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それでもトランプ大統領は支持される

私たちは「思い込み」に踊らされていないか

2017年08月29日 16時17分 JST | 更新 2017年08月29日 17時42分 JST
Joshua Roberts / Reuters

アメリカは今分断されている

ヴァージニア州シャーロッツビルで発生した白人至上主義を掲げたグループと反対派の衝突。反対派の群集に自動車が突っ込み、女性一人が死亡、19人が負傷した。

この事件を受けて、二日間の沈黙を破ってトランプ大統領はプロンプターを使って声明を発表したが、対応の遅さや白人至上主義を直接的に非難しなかったことから与野党から非難が噴出した。さらに、休暇先で会見を開き、「あらゆる勢力がもたらした憎悪、偏見、暴力は言語道断。最も強い言葉をもって非難する」と発言。またもや、白人至上主義者やネオナチに対する直接的な批判を避けた格好となった。

この対応に与野党双方からの非難はもちろん、事件の発生したヴァージニア州の州知事を始め、政策ほか、各諮問委員会のメンバーが辞任や自主解散を表明する事態となった。弁護士業務の合間を縫ってこのコラムを書いていると、次々とニュースが飛び込んでくる。その度に新しい情報を加えながら書き進めなければならず、まるで報道記者のようだ。

冗談はともかく、トランプ大統領就任以降、アメリカはまるで分断されているような状態にある。

トランプ大統領の一挙手一投足により様々な問題が巻き起こる。アメリカ国民は自由な思想、人種を尊重していたが、問題が発生するたびに、自らの立場や考え方を主張することはしても他者の立場やほかの考え方を受け入れない姿勢が浮き彫りになっている。

ところが、国内外において主義、思想に関しての衝突を引き起こしているにも関わらず、「トランプ大統領の支持者」は国民の約36パーセントを占めているのである。

これは、トランプ氏の大統領就任100日を機にABCニュースとワシントン・ポストが実施した世論調査の結果、支持率約42パーセントから6ポイントマイナスしただけだ。

歴代大統領の平均支持率は69%、不支持率は19%。今回のトランプ氏の支持率は、就任100日前後の大統領支持率としては1945年の調査開始から最も低く、半年後の調査でも歴代最低を更新した。

しかし、これだけ連日世間を騒がしているにもかかわらず、支持率が6ポイントしか減少していないことは特筆すべきではないだろうか。

繰り返すがアメリカの大手企業のCEOが避難しようが、マスメディアが酷評しようが、約36パーセントは選挙戦から変わらずトランプ大統領を支持している。「それでも」トランプ大統領の支持者が大幅に減少しないのはなぜかを考えてみた。

私たちは「思い込み」に踊らされていないか

初回のコラムでも書いたが、マスメディアなどによって私たちが目にすることができた世論調査と大統領選の結果の乖離はなぜ引き起こされたのか。

私たちの「思い込み」による既成概念の取り違えが起きているのではないかと考える。

たとえば、トランプ大統領に異議を唱える人は彼のすべてを否定している。些細なことにも「感情的」にトランプ大統領のしていることだからと批判している。

もちろん、私もヴァージニア州で発生した人種差別に端を発した衝突事件は許しがたいし、人種差別、環境問題、保守・革新、移民問題など、トランプ大統領の考え方には同意できないことは多い。

しかし、トランプ大統領の考え方や政策のすべてが問題ではない。マスメディアや一部のアメリカ国民は「正しいところもある」ことを正当に評価していないとは言えないだろうか。

日本からアメリカへ向かう飛行機で、隣の席に座った白人男性はMBAホルダーの50代。トランプの移民政策や人種差別問題には否定的であったが、こんな風にトランプの政策について語っていた。「私は石炭の動向を見守っている。民主党は規制が多すぎて経済活動を鈍くしている節がある。トランプのお手並みをみたいところだ」と。

彼との会話は非常に有意義だった。では、私も私的な感情を排して、トランプ大統領とアメリカの現実を客観的に見たときに、「それでもトランプが支持を集める理由」を挙げてみる。

真のリーダー不在

単なる共和党と民主党の対立も政権への支持率に直結するうえ、両政党のリーダー不在の状況も、支持率現状維持を助長していると考える。民主党はメッセージを欠いている。共和党やトランプを否定するだけで、自らのビジョンや政策が伝わってこない。選挙戦ではサンダースが善戦したが、結局党内での戦いでクリントンに破れた。野党に真のリーダーが存在しないし、主義主張も伝わってこないのでは、政権交代の後押しにはらならいだろう。

