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死ぬまでに身につけたい、たった一つの大切なもの。

2013年12月10日 17時16分 JST | 更新 2014年02月08日 19時12分 JST

大学を卒業したばかりの頃だ。

当時の上司から「学生気分が抜けていない」と叱られた。「この会社でやりたいことを見つけて、そこに熱意を注ぎなさい」と言われた。至極もっともな意見だ。たしかに私は、仕事に対してやる気のない、ふぬけた会社員だった。

しかし、彼はちょっと沈黙してから付け加えた。

「......まあ俺も、何をやりたいのかって訊かれたら困るけど」

僕に仕事を頼んでくる人の方が僕の能力や適性について僕以上によくわかっているということ。向こうは僕にならそれができると思うから頼んでくるわけです。


就活についてのインタビュー 内田樹の研究室

やりたいことを見つけられなくても、「会社」が仕事を与えてくれるのならいい。無目的に流されながらでも、それなりに生きていける。しかし逆にいえば、「仕事を頼んでくる相手」は、べつに会社でなくてもかまわない。

大人は、組織に属しなさいという。それ自体は悪いことじゃない、組織の力でレバレッジして、自分一人の時よりもずっと大きなことができる。けれど、組織に「尽くしなさい」と言うのなら、話は別だ。一人では仕事を得られないから尽くすのだ。一人では何も出来ないから、隷属させられるのだ。

そういう人々は、悪目立ちする人間をつぶそうとする。

なぜなら、本当は自分が目立ちたいからだ。

一人で生きていける人間を愚弄する。

なぜなら、本当は自分が一人で生きていきたいからだ。

人間社会でもっとも恐ろしいものは、嫉妬だ。

ちきりんさんが長きにわたって匿名を貫いていた理由がよく分かる。「人間社会で最も恐ろしいのは嫉妬である」ということを、彼女はよく理解なさっていたのだろう。自分がブログの著者であると明かしたら、必ず、嫉妬に狂うやつがあらわれる。足を引っ張ろうとするやつが、あらわれる。絶対にあらわれる。

「承認欲求の時代」なのだと思う。

戦後の混乱期、食料不足の時代には、わずかなカネ・食べ物をめぐって血なまぐさい犯罪が起きていた。今ほど簡単にポルノを入手できない時代には、今よりもずっと凶悪な性犯罪が起きていた。「いま足りないモノ」を考えれば、「いま恐れるべきモノ」が分かる。

誰もが、目立ちたい・ヒーローになりたい......他の誰とも違う「何者か」になりたいと渇望する時代だ。自分が世界に一人きりの特別な存在だと知りながら、その「特別さ」がかんたんには報われない時代だ。だから誰もが嫉妬する。蜘蛛の糸にしがみつく人間を見つけたら、大挙して引きづり下ろそうとする。

体罰を容認する学校教育、不条理な就活システム、理不尽な雇用環境......日本の先人たちは「個性を殺すしくみ」を作り上げてきた。工業化の進む時代に必要なのは「粒ぞろいな労働者」であって、色とりどりの個性を持つ人間は不要だった。そういう時代の遺物によって、私たちは透明な存在にされてしまう。

だから、圧倒的多数の「大人たち」は何者にもなれなかった。「何者かになれる」という発想自体を、バカげたものだと考えていた。私より若い世代の人々でも、この考え方を受け継いでいる人は少なくない。そういう人たちは、やはり、きっと何者にもなれない。

辞令1本で翌日から海外勤務ができる人間って、要するに『その人がいなくなると困る』という人が周りにひとりもいない人間のこと(中略)家族も友人もいない、地域社会でも誰からも当てにされていない。I cannot live without you と言ってくれる人がひとりもいない。
就活についてのインタビュー 内田樹の研究室

これからの世界では、あらゆるモノが「タダ」になっていく。

効率化・情報化・グローバル化によってあらゆるモノの価値は暴落していく。人もモノも知識も、タダ同然になっていく。その時、最後に残るのは創造性だ。個性だ。一人のヒトが「他人と違う」という価値だけは、最後まで残る。ヒトの個性をつぶすことができるのは暴力だけだ。経済的な事象では、個性の価値は毀損されない。

たとえば、それはニコ生の配信者がリスナーからのお布施だけで生きていける世界かもしれない。遠い将来、あらゆるモノがタダ同然で手に入るのだ。「あなたに、そこにいて欲しい」と願う人が、数人いるだけで生きていける時代かもしれない。10万人ではなく、10人のファンがいれば生きていける世界。

いまの人類文明は経済的にそこまで豊かじゃないから、まだ夢みたいな話だ。「Two camels in a tiny car」と言うだけで生きていけるのは、ほんの一握りだけ。いまのネットはToo camelsって感じだ。

(※よし、ウマいこと言った!)

(※ラクダだけど!)

未来は、急にはやってこない。

毎朝、目が覚めるたびに昨日の続きが始まるだけだ。

だけど、「あなたを必要としてくれる誰か」が大切だという点は変わらない。仕事であれ、家族であれ、友人であれ、必要としてくれる誰かがいるから、私たちは生きていける。いまの人類文明がまだ充分に豊かではないからこそ、より濃密な関係が必要になる。ネットのリスナーよりも強く「あなたがいないと困る」と言ってくれる誰かが必要になる。

透明な存在になるのは、もうやめよう。自分の人生を、鮮やかな色で染めよう。「これが私の【運命】だ」と呼べるものを見つけよう。命の使い道を、見つけよう。【運命の果実】を見つけよう。

Penguindrum Collection 1 (輪るピングドラム) [第1話‐12話)

Penguindrum Collection 1 (輪るピングドラム) [第1話‐12話)

きっと何者にもなれないお前たちに告げる。ピングドラムを手に入れるのだ。


生存戦略、しましょうか。

(※この記事は2013年1月13日の「デマこいてんじゃねえ!」より転載しました)