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揚げ物は要注意!前立腺がんの予防(大西睦子)

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ファーストフードやスナック菓子は、体にあまりよくないイメージがありますよね。大きな理由に脂肪分の高さが挙げられます。確かに食べ過ぎれば過体重や肥満につながって、様々な生活習慣病につながりがちです。ただ、もっと直接的に、がんにつながる可能性がこのほど示されました。「高温の油で揚げる」という調理法そのものに問題があるようです。

前立腺がんの罹患率は、民族や地域でずいぶん異なります。ただし遺伝的要因の違いもさることながら、リスク因子の約58%は環境や生活習慣で占められることが推定されています。

例えば、アメリカへの移民は、一世代で前立腺がんの発症が急激に増加することが挙げられます。前立腺がんは、アジア系の男性では比較的まれですが、アメリカに移住した中国人や日本人の男性は罹患率※1が大きく増加します。背景には、欧米型の食事が前立腺がんの原因となっていることが考えられています。

ところで日本国内でも、ライフスタイルの欧米化や高齢化社会、PSA (prostate specific antigen=前立腺特異抗原)※2と呼ばれる腫瘍マーカー※3検査の普及に伴い、前立腺がんの罹患数が著しく増加しています。厚生労働省の研究班の報告によると、2020年には、男性のがんのうち、肺がんに次いで2番目に罹患率が高くなると予想されています。

欧米型の食事の何が直接関与するのでしょうか? この疑問について、動物実験では、脂肪の取り過ぎが前立腺がんの成長を促すことが報告されました。油脂類※4の過剰摂取は、インスリン様成長因子-1(IGF-1)※5などのホルモン代謝に影響を与える可能性があるためです。ところがヒトでは、油脂類摂取と前立腺がん発症の関係ははっきりしていません。

ただ最近、高温加熱で調理した肉や、よく焼いた肉が、前立腺がんのリスク要因になることが報告されました。さらに、高温で揚げた赤身肉や家禽(鶏、七面鳥、アヒル、ガチョウ、時にはハトやキジなど)が、前立腺がんのリスク要因になることも報告されました。

そこで、米シアトルにあるフレッド・ハッチンソンがん研究所(Fred Hutchinson Cancer Research Center)の研究者らは、非常に高熱にさらされた脂肪や植物油で調理した食品が、緩やかな加熱あるいはそのままの脂肪や植物油の消費に比べて、前立腺がんのリスクに影響を与えると考えました。そこでフライドポテトやフライドチキン、ドーナツなどの揚げ物食品の定期的な消費が、前立腺がんのリスク増加や悪性度の高さと関連しているかどうか、大規模調査を行い評価しました。

Marni Stott-Miller, Marian L. Neuhouser, Janet L. Stanford
Consumption of deep-fried foods and risk of prostate cancer
The Prostate, Volume 73, Issue 9, pages 960-969, June 2013
DOI: 10.1002/pros.22643

対象は、シアトル地域在住の白人・黒人のうち、前立腺がんと診断された男性1549人と健康な男性1492人健常な男性(35~74歳)です。参加者は、油脂で揚げた特定の食品に関する質問を含め、食物摂取に関する食生活のアンケートに答えます。「どのくらいの頻度で、料理にバターやマーガリン、植物油、その他の油脂類を使用してきましたか?」「油脂類で調理された食品を、どのくらいの頻度で食べてきましたか?」といった内容です。

さらに研究者らは、フライドポテト、フライドチキン、魚のフライ、ドーナツ、ポテトチップスのようなスナック菓子、という5つの揚げ物の消費に焦点を絞りました。そして、消費頻度を次のように分類しました;(1)1カ月に1回未満、(2)1カ月に1〜3回、(3)1週間に1回以上。がんの悪性度は、腫瘍マーカーPSAと、グリソンスコア※6と呼ばれる病理学※7上の悪性度※8の分類、局所進展度※9、遠隔転移によって判定しました。

