定例会議が全て消えた日:日本企業にも是非実施して欲しいシリコンバレー企業の生産性向上対策

ほかのコミュニケーション方法が不十分であると思われる時だけ、会議を開く。
Caiaimage/Paul Bradbury via Getty Images

最近、働き方改革と生産性向上を目的にしたワークショップを日本で行っているのだが、その時に参加者(主には日本企業の中間管理職や技術者)から必ず出るのは、会議に関する苦情である。

会議の数が多すぎる、目的がはっきりしていない、多過ぎる参加者、報告を読み上げるだけで真のディスカッションも意思決定もない、会議室の確保だけでも厳しいということをよく繰り返し聞く。長い間、日本企業の外国人社員を対象に異文化理解セミナーを行ってきたが、その際にも外国人から同様のコメントを受けることが多く、そのため日本人も全く同じ悩みを抱いているというのは興味深い。

このように多くの人が好ましくないと思っている状況が、何故変わらずに今まで続いてきているのかは本当に謎である。複数の学問的な調査も、以下のような明白な事実を挙げている:多過ぎて目的が明確ではない会議は無駄となり、結果的に組織の大きな負担になる。生産性が注目されている現在では、その逆とも言える会議を変える必要性が訴えられている。

その面では、シリコンバレーの企業が良い参考になれる。最近出版した『日本企業がシリコンバレーのスピードを身につける方法』にあるように、少ない資源の中、激しい競争を繰り広げ生き残りに必死になっているシリコンバレーの組織は、無駄をなくすことが非常に上手である。そのため、会議への対策も十分実施されている。

例を挙げるとすれば、クラウド・ストレージのサービスを提供しているドロップボックスが2013年に実施したことだ。これは本当に素晴らしいものであった。それはArmeetingeddon(ミーティングとアルマゲドンをあわせた造語)と呼ばれた。会議が必要以上に溢れてしまったため、この会社の管理職は何とかしてこれを変えなければならないと感じ、その結果、ある日その言葉を題名に入れたメールを会社全員に配信した。その内容はショッキングなものであった。というのは、それは皆のカレンダーから、定例会議が全てなくなったことを知らせたものであったからだ。

事実これは、優先順位を付けるためになされた行為だったそうだ。これにより、今までやっていた各定例会議を復活させるかどうか、その会議の参加者は皆深く考える必要に迫られた。その結果、多くの会議は必要性がないにもかかわらず惰性的に続いてしまっていたことが分かり、その後それが復活されることはなかった。各定例会議を考え直すというのは短期的に見れば不便だと思われたが、長期的に考えると効率を良くする非常に役立つことであったので、最終的に従業員の納得とサポートを得たのだ。

この活動の重要性を強調するため、Armeetingeddonの後の2週間の間は、定例会議の復活が禁止された。その2週間の間、毎日の夜、カレンダーに戻ってしまった定例会議も又削られたのであった。

人間関係を考慮して、多くの人は会議をキャンセルすることを躊躇する。Armeetingeddonはこの問題を上手く避ける形で、誰も今までに考え付かなかった方法により定例会議のスケジュールを真っ白な状態に戻すことを可能にした。削らなかった定例会議は採用活動関連、トップ経営者、そして外部のステークホルダーとのものだった。

会議の数を減らすと同時に、ドロップボックスは会議の仕方に関するガイドラインも導入した。このガイドラインは定例会議だけではなく、全ての会議に当てはまる。

  • 各会議は明確なアジェンダがあるべきだ。「会議のための会議」をしてはいけない。
  • 各会議には、オーナーが必要。オーナーのいない会議は脱線してしまいがちなので、効率的に行うためにもオーナーの存在は欠かせない。
  • 各会議は明確なアクションプランを生み出す必要がある。要するに、会議の場で何かは決められなければならない。
  • 会議に多くの人を招待しすぎない。キーステークホルダーだけに絞って、ただ会議を観察するだけの人は呼ばない。

従業員は自分で責任の下、会議に本当に参加する必要があるかどうかを考え判断することが奨励される。会議に来て、出席しなくてもいいと思ったら、会議室を出ても許される。「会議中に内職するようになっていたら、その会議への出席を考え直した方がいいでしょう」ということまでもが会社の従業員向けサイトに書かれているそうだ。

ほかのコミュニケーション方法が不十分であると思われる時だけ、会議を開く。メールやチャットで済ませられるものだったら、その方法を使うべきだ。

このガイドラインはどのような組織にとっても良いものだと思われる。

Armeetingeddonを実施後2年間がたった時点で、ドロップボックスのサンフランシスコ本社の従業員は3倍になったが、会議室の数は2倍だけになった。会議がもっと短くなり、より生産性の高いものになったそうだ。ドロップボックスの例を真似して、2015年にスラックも同じように定例会議をしばらく中止した。社長のスチュアート・バタフィールドはそれに対し以下のように述べている:「働いている人の日常をもっとシンプルにするよう、皆には頑張って欲しい。そのため、会議を開催するならば、自分の責任の下、どんな結果を求めてそれを開くかを明確に示すべきだ。」

ドロップボックスやスラックのやり方ほどドラスティックではないが、アサナなどほかのシリコンバレー企業は週一日、会議を開催してはいけない日を設定している。ではほかの日に会議が多くなっているのではないかと思う人もいるかもしれないが、アサナの人によればそうではないそうだ。何故かというと、彼らは会議の開催をマインドフルネスの考え方の下行っているからである。マインドフルネスは最近シリコンバレーで注目されている言葉だが、会議関連でとても適切な考え方だと思われる。これは会議を自動的に開催するのではなく、その必要性と内容を良く考慮した上で開催すべきだという考え方である。会議にそのようなスタンスを取り入れたら、日本企業の従業員が背負っている会議の負担を減らすことができるであろう。

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