一方で、人種差別の撤廃を謳ったリンカーン大統領を輩出したのは共和党であるが、徐々にその考えは薄れ、今回、同党から選出した大統領は今や差別や人種間の軋轢をさらに助長している。加えて、ホワイトハウスや政権の首脳陣の退任が相次ぎ、今や現政権には共和党不在ともとれる状態となってる。

マスメディアのゆがみは追い風になっているのか

マスメディアとの対立はご存知の通りだ。選挙戦中も世論調査や報道はトランプを否定する内容が多かった。このことから、特定のマスメディアを名指しでフェイクニュースだとののしったり、大統領がSNSから情報発信し、マスメディアがその情報をもとに後追い取材をしているような状況に陥っている。

例えば、トランプ大統領がSNSで引用した風刺画が「不謹慎」だと非難を浴び、削除された。 「フェイクニュースはトランプ列車を止められない」と題して、CNNに見立てた人を列車がひく風刺画を引用。これは、今回のヴァージニアの事件を連想させる等と批判が相次いだことは記憶に新しい。「不注意で引用」とホワイトハウスが釈明するも、大統領としては実に軽率な行動である。

一方で、マスメディアに情報を提供しないことから、彼らが躍起になってニュースを探している。例えば、トランプ大統領の就任直後に行ったメキシコのペニャニエト大統領、そしてオーストラリアのターブル首相との電話会談の様子をリークされた。このようにホワイトハウスのスタッフをコントロールできずに、マスメディアへ機密情報が漏れている。マスメディアにとってスクープを報じることができるのは喜ばしいことであろう。

しかし、ホワイトハウスとの確執によって、このスクープを報じることによって、あるいは報じ方によって社会的にどんな影響をもたらすかをプライオリティと考えたかが気がかりである。漏れ出した機密情報によって国家を危険にさらしかねないからだ。

私たちが得る情報には客観的情報と意図的情報の二つに大別できる。マスメディアが5W1Hを基本とする客観的情報を提供している一方で、報道の役目の中には市民が知りたいことを報告することや、主義主張を自由に報道する権利もあるのだからマスメディアが提供する情報の中には意図的情報も含まれていると考えるのは容易だ。

つまり、マスメディアが証拠として取り上げている支持率や彼の政策や行動ついての報道は事実だったとしても、表現が否定的であることは否めない。その報道に使われる文言などが否定的であることが、支持者(トランプ大統領に好意を持っている)にとってはより「フェアではない報道」という印象を与えているように思う。

トランプ支持者は差別主義が多いのか

トランプ大統領の支持者すべてが差別主義者とは限らないし、あるいはその逆も言えないが、彼の支持者には差別主義者が目立つ。

例えば、人種差別主義で言えば、大統領選では、米白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」の元最高幹部、デービッド・デューク氏からの支持表明をトランプ氏が拒否しなかったことから、非難を集めたこともあったし、前述のとおり、ヴァージニア州での衝突においても、白人至上主義者を強く非難することを避けていることから、トランプ大統領にとって白人至上主義者はすくなくとも隅に置けないことがわかる。

ところで、社会学者アーリー・ホックシールド教授がディープサウスの保守的なルイジアナ州の一般的な市民を取材し、彼らが保守主義に傾いていく実態をレポートしている。ベストセラーとなった著書の中で、彼女はアメリカがリベラルに傾いていく中で、ルイジアナの保守的な人々は、自分たちが犯罪者のように扱われ、逆に差別を受けていると感じていると報告している。

人種差別のない、多様性を認める風潮がアメリカ全土を席巻する中で、トランプ大統領を支持する人の多い中西部、南部の、中でも保守的な考えを持つ市民にとっては、トランプ大統領の移民政策や発言は自らを代弁してくれているような心強さを感じているのだろう。

実は、物事はもっとシンプルで、トランプ大統領支持者は自分の生活を守りたいだけで、差別を第一義としているわけではないのかもしれない。

例えば、比較的学歴の低い白人男性が自分の仕事を奪われるのではないかという不安から移民を排除しようとするのは、移民に対する直接的な差別というよりも、アメリカ人かそうでないかという考え方に基づいたもので、アメリカ国民としての権利を守りたいという発想だと思うし、前述の中西部、南部の敬虔なキリスト教徒などの保守的な市民は自分の主義主張を守りたいだけなのかもしれない。

そして、トランプ大統領を支持する一定の資産家たちは「税金」に関して思うところがあり、民主党が政権をとると彼らの税金が跳ね上がるから、共和党を支持しているのだとも考えられる。そう。「自分の生活を守りたい」のだ。

多様性を重視する世相において、私たちは「今の自分の生活を優先したい人」が存在することを忘れてはいけない。トランプ大統領のことを好かなくても、彼の政策を都合よく捉えている人がいることも忘れてはいけない。