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肉食だと20年後にがんになる?!(大西睦子)

2014年02月17日 15時50分 JST | 更新 2014年04月18日 18時12分 JST

がんを予防するには、まず禁煙、お酒は控えて、野菜をたくさん食べて、運動をして・・・などという話はよく聞きます。でも、そうした日常生活の行動1つ1つが本当にどれだけ発がんと関係があるのかは、いまいち実感できないですよね。それを検証する研究が報告されました。今日の食事が未来のカラダを作っていくのは、やはり間違いなさそうです。

国際協力団体オックスファムがこのほど発表した「ヘルシーな食事」に関する世界ランキングで、日本は対象125カ国中、米国と並ぶ21位でした。ちなみに、1位はオランダ、2位はフランスとスイス、4位は同列でオーストリア、ベルギー、デンマーク、スウェーデンで、以下も上位は欧州勢がほぼ独占しています。

この調査では、食料が十分にあるか、手頃な価格か、品質はどうか、食事による健康効果などが評価項目となりました。米国の問題は、価格は安くても肥満と糖尿病が多い点でしたが、同じく21位の日本に関しては、食品の価格が高いことが特に問題となったようです。

でも、日本の食事は価格だけが問題なのでしょうか? 食事の欧米化と病気の関係は? 気になりますよね。

米国サンフランシスコにあるSunlight, Nutrition, and Health研究所のウィリアム•グラント博士は、食事や生活習慣とがん罹患率の関係についての調査結果を、雑誌『Nutrients」に報告しました。博士は、21種類のがんの罹患率データを持つ世界157カ国(うち87カ国は質の高い死亡データを有する)について、生態学的研究 ※1を行い、これまでの観察研究※2の報告と比較しました。具体的には、研究者間でがんの重要なリスク要因として一般認識されている、喫煙、飲酒、低栄養、運動不足、ビタミンD不足等について検討しています。

William B. Grant

A Multicountry Ecological Study of Cancer Incidence Rates in 2008 with Respect to Various Risk-Modifying Factors

Nutrients 2014, 6(1), 163-189; doi:10.3390/nu6010163

今回は、この結果を皆さんと共有しながら、食事の欧米化と健康に関して考え直してみたいと思います。

【使用データ】

博士はまず、以下の2つの基準に従って、この研究に参加する国を選びました。

1)1992〜1994年における、国際連合食糧農業機関(FAO)の食品供給についてのデータがある国。この理由は、がんリスクに対する食事の影響が現れるまでには、一般に10〜30年の時間差があるからです。

2)統計学的処理のため、1992〜1994年に10万人以上の人口がある国。

結果、計157カ国が両基準を満たしました。さらに、そのうち87カ国はWHOによる分類に基づく質の高い死亡データを有しました。

解析データとしては、世界保健機関(WHO)の外部組織である国際がん研究機関(IARC)の、2008年のがん罹患率データが用いられました。国連食糧農業機関の食物供給データは、1980年までさかのぼり、様々な期間のデータが使用されました。これも、国民の食生活の変化とがん罹患率の変化の間には、10~30年の時間差があるためです。

さらにリスクに影響を及ぼす修飾因子として、アルコール消費量、動物性脂肪の消費量、動物性食品(肉、牛乳、魚、卵等)の消費量、穀物の消費量、国内総生産(GDP)※3、平均寿命※4、太陽からの紫外線-B(UV-B)※5の照射量とビタミンD※6の産生、甘味料の消費量が考慮されています。

喫煙の影響を示す指数として、たばこの消費量が入手できない国もあり、肺がん罹患率が用いられました。肺がん罹患率や肺がんによる死亡率は、生涯にわたる喫煙によるがんへの影響を統合的に示すもので、むしろ喫煙率より良い指標になるのです。太陽からの紫外線-B(UV-B)の照射量およびビタミンD産生は、緯度から計算されました。

【結果】

●動物性食品の摂取

最も相関が強かったのは、乳がん(女性)、子宮体がん、腎臓がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、精巣がん、甲状腺がんおよび多発性骨髄腫でした。原因のひとつは、動物性食品は、「インスリン様成長因子1」(insulin-like growth factor 1、IGF-1)※7というホルモンの産生を介して、体の成長ならびに腫瘍の増殖を促進するためと考えられています。IGF-1に関しては、以前のコラムもご参照ください。

また、動物性食品の消費量とがんの罹患率の変化には、約15〜25年の時間差が認められました。グラント博士はこれを説明するにあたり、例として日本の食生活と体格の変化を取り上げています。昔の日本人は一般的に欧米人よりも身長が低かったのが、若い世代は欧米人と同じくらいの高さです。日本の伝統的な食事では動物性食品は総カロリーの10%程度でしたが、食生活の欧米化に伴って総カロリーの20%程度となりました。と同時に、日本でも、欧米に多い前立腺がんや大腸がん、乳がんの罹患率が、この20〜30年に大幅に増加していることを指摘しています。

