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運動後の飲酒はトレーニング効果を打ち消す

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運動もせずに酒浸りの生活でいたら、間違いなく不健康ですよね。一方、よく運動し、適量のアルコールを摂取するのは、健康的なライフスタイルとして知られています。それでは、運動後の飲酒はどうでしょうか? ペンシルバニア州立大学(The Pennsylvania State University)の研究者たちは2015年6月、一般に、運動した日には普段より飲酒量が増えることを報告しました。今回はこの論文をきっかけに、運動後の飲酒の問題点をまとめてみたいと思います。

大西睦子の健康論文ピックアップ112

大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。著書に「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側 」(ダイヤモンド社)。
大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートと編集は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

運動すると飲み過ぎる

運動は、しばしば禁酒のストレス発散方法として提案されます。しかしながら、一般的によく運動する人のほうが、運動しない人よりも多く飲酒しているように見えます。これについて、当時ペンシルバニア州立大学教授で現在ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部(Northwestern University Feinberg School of Medicine)教授のデヴィッド・コンロイ博士たちは、18〜89歳の男女150人を対象に運動と飲酒に関する調査を行いました。

David E. Conroy, Nilam Ram, Aaron L. Pincus, Donna L. Coffman, Amy E. Lorek, Amanda L. Rebar, and Michael J. Roche.
Daily Physical Activity and Alcohol Use Across the Adult Lifespan.
Health Psychol. 2015 Jun; 34(6): 653-660.
doi: 10.1037/hea0000157

参加者は、1日の身体活動とアルコール摂取に関して、毎晩スマートフォンに記録していきました。これまでの自己申告調査では、過去30日間の行動を振り返って報告していたため、不正確な記憶やバイアスが生じる可能性がありました。スマートフォンを導入することで、より正確な調査が可能となりました。

調査は1年間、異なる季節で3週間ずつ3回実施されました。その結果、コンロイ博士たちは、参加者の身体活動は木曜日から日曜日にかけて最も活発であり、またこの期間に最もアルコール消費量が多いことを見出しました。全ての身体活動レベル、全年齢層において同じことが確認されました。

コンロイ博士は、ノースウェスタン大学の学内誌に以下のように述べています。
「今後は、なぜ人は運動するとお酒を多く飲むのか解明したいと思います。おそらくは、運動後のご褒美としてより多く摂取してしまうか、もしくは身体を活発に動かしていると、より多くアルコールを消費する機会に遭遇するのかもしれません。私たちが、アルコールと身体活動の関係を理解すれば、アルコールの消費を抑えながら運動を促進する、新たな介入方法を設計できます」
http://www.northwestern.edu/newscenter/stories/2014/09/we-drink-more-alcohol-on-gym-days.html

様々な脱水症状、持久力低下も

運動後にアルコールの摂取量が増えることが、なぜ問題とされるのでしょうか? 米ノートルダム大学のウェブサイトでは、アルコールが体質的に合わない(分解酵素がない)人でなくても、大きく分けて以下の4つの問題点を指摘しています。
http://oade.nd.edu/educate-yourself-alcohol/your-body-and-alcohol/

1)脱水から様々な不快な症状を引き起こします。
2)栄養バランスが乱れ、持久力低下の原因になります。
3)睡眠障害をきたします。
4)トレーニング後の筋肉の合成を妨げます。

まず第1点目、アルコールは、血液中の抗利尿ホルモンの分泌を抑制するため、利尿作用があります。そのため、摂取した水分以上に体から水分が奪われて脱水を引き起こします。ただでさえ運動で水分が失われがちなところに、追い打ちをかけてしまいます。軽度の脱水でも、頭痛やめまい、失神、渇き、顔面蒼白、震え、筋肉の痙攣など、様々な不快な症状を引き起こします。その他、神経過敏や身体能力、認知や感情の機能にも重大な影響を及ぼす可能性があります。体が正しく機能するには電解質が体内で適正なバランスを保っていなければなりません。しかしながら、一定レベルに調節されるべき体内の電解質が、飲酒を原因とする脱水によって影響を受けてしまうのです。

