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なぜ承認欲求と自己愛が問題になるのか?

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 WEB上では「承認欲求」が罵倒語として機能するらしい。

 その背景には、インターネットの双方向性があると思う。「創作」や「歌い手」に対してヘタクソと罵倒したら、じゃあもっと上手いものを見せてみろよと反論される。だから「アウトプットすることそのもの」を罵倒の対象にするしかない。

 ほんとうに歌の上手い人は「歌い手」の承認欲求を罵倒しない。

 音痴だと批判すればいいからだ。

 ほんとうに絵の上手い人は「絵師」の承認欲求を罵倒しない。

 ヘタクソだと批判すればいいからだ。

 誰かの承認欲求を罵倒するのは、相手よりも技量で劣る人だけだ。

 誰かから認められたい、承認を得たい。これは人間としてごく当たり前の感情だ。承認欲求が満たされなければ、人間は心の均衡を失う。

 アルファツイッタラーの@ui_nyanさんが、こんなことをつぶやいていた。

 「承認欲求(笑)」「歌い手(笑)」「創作(笑)」「黒歴史(笑)」みたいな茶々入れが、クリエイターにどれくらい悪影響なのかそのうち語りたい。"そんなの気にすんなよ"ってアドバイスじゃ片付けられない何かがあると思う。中学の英語の授業で、発音が正しいと茶化されるみたいなのに似てる。

 @私がui_nyanだ

 たしかにWEB上では「承認欲求」はあまりポジティブな言葉として使われない。どちらかといえば、相手を小バカにするような罵倒語として機能する。

 これは、とても興味深い事態だ。

 なぜなら承認欲求を満たすことは、悪いことでも、恥ずかしいことでもないからだ。

 たとえば現在の日本では「アイドル」が巨大な流行になっている。AKB48やももクロ、Perfumeが紅白歌合戦をにぎわせ、二次元に目を向ければアイマスとラブライブを二大巨頭にアイドルものが百花繚乱している。

 三次元でも二次元でも、アイドルは「夢を叶えること」が重要なテーマの1つになる。では、彼女たちの「夢」が何を指しているかといえば、トップアイドルになること──すなわち多くのファンから認められることであり、承認欲求を満たすことである。アイドルの少女が「夢を叶えたい!」と口にするのは、「私は承認欲求を満たしたい」と宣言しているに等しい。

 では、アイドルの「夢」は批判の対象になるだろうか。

 罵倒の対象になりうるだろうか。

 一般的に言って、アイドルの「夢」は肯定的な文脈で語られるし、その夢を応援することこそが消費者の楽しみになっている。

 賞賛や承認を介して、自分自身が誇らしさや力強さを感じること。心理学の一分野では、これを「鏡映自己対象によって自己愛を満たす」と言うそうだ。人間にとって、他人は自分を映す鏡のようなものだ。相手の反応によって自己愛は満たされうる。たとえば幼い子供が母親の笑顔に喜ぶのは、もっともプリミティブな鏡映自己対象経験だ。アイドルが舞台に立とうとするのは、この延長線上にある。

 自己愛を満たす方法は、ほかにもある。

 たとえば「理想化自己対象」による方法だ。あこがれたり尊敬したりしていると、自分も誇らしくなったり立派になったように感じられるような対象。または、「尊敬・崇拝していると、力強さや元気さがみなぎってくるように感じられる対象」「その対象に所属していると自覚すると勇気付けられるような対象」のことを、理想化自己対象と呼ぶ。たとえば幼稚園児や小学生は「うちのとーちゃんすげーんだぜ」と父親自慢をする。これは親を理想化自己対象として自己愛を満たそうとしているのだ。企業のカリスマ経営者や、宗教団体の指導者なども理想化自己対象になりうる。

 アイドルに自分を投影して、その活躍に一喜一憂する──。これは理想化自己対象経験と言っていいだろう。アイドルの少女は、しばしば「みんなを元気にしたい」系のセリフを言う。ではなぜファンのみんなが元気づけられるかといえば、彼女を理想化自己対象にすることで自己愛が満たされるからだ。

 さらにもう1つ、「双子自己対象」についても紹介したい。

 自分とよく似た誰かを見つけたとき、私たちは自己愛が満たされる。たとえば仲良しの子供がお揃いの服をねだったり、境遇や趣味の似ている同士がお互いを理解しやすいと感じたりする──。これは双子自己対象経験だ。海外旅行中に日本人と知り合って妙に意気投合してしまう。東京に出てきた地方出身者が同郷の人たちとつるむ。これらもみんな双子自己対象経験と言っていいだろう。スタンド使いは引かれ合うのだ(違)

 アイドルに話を戻せば、ファンは必ずコミュニティを作る。同じアイドルを応援する者同士、親睦を深めようとする。永遠の17歳のあの人のライブ映像を見ると、その一体感に圧倒される。趣味・嗜好を同じくする者同士でお互いの自己愛を満たすのは、双子自己対象経験の典型だろう。