●飲酒

大腸がんのリスクに関与していました。

●動物性脂肪の摂取

興味深いことに、喫煙のみならず、動物性脂肪の摂取が肺がんのリスクと関連していました。このことは、20〜30年前の研究で、日本と米国の喫煙率は類似していたのに肺がんの罹患率は米国のほうがはるかに高かったのと一致します。近年の日本で、喫煙率は低下しているのに肺がんの罹患率が増加している理由でもあります。

●甘味料の摂取

脳腫瘍(女性)、子宮体がん、膵臓がんおよび前立腺がんの罹患率に関与していました。

●緯度

UV-BとビタミンDが多くの種類のがんリスクを減らすことが、以前から報告されています。太陽光照射の少ない高緯度諸国ほど、膀胱がん、脳腫瘍、腎臓がん、および肺がん(女性)、悪性黒色腫およびホジキンリンパ腫の罹患率が高くなる傾向が認められました。一方、逆に緯度が低いほど、子宮頚がん、口唇がん、甲状腺がんの罹患率は増加しました。ただし、低緯度地帯では感染症や住環境、調理法の問題などがあり、高緯度地帯と条件が異なることも考慮すべきでしょう。

●国内総生産(GDP)

これまでにも、がんや糖尿病などの慢性疾患のリスク増加と、1人当たりGDPの相関は報告されています。GDPの高い国でがんの罹患率が高い理由は、運動不足、加工食品消費量が多い、平均寿命が長い(次項目)、多くの化学物質による汚染、感染症のリスク低下(相対的がんリスク上昇、長寿化)などで説明できます。

●平均寿命

乳癌や大腸癌などほとんどのがんの罹患率は、平均寿命に伴う増加が認められました。ただ、平均寿命との有意な相関が見られたのは、脳腫瘍と白血病、多発性骨髄腫の3つのがんの罹患率にとどまりました。理由は明らかではありません。

なお、世界保健機関(World Health Organization, WHO)は、がん死亡の約30%はその原因を以下の5つの問題行動に求められるとしています。

・高いBMI (Body Mass Indexボディマス指数)値※8

・果物や野菜の摂取不足

・運動不足

・喫煙

・飲酒

最も重大なのは喫煙で、がんによる死亡の22%、肺がんによる死亡の71%を占めています。

やはり日々の行動や食事を考え直して、心身とも健康的な生活を心がけたいですネ!

※1...生物や人間に関する事象について、研究用の特殊な環境設定の下でなく、自然界あるいは日常環境で生活している集団を対象とし、その環境や他の生物・集団との関係や比較などを中心に研究すること。

※2...疫学研究において、自然の状態の推移を観察して疾病等の原因となる因子などを解析する研究方法。⇔介入研究。

※3...一定期間内に国内で産み出された付加価値の総額。つまり、国内で一定期間(たとえば一年間)に生産された全ての最終財・サービスの総額。

※4...その年に生まれた子供(0歳児)の平均余命、あと何年生きられるかを計算上示したもの。年齢別の推計人口と死亡率のデータを使い、各年齢ごとの死亡率を割り出し、平均的に何歳までに寿命を迎えるかを出す。(厚生労働省による日本人の平均寿命は、ある程度以上の年齢のデータについては除外して計算している。少数の超高齢の人物のデータを算入すると、その生死によって寿命の統計が大きく影響を受けてしまうため)

※5...太陽光線の由来の紫外線のうち、波長が280-315nmのもの。0.5%が大気を通過する。肌の表皮層に作用するが、色素細胞がメラニンを生成し防御反応を取るために、日焼けを起こす。皮膚がん発現のリスクを伴う。

※6...脂溶性ビタミンの一種で、血中のカルシウム(Ca2+)濃度を高める作用がある。ビタミンDが欠乏すると、カルシウム、リンの吸収が進まないことによる骨のカルシウム沈着障害が発生し、くる病、骨軟化症、骨粗鬆症が引き起こされることがある。

※7...インスリンに多構造を持つ物質で、主に肝臓で成長ホルモン(GH)による刺激の結果分泌される。人体のほとんどの細胞、特に筋肉、骨、肝臓、腎臓、神経、皮膚及び肺の細胞に影響を及ぼし、インスリン様の効果に加え、細胞成長(特に神経細胞)と発達、細胞DNA合成を調節する。

※8...身長からみた体重の割合を示す体格指数で、「体重(kg)÷身長(m)の2乗」で求められる。ただ、WHOでは25以上を「overweight」、30以上を「obese(肥満)」としているのに対し、日本肥満学会ではBMI=22の場合を標準体重としており、25以上を肥満、18.5未満を低体重としている。

大西睦子
ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

(2014年1月23日の「ロバスト・ヘルス」より転載)