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トランプ大統領が持つ、少年野球の監督のような「危険な親しみ」

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大統領選挙で勝利を収めたドナルド・トランプ氏には、「危険な親しみやすさ」がある。

私が8歳ぐらいの時だろうか。アメリカ南西部のリトルリーグ(少年野球)のチームに入っていた。そこの監督が、トランプ氏のような雰囲気を醸し出していたのだ。だらしない体型に、汚い野球帽。ミスをすると口汚く「日本人はスシばっかり食ってるから打てないんだ」。勝ったときも「俺はビールで乾杯だが、おまえはグリーンティ(緑茶)とワサビだろう」

しかし、なぜか私にはバッターボックスから彼に見守られているという安心感があった。ヒットを打てば、本当にうれしそうに駆け寄ってきて、「great」「fantastic」「amazing」(和訳をすれば「すばらしい」「すばらしい」「すばらしい」)と言ってくるのだ。


■「チアアップがうまい」

マルチ・タレントのダニエル・カールさんは、共和党を支持し始めた「原体験」として、レーガン元大統領の次のような魅力を、ハフィントンポストの取材に対して答えている。

《レーガンの一番良かったところは、ポジティブシンキングだったことなんですね。(中略)国民を励ましながら、落ち込んだ気分を引き揚げてくれたんだな。》

リトルリーグの監督もトランプ氏も、チアアップ(励まし)がうまい。アメリカは、特にオハイオ州、ミシガン州など、産業が衰退した「ラストベルト(さびついた工業地帯)」に住む人たちは、励ますオヤジを待っていた。「おまえたちは悪くない。強いアメリカを取り戻そう」「おまえたちは、すばらしい」と。今回の選挙を機に、たとえばオハイオ州のトランブル郡では、トランプ氏の支持などのため、共和党員が1万4千人から3万2千人に増えたそうだ。


■トランプ氏に刺激された「独立心」

トランプ氏に励まされたのは、「普通の個人が、自立して生きる」ことにこだわるアメリカ人たちだ。そもそもアメリカは、17世紀に、身分制社会で宗教弾圧もあった窮屈な英国から抜け出した清教徒(ピューリタン)が核になって作られた国だ。自分で土地を耕し、自分でお金を稼ぎ、信仰と経済の自由を勝ち取ってきた。

殺人事件が後を絶たなくても、銃を持ち続けるのは「自分の身は自分で守る」ため。アメリカという国全体(連邦政府)の政策より、州ごとのルールを大事にするのも「地元のことは地元で決めたい」ためだ。

そんな自尊心は、共和党や民主党に限らず、多くのアメリカ人から感じ取ることができる。そして彼らは、今日まで自分たちの足で立って生きてきたつもりだった。にもかかわらず、職を奪われ、医療費も払えなくなり、将来の生活費も底をついている。

惨めな思いをさせているのは誰だ。偉そうにしている「連邦政府」や「議会」のせいであり、国の政治のど真ん中に居続け、金権政治のにおいがつきまとうヒラリー・クリントン氏のような「エリート」のせいだーーそんな風に思う彼らに「独立心」を取り戻させた(ようにみせている)のが今回のトランプ氏だった。


■起業家、トランプ氏の輝き

トランプ氏は、かつてのオバマ大統領以上に、ネットをうまく活用した。大手メディアや大物政治家に馬鹿にされても、深夜や早朝にも関わらず、Twitterで反論をしつづけ、1400万のフォロワーに自分の言葉を伝えてきた。怪しげなサイトや論客も含めて、マイナーな情報やデータにも言及し、みんなで既存の権威に立ち向かっているような気にさせた。

いま、世界ではウェブページの総数は60兆を超え、ネットユーザーは世界で32億人に達している。ネットで情報がタダで手に入ることによって、マスメディアや大手出版社は苦境に陥った。ネットでつながった個人が車でお迎えに来たり、空いている部屋を貸してくれたりできるようになり、タクシーやホテル業界が苦しんでいる。弱い消費者であっても、クレームをネットに投稿するだけで大企業を追い詰めることができる。トランプ氏に眉をひそめる人も、そうした「破壊的な革命」には喝采を送ってきたはずだ。

事業家ということもあるだろう。トランプ氏の「破壊者」としての側面はどこか輝いている。選挙を通して、21世紀のネット的な「個人の力で大きな勢力に対抗する」ことをうまく体現させていたのだ。
 

■「スシ」や「ワサビ」と言われて

個人の力を信じ、テクノロジー端末もうまく使う。なんだかとてもスゴイ人物に見える。が、結論を急ぐ前に、少しトランプ氏から離れてネットのことを考えてみたい。

ネットで私たちは力を手に入れたといえるものの、同時に、利用されてもいる。ケヴィン・ケリー『<インターネット>の次に来るもの』(NHK出版)で指摘されているように、「(Googleは)AI(人工知能)を使って検索機能を改良しているのではなく、検索機能を使ってAIを改良している」

私たちがウサギや猫をネット検索して、それに合った画像をクリックするたびに、Googleの人工知能に「ウサギ」や「猫」がどういう姿であるかを教えている(そして将来、彼らをもうけさせる)。ネットで何か買い物をするたびに、どこかの企業に自分たちの個人データをマーケティングデータとして渡している。

トランプ氏に話を戻そう。彼は、今回の選挙をかき乱すことによって、世の中にさらけだした「個人の怒り」をどのように生かしていくのだろうか。Googleにそういう面があるように、個人が集積した膨大な力を「利用」していくのか。大統領を誕生させて「民衆のパワー」を自尊心を満たすためだけに使い、将来の不動産ビジネスに使うのか。チアアップして、その気にさせてしまった支持者たちをどうまとめるのか。前途は多難である。

あるいは、彼を支持した人たちは、「ローマ法王がトランプ氏を支持した」などの偽ニュース情報をTwitterやFacebookでシェアし続けた。そんな「嘘の情報」に突き動かされた個人の力も、トランプ氏当選の源泉になった。

冒頭、私はリトルリーグの監督のことを語ったが、もしかしたらそれは美化された思い出なのかもしれない。「スシ」や「ワサビ」と呼ばれた息子を、同じく野球の試合を見ていた父親はどう思っていたのだろうか。あるいは爆笑していたチームメートたちは、私と一緒に笑っていたのではなく、黄色人種の私「を」笑っていたのかもしれない。トランプ氏のジョークにニヤリとした白人男性は、同じ国に生活しているメキシコ人や女性に思いをはせたのだろうか。

いま、アメリカにとって、そして同様に現代社会を生きる私たち日本人にとって必要なのは、悪口まじりの「カラ元気」のチアアップやカンフル剤ではなく、あるいは個人の力を過剰に信じて既存組織に片っ端からけんかを売ることでもなく、静かで、もっと冷静な革命であると私は思っている。それがどんな姿をして、誰がリーダーであるべきなのか。ヒラリー・クリントン氏は最後まで分からなかったようなので、その問いは、トランプ大統領の新世界を生きる私たちが、受け継いでいくとしよう。