結果は以下の通りとなりました。

フライドポテト、フライドチキン、魚のフライ、および/またはドーナツを少なくとも週に1度以上は食べた男性は、月に1回未満摂取した男性と比較して、前立腺がんのリスクが増大しました。具体的には、フライドポテト、フライドチキン、魚のフライ、またはドーナツを少なくとも週に一度以上は食べた男性は、月に1回未満の男性と比較して、前立腺がんのリスクがそれぞれ37%、30%、32%、35%上昇しました。

さらに、これらの食品を多く消費することが、より悪性度の高い前立腺がんの発症リスクに関与していました。少なくとも週に1度以上食べた男性は、月に1回未満の男性と比較し、フライドポテト、フライドチキン、魚のフライ、ドーナツで、それぞれ41%、30%、41%、38%、リスクが増加しました。

ところでこの調査では、ポテトチップスなどのスナック菓子の摂取量と前立腺がんのリスクとの関連は見られませんでした。理由は不明ですが、研究者らは、おやつに食べるスナック菓子はアンケート記入を忘れられがちで、また過少報告されやすいことを挙げています。

では、どうして揚げ物摂取が前立腺がんのリスク要因になるのでしょうか?

揚げ物は、調理の過程で、潜在的に発がん性化合物を形成することが考えられています。発がん性物質として、次のようなものが挙げられます;①終末糖化産物、 ②アクリルアミド、③ヘテロサイクリックアミンおよび多環芳香族炭化水素など。これらは油の再使用や再加熱とともに増加し、また揚げ時間の長さに伴って増加します。

①終末糖化産物(advanced glycation endproducts:AGEs):
高熱で調理した食品に高レベルで含まれることが報告されている、慢性炎症※10および酸化ストレス※11に関与している物質。慢性炎症は前立腺がんの発症に重要な役割を果たしています。高熱調理法を回避した「低AGE ダイエット」が、慢性炎症および酸化ストレスを減らすことも報告されています。揚げ物のAGE含有量は最も高レベルです。例えば、20分間揚げた鶏の胸肉には、1時間ゆでた胸肉に比べてAGEが9倍以上も含まれています。

②アクリルアミド:
フライドポテトなど炭水化物が豊富な食品の揚げ物で見つかった物質。前立腺がんの原因であることが報告されています。ただし、アクリルアミドはコーヒーにも含まれていて、さらに、今回の結果では、アクリルアミドを大量に含んでいる可能性が高いスナック菓子と前立腺がんとの関連性を見つけることができませんでした。ですからここでは、フライドポテトやドーナツの摂取によって観察された前立腺がんのリスク増加については、単独のアクリルアミドによる可能性は低いと考えています。

③ヘテロサイクリックアミン(heterocyclic amines:HCAs)および多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons:PAHs):
魚や鶏肉も含めた筋肉を高温で調理したときに形成される化学物質です。

これまでに、中国人女性への大規模調査で、揚げた赤身肉と魚を大量摂取すると乳がんのリスクが増加することも報告されています。また、揚げ物の取り過ぎは、肺がん、膵臓がん、頭頸部がん、および食道がんとも関連性が指摘されています。揚げ物はファーストフードなど外食で摂取することが多いと思いますが、これらの食品は週に1度以下に制限するのが理想的です。

例えばフライドポテトの代わりに、ジャガイモは蒸したり焼いたりしてみて下さい。 フライドチキンの代わりに鶏の照り焼きや煮物を、 魚のフライの代わりに軽くグリルした魚や煮付けを、ポテトチップスの代わりにクラッカーを、 ドーナツの代わりにクッキーやケーキ(これらは食べ過ぎに注意ですが)で、代用してみてくださいね。

※1...観察対象集団のある観察期間において、ある疾病の発症頻度を表す指標の一つ。(期間中に新たに発生した症例数)÷(疾患の危険性にさらされる集団の人数)で求められるが、ある特定の疾患の罹患率は極めて小さいため、一般の行政統計等では1000人または10万人当たりの数値で表すことが多い(その場合は上の式×1000もしくは×10万)。