 何度でも繰り返すが、自己愛を満たすことも、承認欲求を得ようとすることも、決して悪いことではない。むしろそれが足りないと、人間は心を病んでしまう。健康な精神を保つために自己愛と承認は必須だ。

 そしてアイドル産業は、ファンとアイドルがお互いの自己愛を満たすことで成立している。アイドル本人は鏡映自己対象としてファンからの承認を求め、ファンは理想化自己対象としてアイドルからの承認を求め、さらに双子自己対象としてファン同士で承認しあう。アイドル産業では「承認欲求」は罵倒語たりえない。

 私がMagic: the Gatheringを素晴しいゲームだと考えているのは、適度な「負ける経験」を与えてくれるからだ。

 MtGに限らない。将棋でもチェスでも、対人ゲームは「負ける経験」をしなければ強くなれない。一部のテレビゲームやソーシャルゲームでは(※カネと時間さえかければ)必ず勝てるのとは対照的だ。1人遊び用のゲームは、どんなものであれ、最終的に勝つのはシステムではなくプレイヤーだ。消費者に勝利経験を与えるため、うまく負けてあげること。これが良ゲーの条件だ。しかし、そういうゲームばかりをしていると「負ける経験」に乏しいまま大人になってしまうだろう。

 なぜこんな話をするのかといえば、「承認欲求」を罵倒語として使う人は、「うまく負けることができない人」ではないかと思うからだ。

 さして歌の上手くない人が、自分よりもたくさん賞賛されている。へたくそなダンスを披露している人が、自分よりもたくさん賞賛されている。そして賞賛されない自分を見つめ直したときに、嫉妬が生まれる。スルーすればいいものを、わざわざ批判的なコメントをせずにいられなくなる。

 「承認欲求」を罵倒語として使う人は、まず「賞賛されない自分」という負けを認めることができない。へたくそな歌い手よりもさらに音痴だという負けを認められない。「踊ってみた」の動画をアップロードする勇気もないという負けを、どうしても認めることができない。だから「アウトプットすること」そのものを罵倒の対象にするしかなくなる。

 ほんとうなら「負けたよ、あんたすげーよ」と言うべきではないだろうか。

 負けた悔しさ、賞賛されない妬ましさを燃料にして、自分を磨くべきではないだろうか。「今日は負けた。でも、いつか必ず勝つからな」と言えることが技能を伸ばすには欠かせない。臥薪嘗胆。負けを認められない人間は、勝つこともできない。

 モノを創ったことがある人なら、誰でも「負ける経験」をしているはずだ。

 圧倒的な才能の持ち主を目撃して、彼我の差に愕然としたことがあるはずだ。自分の稚拙さに気づき、恥ずかしさのあまり死にたくなったことがあるはずだ。チャンスに恵まれた他人を妬むあまり、憎しみに近い感情を持ったことがあるはずだ。夜中に1人、大声を上げて暴れたくなったことがあるはずだ。

 それでも、モノを創ることをやめられない。

 1000回負けた先にある、たった一言の賞賛がほしいからだ。

 誰かに「よかったよ」と声をかけられるだけで救われるからだ。

 他人の承認欲求を笑う人は、自分もアウトプットすることができなくなる。

 笑われるのが怖くなるからだ。

 アウトプットができない人間は、笑われない代わりに、評価されることもない。だから他人の承認欲求を笑う人は、自分の承認欲求も満たせない。永遠に、満たせない。

 なぜ承認欲求や自己愛が問題視されるのか?

 アイドル産業は典型的な例だが、それらは本来、問題でもなんでもない。人間が誰でも当たり前に持っている心の作用だ。では、なぜ問題視され、罵倒の対象になるかといえば、誰かを罵倒することで自己愛を満たそうとする人がいるからだ。なんのことはない、「承認欲求(笑)」とバカにする人自身が、自分の承認欲求を満たそうとしているだけなのだ。

 承認欲求は、もっと健康的かつ建設的な方法で満たしたほうがいいだろう。

 アンリ・ルソーは素朴派の画家として知られている。しかし、彼が本格的に絵画に専念するようになったのは49歳のころだ。

 税関職員だったルソーは、絵画の技法を学んだことがなかった。彼の作品は遠近感に乏しく、人物の顔は今でいう「ハンコ絵」だった。当時、批評家やパリの市民は、ルソーを「日曜画家」と笑っていたそうだ。しかし斬新で力強い彼の作風は、ピカソなどの同時代の芸術家に多大な影響を与えたと言われている。

 なにかを創り始めるのに、遅すぎるということはない。

 時間制限があるとしたら寿命だけだ。

 創ろう。

※あわせて読みたい

鏡映自己対象転移:mirroring selfobject transference

理想化自己対象 idealizing selfobject

双子自己対象 twinship selfobject

(2014年1月5日「デマこいてんじゃねえ!」より転載)

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