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食や飲み物の好みは遺伝子が決める!?

2015年07月31日 23時38分 JST | 更新 2016年07月31日 18時12分 JST
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世界中で多くの人に愛されているコーヒー。疲れた時、ほっと一息つきたい時、コーヒーの香りに包まれるだけで、ちょっとした幸福感を味わうこともあると思います。しかし、中にはどうしてもコーヒーが苦手、という人もいます。もし、その理由の一端が、生まれながらにして決まっているとしたら、どう思いますか?

元看護師ライター 葛西みゆき

■ 遺伝子データの分析により、コーヒーをよく飲む人の遺伝子を解明

精神医学の国際誌モレキュラー・サイカイアトリー誌2015年5月号で、国際的な研究グループが、「コーヒーをよく飲む人が持つ8つの遺伝子(うち新しいもの6つ)の存在を発見」という研究成果を公表しました。この国際的な研究グループは、ゲノム全域に渡るメタ解析※を総合的に分析することで、コーヒーの消費と関わりのある「一塩基多型(SNP)」の調査を行っているグループです。

人の遺伝子は、およそ30億個の塩基対(塩基のペア)で構成されており、遺伝情報は、4つの塩基、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の並び方で決まります。しかし、その配列には個人間でわずかな違い(1000塩基対に1つくらいの確率)があり、これを「一塩基多形(以下、SNP)」と呼びます。SNPは、個人間での体質や肌の色などに関わると考えられています。

※ゲノム全域に渡るメタ解析:「ゲノム」とは遺伝子に含まれる遺伝情報のことを指し、1990年代から、ヒトの「全塩基配列(ゲノム情報)を解析する」というプロジェクトが世界規模で行われています。「ゲノム全域に渡るメタ解析」とは簡単に言えば「過去に行われたゲノム解析のデータを元に、統計的な手法で新たな解析を行うこと」です。

■ SNPが1つ増えるたびに、コーヒー消費量も増加

今回の研究では、欧州系の約9万人を対象として、まず関連の深そうなSNP を特定。その上で、さらに欧州系の約3万人とアフリカ系アメリカ人の約8千人を対象として、詳細な検討がなされました。

その結果、「8つの遺伝子座で、SNPが1つ増えるたびに、コーヒーを飲む量が1日当たり0.03-0.14杯 増える」ということが分かりました。このうち6つのSNPは、潜在的にカフェインの薬物動態および薬力学に関与する遺伝子、あるいはその近くに位置していることが分かっていました。しかし他の2つは、それとの関連性が分かっていないものでした。

コーヒーをよく飲むことと関連していたSNPの近くにあるGCKR、MLXIPL、BDNFおよびCYP1A2と呼ばれる遺伝子は、以前から喫煙の開始、脂質異常症、インスリンやグルコースの代謝との関連性が分かっており、その一方で、血圧を下げる、脂質代謝を良好に保つ、炎症を抑える、肝臓機能を助ける、などの働きと関連づけられていました。

研究者たちは「我々の遺伝的な発見は、習慣的なコーヒーの消費量がカフェインの役割を強化し、その薬理学的な面や健康への影響という面で、個体間差を表す分子メカニズムを明らかにするであろう」としています。

■ 「パクチー」の好き嫌いも、遺伝子が握っている?

もう1つ、食の好みと遺伝子にまつわる、興味深い研究を見てみましょう。

2012年11月、海外の研究チームによる、食の好みと遺伝子に関係する研究成果が、Flavourのオンラインジャーナルで公表されました。この研究は、ヨーロッパ人約14000人を対象に「パクチーの匂いに対する感じ方の違いと遺伝子解析」を行ったものです。

パクチーは、「コリアンダー」「香菜」などとも呼ばれ、ベトナム料理やタイ料理で薬味として使われる食材ですが、その香りと味は独特で、世界中でも「好きか嫌いか」という好みがはっきり分かれるそうです。

東京都内にはパクチー専門店が存在しており、愛好家の中には、中毒のようにたくさん食べる人もいるそう。そんなパクチーを「おいしい」と感じるかどうか、実は遺伝子がそのカギを握っている、ということです。

今回の研究で、ヒトが持つ嗅覚受容体遺伝子のうち、11番目の染色体上にあるOR6A2遺伝子に変異がある場合、パクチーの匂いを「石けんのような匂い」として認識することが分かりました。この遺伝子は、パクチーの独特なニオイと関連する「アルデヒド」という臭気物質の代謝に関連するものです。結果的に「パクチーを石けんのような匂いと認識する遺伝子を持つ人は、パクチーを嫌う」という傾向にあることが分かりました。

■ 同じ民族でも好みが分かれる「食」と遺伝子との関係

ここ数年、医療分野では遺伝子レベルでの研究が世界中で行われており、遺伝子と人の生き方との意外な関係が分かってきました。それぞれの人が持つ「体質」や「病気になる可能性」、さらには「薬の効きやすさ」から、人の生存率までも遺伝子が握っている可能性があります。「食や飲み物の好みも実は遺伝子が握っていた」というのは、人の生き方にも関わる、驚きの研究結果なのではないでしょうか。

日本の食文化でも、「納豆」や「わさび」など、好みが分かれる「食」があります。「和食」という文化が世界に広がりつつある現代、いずれは、これらの「食と遺伝子との関係」が、明らかになる日も来るかもしれません。

(2015年8月1日「ロバスト・ヘルス」より転載)

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