第2点目、お酒を飲むと、味付けの濃い、高カロリーなものが食べたくなる、という方も多いですよね。実際、アルコールには食欲増進作用があります。

ただし、アルコール自体は栄養素は非常に乏しく、カロリーは比較的高くても、筋肉では使われません。

のみならずアルコールは、ビタミンB1やB12、葉酸、亜鉛といった、重要なビタミン・ミネラルの吸収を妨げます。
・ビタミンB1は、赤血球の主成分であるヘモグロビンの形成や、炭水化物、タンパク質および脂肪の代謝に関与します。
•ビタミンB12は、健康な赤血球を作り、神経細胞を維持するのに不可欠です。
•葉酸は、新しい細胞の形成に関与する補酵素です。
•亜鉛は、エネルギー代謝に不可欠です。亜鉛の欠乏は、持久力の低下に繋がります。

第3点目、飲酒は運動の疲れを癒すとの妄想がありますが、実際には脱水が正常な睡眠のリズムを乱し、睡眠周期を妨害すると科学的に実証されています。就寝前に飲酒すると、本来は一定周期で見られるはずの「レム睡眠」、つまり身体は眠っているのに脳は活動している浅い眠りの状態が損なわれます。レム睡眠は、記憶の整理に不可欠とされています。一方、翌日への充電に必要な深い眠りも充分得ることができません。一晩にビール中ジョッキ3杯、日本酒なら2合強以上飲むと、脳と体に3日間影響し、それを2日間続けると5日間影響します。飲酒後48時間は注意力の欠如が見られます。この他、アルコールは気道周りの筋肉を弛緩させ、気道を狭くしてしまうため、いびきも悪化させます。

また睡眠不足で、ヒト成長ホルモンが、通常分泌される量の70%程度まで減少する可能性があります。

筋肉のためには飲まないのが一番

第4点目は、筋肉合成の妨げです。ヒト成長ホルモンは、筋肉の合成と修復プロセスの一部も担っています。その分泌が妨げられることで、筋肉の損傷やケガの回復が妨害されるだけではなく、筋肉の増強も妨げられます。せっかくトレーニングをしても、アルコールでその効果が打ち消されてしまうのです。

これについては2014年2月、オーストラリアの研究者たちが、運動後の過度の飲酒が、筋肉の修復と再構築におけるタンパク質合成を妨げることを実験によって確認しています。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24533082

研究には、8人の身体活動の盛んな男性(平均21.4歳)が参加しました。参加者は、2週間の休止期間で区切られた3回のトレーニング日に、抵抗運動やサイクリングを含む激しい運動プログラムを行い、その後、以下のようなアルコールもしくは比較対照用の水分と、栄養を無差別に摂取しました。
・運動から1~3.5時間後に、30分ごとに、オレンジジュースを水で薄めたもの1杯ずつ、もしくはウォッカのオレンジジュース割り1杯ずつ、合計6杯
・運動直後と4時間後の2回に分けて、プロテイン25gずつ、もしくは炭水化物25gずつ
・運動から2時間後に炭水化物ベースの食事
データ収集のため、血液検査に加え、筋肉の生検を安静時、運動2時間後と8時間後に行いました。

結果、プロテインのみを摂取した場合に比べ、プロテイン+アルコールでは24%、炭水化物+アルコールでは37%、筋原繊維たんぱく質の合成の大幅な減少が見られました。アルコール摂取は、骨格筋を構成しているたんぱく質の合成を抑制し、トレーニング後の筋肉の回復や増強を遅らせてしまうのです。さらに研究者たちは、アルコールが酸化ストレス や炎症を引き起こし、筋肉を収縮させる仕組みを妨害するとも指摘しています。

というわけで、運動の後はキンキンに冷えたビール、といきたい人も多いと思いますが、より速やかな疲労回復と、より多くの筋肉獲得のためには、運動をした日のアルコールは控えるべきですね。また、どうしても飲酒の予定のある時は、運動の時間を早めに設定する、飲酒前に食事をして吸収時間を緩やかにし、影響を和らげる、といった工夫も必要だと思います。

(2015年8月7日「ロバスト・ヘルス」より転載)

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