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老化のミステリー - 大西睦子

2013年12月18日 22時20分 JST | 更新 2014年02月17日 19時12分 JST

抗加齢、あるいはアンチエイジングという言葉もすっかり一般に定着していますよね。私たちは、「年を取れば皆老化するもの」と当然に思っていて、でも、それに少しでも抵抗したい、抵抗しようという考え方がもはや普通になっています。ただ・・・そもそも老化って何でしょうか??

大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

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2013年も、残すところあとわずかとなりました。時の流れの早さには驚きます。そして2014年になればまた、私たちの年齢に一様にまたひとつ数字が加算されます。近年の大きな関心事である高齢化問題はこうして、他人事ではなくなっていくのですね。

ところで、老化とは何でしょうか? 若い時は丈夫で健康な体が、加齢に伴い衰弱し、死に至る、そんなイメージではないでしょうか。「地球上のあらゆる生物は、人間と同じような老化が避けられないはず」、と考えている方も多いと思います。しかしながら、実は科学的には、老化に関してはまだまだ一貫した説明ができていません。そんな中、「自然界では、老化現象のパターンは、驚くほど予想外の多様性を示す」ことが、南デンマーク大学の研究者から報告されましたので、ご紹介させていただきます。

R. Jones, Alexander Scheuerlein, et al.

Diversity of ageing across the tree of life.

Nature (2013) doi:10.1038/nature12789

Published online 08 December 2013

「老化にともなう衰弱は、自然の法則ではない!自然界では多くの種が、老化とともに強くなり、死のリスクが低下する。全くの老化の影響を受けない種もある」

研究者らは、ほ乳類、植物、菌類※1、藻類※2など、非常に多岐にわたる46の生物種(11種のほ乳類、12種の脊椎動物※3、10種の無脊椎動物※4、12種の植物、1種の藻類を含む)の老化を調査しました。その結果、異なる生物の間では、老化に驚くほどの多様性があることが判明しました。人間やその他のほ乳類、鳥類では、年齢とともに死亡率が高まりますが、赤珊瑚や樫(カシ)の木・楢(ナラ)の木、砂漠のカメなどでは、死亡率は加齢とともに減少します。死亡リスクがゼロになることはありませんが、明らかに加齢に伴って生き残る可能性が高くなるのです。また、ヒドラ※5やヤドカリのように、死亡率が一生を通じて一定のままの種も存在します。彼らの体は一生の間に退化しないので、加齢に伴う老化が存在しないと理解できます。

この多様性は、死亡率だけでなく、生殖能力にもあてはまりました。私たち人間では、女性は人生の限られた期間だけ妊娠することが可能です。同様のパターンは、シャチやチンパンジー、シャモア※6やハイタカのように、他のほ乳類および鳥類などに見られます。一方で、キイロヒヒは年齢の影響を受けることなく、生涯を通じて子孫を持つことができます。

一般的には、生殖能力が終わりの時期に近づくと、体が衰弱し始める傾向があると考えられています。ところが、この理論はすべての生物に当てはまるわけではありません。

私達は、今日では孫を持って祖父母になる年齢まで多くの人々が健康を維持し、死亡率はかなり低い状態にあります。生殖能力がなくなっても、人間はまだまだ長い期間、健康で生存できるのです。そしてその後急速に死亡率が上昇します例えば100歳の日本人女性では、死亡率は、生涯の平均の20倍以上に達します。これはヒトに特徴的で、他の種では、これほど急激に死亡が上昇することはありません。他のほ乳類でも、死亡率はせいぜい生涯平均の5倍に達する程度です。ところが、年齢とともにより繁殖力の高まる種もあります。このパターンは、リュウゼツラン、オトギリソウなどの植物で、特に一般的です。逆に、線虫のように、生殖能力は非常に早い時期に生殖能力を獲得するものの、突然、その能力を失う種もいます。

結論としては、老化のパターンと、種ごとの典型的な寿命の間には強い相関関係がありませんでした。自然界では、年齢にもとづいて、老化を検討する意味がないようです。生命って、可能性に満ちていて、本当に神秘的ですネ!

さて、今年も大変お世話になりました。心から感謝しております。2014年も、皆様の健康のお役に立てるような情報を提供できるよう頑張りますので、どうぞ引き続きよろしくお願い申し上げます!

※1・・・一般に、キノコ・カビ・酵母と呼ばれる生物をまとめたもの。細菌などと区別するために真菌とも呼ばれることもある。外部の有機物を利用する従属栄養生物であり、分解酵素を分泌して細胞外で養分を消化し、細胞表面から摂取する。特に、セルロース、リグニン、コラーゲンといった他の生物にとって分解の難しい高分子を炭素、窒素、リンの低分子化合物に分解することができるので、それらの物質を生態系のサイクルに戻す分解者としての役割を担っている。

※2・・・光合成を行う生物のうち、主に地上に生息するコケ植物、シダ植物、種子植物を除いたものの総称。淡水や海水といった水圏に棲むものが最も多く、他に土壌性のものなどもある。小型のものは、特に水圏では植物プランクトンとして、水中の生態系における一次生産者として重要な位置を占める。大型のもののういち海産のものが海藻で、食用も多く養殖もされている。海藻はある程度の深さにわたって岩に付着して生育し、森林のようになる。それらは生産者としてのみならず、動物のよりどころとして産卵場所、稚魚の隠れ家など、様々な役割を担っている。

※3・・・背骨を持つ動物の総称。具体的には、無顎類、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類(言い換えれば、獣、鳥、両生爬虫類、魚)。以下の特徴を持つ。①多数の椎骨がつながった脊椎(背骨)をもつ。②脳と脊髄(あわせて中枢神経と呼ぶ)をもち、それぞれは頭蓋骨と脊椎に守られている。③ヘモグロビンを含む血液を持つ(極地に生息する魚などに一部例外あり)。④少なくとも一つの半規管を持つ。⑤大型の種が多い。魚類の幼生には1mm以下のものがあるが、成熟時の体長としては最小のものでも6〜8mm程度になる。また、最大の水棲動物(シロナガスクジラ)と最大の陸上動物(現生種ではアフリカゾウ)の両方を含む。

※4・・・脊椎動物以外の動物の総称。つまり、背骨あるいは脊椎を持たない動物をまとめて指す。ホヤ、カニ、昆虫、貝類、イカ、線虫その他諸々の動物が含まれる。

※5・・・浅い池の水草の上など、淡水に棲むクラゲの仲間の無脊椎動物。体は細い棒状で、一方の端は細くなって小さい足盤がある。他方の端には口があり、その周囲は狭い円錐形の口盤となり、その周囲から6~8本程度の長い触手が生えている。体長は約1cm。触手はその数倍に伸びるが、刺激を受けると小さく縮む。触手には刺胞という毒針を持ち、ミジンコなどが触手に触れると麻痺させて食べてしまう。全身は透明がかった褐色からやや赤みを帯びている。

※6・・・ヨーロッパからトルコにかけて生息するウシ科の草食動物(ヤギに近い)。ニュージーランドにも人によって持ち込まれた。体長110-130cm。肩までの高さ70-85cm。体重25-62kg。頭から喉にかけての体毛は白く、眼から側頭部にかけて黒い筋模様が入る。オス・メス共に最大20cm程の黒く短い角を持つ。山地の草原や森林等に生息し、15-30頭程の中規模な群れを形成して生活し、草、木の葉、若芽等を食べる。開発による生息地の減少や、毛皮や食用の乱獲等により生息数は減少している。

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(この記事は、12月19日のロバスト・ヘルス「老化のミステリー」から転載しました)