※2...主として前立腺から精液中に分泌されるタンパク質の一種で、射精後の精液の液状化に関係し、受精に欠かせないものとされる。血中にも流れ出ていて加齢にともなって増えるが、前立腺に異常があると血液中に大量に放出されて濃度が高くなる。他の臓器の異常では数値は変わらず、前立腺の異常にのみ反応することから、前立腺に特異的な抗原と言われる。前立腺がんでも数値に反応が出やすいことから、前立腺がんの腫瘍マーカー(※3)として使われている。前立腺がんは初期では自覚症状がほとんどなく、症状が出た頃にはかなり進行していて根治が難しいが、血液を調べるPSA検査の普及で、早期に発見することができるようになった。

※3...がんの進行とともに体液中(主として血液中)に増加し、がんの種類ごとに特徴的かつ測定可能な物質を、がんの存在、進行、勢いを知る指標としたもの。ただし現状では、腫瘍マーカーが陽性でも、特定のがんの存在を立証できるわけではなく、陰性でもがんの存在の否定はできない。従って、治療の経過観察などに有用。

※4...。脂肪酸のグリセリンエステル。水に溶けず、アルコールなどに溶ける。常温で液体のものを油(あぶら)、固体のものを脂(あぶら)・脂肪という。

※5...インスリン様成長因子(IGF-1)は細胞増殖を促進する因子で、インスリンに非常によく似た構造の物質。主に肝臓で成長ホルモンによる刺激の結果として分泌される。インスリンと同じような効果のほか、細胞DNA合成を調節し、細胞分裂を誘発したり、細胞死に関わったりする。正常細胞だけではなく乳がん・大腸がん・肺がんなどでもその関与が指摘されており、前立腺がんのリスク増大にも関わっているとされる。

※6...前立腺がんを組織の状況と浸潤の状況からⅠ~ⅴの5段階で表し、最も多くの面積を占める組織像とその次の組織像をそれぞれスコアで表して合計したもの。もっともおとなしいものは、1+1=2 になり、もっとも悪性のものは、5+5=10 になる。点数が大きいほど悪性度が高いことになり、一般的に6以下はまずまずおとなしいがん、8 以上は、かなり悪性のがんとされている。

※7...病気の原因、発生機序の解明や病気の診断を確定するのを目的とする、医学の一分野。細胞、組織、臓器の標本を、肉眼や顕微鏡などを用いて検査し、それらが病気に侵されたときにどういった変化を示すかについて研究する学問。

※8...がんとしての性質やたちの悪さ。増殖・転移・再発しやすさの程度。悪性度の評価方法の一つとして、グレード分類(組織学的異型度=正常からのへだたりの程度)があり、グレード1、2、3と数が多いほど悪性度が高いことを示したりもする。

※9...ある臓器にできたがんが、その臓器の外に出て接している臓器に入り込んでさらに増殖していく(浸潤)段階にあるがんを、「局所進展(進行)がん」と呼び、TNM分類では、T3かT4の段階。この段階のがんは一部にとどまっていないため、手術や放射線によって完治を目指すことは難しくなる。前立腺がんでは、すぐそばにある精嚢に浸潤することが多いため、早期がんで手術を行う場合は前立腺と一緒に精嚢も全摘出される。前立腺がんはまた直腸や膀胱への浸潤も多く見られるが、このような周りの臓器への転移はCTやMRIなどの画像検査によって確認される。

※10...炎症のうち、進行が緩やかに持続するもの。数年から数カ月続く。炎症症状や血管の充血があり、原因となる刺激が除去されると成長が止まる。細胞の増殖と組織の線維化を特徴とし、修復・機能障害を生じる。経験的に、がんと慢性炎症との間には関連性があることが知られてきており、これまでは主に疫学調査や病理学的側面から研究されてきたが、最近になって分子レベルでの解明が進んでいる。

※11...生体の酸化反応から生じた活性酸素による障害作用と、生体システムが直接活性酸素を解毒したり生じた障害を修復する抗酸化反応との間でバランスが崩れ、前者に傾いた、生体にとって好ましくない状態。すなわち生体組織の通常の酸化還元状態が乱されると、過酸化物やフリーラジカルが産生され、タンパク質、脂質、DNA等が障害されることで、さまざまな細胞内器官が障害を受ける。ヒトの場合、酸化ストレスは様々な疾患を引き起こす。

大西睦子
ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

(2014年2月6日の「ロバスト・ヘルス」より転載)

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