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なぜ、中小企業の社長や地域の世話役は、健康で長生きなのか。

組織のトップは下位の労働者よりも、寿命が長い傾向にある。

2018年01月31日 10時37分 JST | 更新 2018年01月31日 10時46分 JST
Getty Images
(写真はイメージ)

高齢者、地域活動で認知症リスク減 役職かどうかでも差」という研究結果が報じられています(グラフ1)。地域活動が健康や認知機能に良さそうなのはなんとなく想像がつきますが、注目すべきは、「役職かどうかでも差」の部分です。

グラフ1

老年学的評価研究

堀米香奈子 ロハス・メディカル専任編集委員

記事では、その理由について

地域活動の会長や世話役などの役職を務めていた人は、役職なしで活動に参加していた人に比べ、発症リスクが19%低かった。組織内の調整などで、より頻繁に活動に関わることが影響している可能性があるという。

としています。

確かに、「スポーツの会や趣味の会、町内会など、複数の地域活動に参加している人ほど、要顔後リスクが低下する」という先行研究もあります(グラフ2)。この先行研究では、町内会への参加による介護予防効果は、喫煙や飲酒の減少、歩行時間や外出頻度の増加、抑うつ、友人と会う頻度の増加によるものである、ともしています。

グラフ2

老年学的評価研究

ですから、今回の「地域活動で会長や世話役などの役職についている人の認知症発症リスクがより大幅に低下するのは、参加頻度が高いため」という説明は、この先行研究と矛盾しません。

でも、単純に頻度だけの問題でしょうか?

実は、今回報道のあった研究の論文著者である根本裕太氏(早大大学院博士後期課程)に、私も話を伺っています。同氏は、地域活動の役員の要介護リスクがより低下した原因について「参加頻度という量的な側面以外に、運営側に回ることで、メンバー間の日程調整や会の企画など、多様な活動を担うことになる。それらが刺激となり、脳の活動性を高めたのではないか」とも推測しています。

要するに、組織の中で責任を伴う役割を任されることが、脳への良い刺激となり、ひいては高齢期の健康維持につながるのではないか、というわけです。

この推測を裏付ける先行研究もあります。半世紀前から行われている英国の大規模調査の分析でも、「組織のトップは下位の労働者よりも、寿命が長い傾向にある」と、分かっているのです。

1967年~と1985-88~、英国ロンドンのホワイトホール地区(いわば日本の霞ヶ関)の公務員を対象に大規模な疫学調査が行われ、その後何度もデータが更新されています。最初の調査で、最下層の職位に属する労働者は組織のトップに比べて、3.6倍も虚血性心疾患による死亡率が高かったのです。下位に行くほど、上位よりも体重/身長比が高く、高血圧、高血糖、喫煙、運動不足の傾向が見られました。

しかも、約20年後に再度行われた同調査でも、この結果と傾向は概ね支持されたのです。

そう言われてみれば、中小企業の社長さんなど、元気で活き活き、長生き、といったイメージは確かにあります。ただ、組織のトップと言えば、責任は大きく、ストレスも大きいものです。それなのになぜ長寿に? 不思議ですよね。

実際、この結果は大きな議論を呼んだものの、まだ結論は出ていません。当初それは、組織のトップには「裁量の自由」があるため、と考えられました。逆に、どんな仕事を、どんなスケジュールで、どのようにやるか、といったことを選択する自由を与えられておらず、さらにストレスが強く、多くを要求される職務の人は、心疾患を発症しやすい、と言うわけです。

ただ、この考えはその後、別の研究によって否定され、新たに「予見可能性」が重要だとされました。予見可能性とは、具体的には仕事が安定的で急な変更のないことで、低ければストレスは感じやすくなります。たしかに自由裁量が無ければ上からの命令に振り回されることもあり、予見可能性も低くなりがちですが、裁量がなくても予見可能性が高い仕事内容であればよい、というのです。

その他、「自尊心」の高さと心疾患の関係性を指摘した研究もあります。自尊心が高いほど、スピーチなどの際の心拍変動は小さく、急激なストレスに対する炎症反応も小さく抑えられたためです。自尊心と健康は実は密接に関わっていて、ロハス・メディカルでも以前、「化粧をすると健康感が上がる」という事実を紹介しています。化粧や身だしなみを整えることで、周囲の人に褒められたり認められたりして自尊心が満たされ、主観的健康感(自分は健康だ、という意識)が上がるのです。主観的健康感が上がると、要介護リスクが下がることが分かっています。

また、「難しいことをすること」「自分の限界を少し超えるように無理をすること」が大切、と結論付けている研究もあります。マサチューセッツ総合病院のチームが、脳の機能が20代と同レベルの65歳以上の高齢者(「スーパーエイジャー)17人を調べて見出した答えです。そのために推奨することの1つが、「人前でパフォーマンスすること」。たしかに大企業の社長や地域活動の世話役は、人前で話したり指揮を執ったりするのが仕事の一環ですね。

これらは、どれか一つが正解、というよりも、それぞれに関係しあっているように見えます。より多くの条件が揃うことで、ストレスの強い状況もほどよい緊張感に変えられる、ということなのかもしれません。

ちなみに、お坊さん(宗教家)は長寿の職業NO.1なのだとか。お坊さんも生涯現役、なおかつ「大僧正」など高齢になるほどに地位が高まり、安定的で、なおかつ敬われますよね。何種類もある長いお経を覚えたり、多くの知識を頭に入れておいて、人前で唱えなければなりませんが、そうした難しい程よい緊張感になるのでしょう。上に挙げた要素が揃っているように見えます。

日本人の健康寿命を延ばすには、やはり高齢期の働き方にも注目すべきと言えそうですね。

(2018年1月30日ロバスト・ヘルスより転載)

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