに、大企業の独占や貧富の格差の拡大などにより、有る程度競争を制限せざるを得なくなったのと一緒かと思います。

4 問題の二面性

要は、こうした問題を見るときにどちらの側面から見るかということかと思います。つまり競争原理がない現状を見て憂えるか、競争原理を働かせた結果起こりうる弊害を批判するという話ではないでしょうか。

結論から言うと、物事は皆長所と短所を持っているので、どれでも極端に走りすぎるとおかしくなるという話です。全く競争原理(他人からの批判)が働かなければ、中国の官僚の様に容易に腐敗

かといって、競争で勝つために何をしても良いとなると、これまた中国の事例で恐縮ですが、偽造でも(イタリア政府による中国企業の「イタリア製商品」の取り締まり)、手抜きでも(飛行機の毛布の使い回し)何をしてでも金を設ければ良いという発想の人が出てきても何の不思議もありません。

先に「失敗」と述べた、法科大学院の事例ですが、私は司法試験の合格者を増やすという方向性は正しかったと思っています。要は、合格者の数を増やしすぎたのがおかしくなった原因かと思っています。

国民の教育の質を向上させるという意味で、大学数を増やすという政策そのものは間違っていませんが、大学の数を増やし過ぎたがために、どうなっているかは皆、いろいろ思うところがあるのではないでしょうか(大学の学部・学科に「キラキラネーム」が出てきた理由)。

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